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044-455-7500こうした困りごとが続くと、「自分はADHDなのではないか」と考える方もいらっしゃると思います。
しかし、集中できない、忘れっぽい、落ち着かないという症状があるだけでADHDと診断されるわけではありません。
ADHD(注意欠如・多動症)は神経発達症の一つです。
そのため診断では、現在の症状だけでなく、子どもの頃からの経過、家庭や学校・職場など複数の場面での症状、実際の生活上の支障、そして他の病気によって症状が説明できないかを総合的に評価します。
また、ASRS、WURS、CAARS、WAISなど、ADHDの診療で用いられることのある検査や質問票がありますが、どれか一つの検査だけでADHDを診断することはできません。
そのため、大人のADHDがどのように診断されるのかを順番に説明します。
DSM-5-TRでは、ADHDの中核症状は大きく、
「不注意」と「多動性・衝動性」の2つの領域に分けられています。
代表的には次のような症状があります。
| 不注意の症状 | 日常生活でみられる例 |
| 細かいことに注意を払うことが難しい | ケアレスミスが多い |
| 注意を持続することが難しい | 会議や読書に集中し続けられない |
| 話を聞いていないように見える | 話しかけられても内容が頭に入らない |
| 指示に従い最後までやり遂げることが難しい | 仕事を途中で放置してしまう |
| 整理することが苦手 | 書類や予定を整理できない |
| 持続的な精神的努力を避ける | 面倒な事務作業を先延ばしする |
| 必要な物をなくしやすい | 鍵、財布、書類などをなくす |
| 気が散りやすい | 周囲の音や通知に注意を奪われる |
| 忘れっぽい | 約束や予定、支払いなどを忘れる |
代表的には、
| 多動性・衝動性の症状 | 日常生活でみられる例 |
| 手足をそわそわ動かす | 座っていても身体を動かしている |
| 座っていることが難しい | 長時間の会議などが苦痛 |
| 落ち着かない | 大人では内面的な落ち着かなさとして現れることもある |
| 静かに活動することが難しい | 常に何かをしていたくなる |
| じっとしていられない | 休むことが苦手 |
| 過度に話す | 話し続けてしまう |
| 質問が終わる前に答える | 相手が話し終わる前に答えてしまう |
| 順番を待つことが難しい | 待ち時間に強い苦痛を感じる |
| 他人に割り込む | 会話や活動に割り込んでしまう |
などがあります。
成人では、子どものような目立つ身体的多動が減り、「頭の中がいつも忙しい」「何もせず休んでいることが難しい」といった内面的な多動性として現れる場合があります。
DSM-5-TRでは、成人(17歳以上)の場合、
不注意:5項目以上または
多動性・衝動性:5項目以上
が少なくとも6か月間持続していることが診断要件の一つです。
しかし、
「5項目当てはまった=ADHD」
ではありません。
成人ADHDの質の高い診断評価では、DSM-5-TRの18症状について、現在の成人期だけでなく小児期についても一つずつ確認することが推奨されています1)。
症状数以外にも、非常に重要な条件があります。
ADHD診断で確認する主なポイント
| 項目 | 確認すること |
| 症状数 | 成人では不注意または多動性・衝動性が5項目以上 |
| 期間 | 少なくとも6か月持続している |
| 発症時期 | 12歳になる前から複数の症状が存在している |
| 生活場面 | 家庭、学校、職場など2つ以上の状況で症状がある |
| 機能障害 | 学業、仕事、家庭、対人関係などに支障がある |
| 鑑別 | 他の精神疾患などだけでは十分に説明できない |
大人のADHDの診断で非常に重要なのが、発達歴です。
ADHDは神経発達症であるため、
「30歳になって突然ADHDになった」
というように考える疾患ではありません。
DSM-5-TRでは、12歳以前にいくつかのADHD症状が存在していたことを確認します。
成人ADHDの評価についてまとめたレビューでも、現在の症状だけでなく、12歳以前の症状や機能障害について遡って評価することの重要性が指摘されています。
しかし、大人になってから、
「小学2年生の頃はどうでしたか?」
と聞かれても、正確に覚えていないこともあります。
そのため、可能であれば、
本人の記憶、家族からの情報、学校の通知表や記録など
を組み合わせて評価します。
たとえば通知表に、
などの記載が繰り返し認められる場合には、発達歴を判断する一つの参考になります。
ただし、昔の通知表が残っていなければADHDを診断できない、ということではありません。
大人のADHDの診断では、症状の数だけでなく機能障害(functional impairment)が重要です。
誰でも、
という経験はあります。
そのため、
その特徴が年齢や発達水準に比べて強く、持続的であり、実際の生活に支障を生じているか
を評価します。
たとえば、忘れっぽいだけではなく、
重要な仕事を頻繁に忘れる
↓
仕事上のトラブルを繰り返す
↓
職業生活に継続的な支障が生じている
というところまで確認します。
仕事だけでなく、学業、家事、金銭管理、夫婦関係、対人関係など、複数の生活領域を評価することが大切です。
成人ADHDでは、大人になるまでの経験の中で、自分の苦手なところを補う方法を身につけていることがあります。
たとえば、
などです。
このような代償戦略(compensatory strategies)によって、表面的には問題がないように見える場合があります。
成人ADHDに関するレビューでも、こうした代償によって症状が見えにくくなり、診断が遅れる可能性が指摘されています。
そのため、
「できているか」
だけでなく、
「それをできる状態にするために、どれだけの工夫や努力を必要としているか」
を見ることも成人ADHDの評価では重要です。
不注意や集中困難は、ADHDだけにみられる症状ではありません。
たとえば、
うつ病、不安症、双極症、睡眠障害、物質使用症、他の神経発達症
などでも、集中力低下、落ち着かなさ、衝動性などがみられることがあります。
また、ADHDと他の精神疾患が併存している場合も少なくありません。
「集中できない=ADHD」
と考えるのではなく、その症状がいつから始まり、どのような状況で現れ、他の病気で説明できないかを検討することが重要です。
成人ADHDでは、DIVA(Diagnostic Interview for ADHD in Adults)のような半構造化診断面接が用いられることがあります。
DIVAでは、ADHD症状について成人期と小児期を具体的な生活上の例とともに系統的に確認します。
DIVA 2.0の妥当性研究では、別の構造化診断面接CAADIDとの良好な一致が報告され、WURSなどの自己記入式尺度との関連も確認されています2)。
さらに、成人精神科患者108人を対象とした研究では、DIVA 2.0はADHDと非ADHDを区別するうえで感度90.0%、特異度72.9%を示しました。
一方、同研究で調べられた神経心理学的検査単独の識別能力は十分ではありませんでした3)。
このことからも、診断面接が中心であり、心理検査はそれを補助するものと考えることが重要です。
ASRS(Adult ADHD Self-Report Scale)は、大人のADHD症状を本人が回答する質問票です。
臨床では、大人のADHDの可能性を評価するためのスクリーニングや症状評価に利用されます。
Brevikらは、成人ADHD患者646人と一般対照908人を対象にASRSとWURSを検討しました。
ADHDと対照群を識別するROC曲線下面積(AUC)は、
ASRS:0.904
ASRS短縮版:0.903
でした4)。
ただし、これは「ASRSだけで大人のADHDを確定診断できる」ことを意味するものではありません。
スクリーニングでADHDが疑われた場合には、その後の詳細な診断評価が必要です。
WURS(Wender Utah Rating Scale)は、大人が自分の小児期のADHD関連症状を振り返って評価する尺度です。
先ほどのBrevikらの研究では、
WURS:AUC 0.956
と良好な識別性能が認められました。
さらに、
WURS+ASRS:AUC 0.964
となり、小児期を振り返るWURSと現在の症状を評価するASRSを組み合わせることの有用性が示唆されています4)。
ただしWURSは、大人が過去を振り返って回答する回顧的尺度です。
したがって、
WURS=小児期ADHDの確定診断
ではありません。
本人への発達歴の聴取、家族からの情報、学校時代の記録などと組み合わせて解釈することが大切です。
CAARS(Conners’ Adult ADHD Rating Scales)は、成人期のADHDに関連する症状を詳しく評価するための尺度です。
ASRSを比較的簡便なスクリーニングとして考えるなら、CAARSは成人期のADHD症状や関連する問題を、より詳細に把握するための補助尺度と位置づけると分かりやすいでしょう。
ただしCAARSについても、
「一定以上の点数=ADHD」
という使い方をするものではありません。
うつ病、不安症、睡眠障害などでも、不注意や集中困難などADHDと重なる症状が現れる可能性があるため、臨床面接や鑑別診断と合わせて解釈します。
ADHD診療で特に誤解されやすいのが、
WAIS(Wechsler Adult Intelligence Scale)
です。
結論からいうと、
WAISは大人のADHDを診断するための検査ではありません。
WAISでは、知的能力や認知機能のさまざまな側面を評価します。
ADHDの方の中には、ワーキングメモリーや処理速度などに相対的な弱さを示す方もいます。
しかし、そのようなプロフィールはADHDに特異的なものではありません。
逆にWAISでワーキングメモリーや処理速度が良好だからといって、ADHDを否定することもできません。
大人のADHDの診断精度を検討した研究でも、神経心理学的検査単独ではADHDと非ADHDを十分に識別できないことが示されています3)。
また、2024年のAQASでも、現時点ではADHDを診断するのに十分な感度・特異度を持つ認知検査や神経画像検査はないとされています。
WAISの意義は、ADHDかどうかを決めることよりも、
「その人の認知的な得意・不得意を理解する」
ことにあります。
認知特性と実際の日常生活上の困難を照らし合わせることで、学習、仕事、生活環境などにおける支援を考える参考になることがあります。
したがって、
WAIS=ADHD診断検査
ではなく、
WAIS=認知特性を理解し、支援を考えるための補助的な検査
と考える方が適切です。

大人のADHD診断 = ASRS + WURS + CAARS + WAIS
というものではありません。
診断の中心にあるのは、あくまでも臨床面接と発達歴、現在の症状、生活上の機能障害、そして鑑別診断です。
各種質問票や心理検査は、それぞれ異なる角度からその判断を補助します。
成人ADHDの診断で大切なのは、検査結果だけを見ることではありません。
こうした情報を時間軸に沿って丁寧に確認し、総合的に判断することが成人ADHDの診断では重要です。
診断の目的は、単に「ADHDという名前をつける」ことではありません。
その人がなぜ困っているのかを理解し、その人に合った治療、環境調整、生活上の工夫につなげることが重要です。

・1)Adamou M, et al.: The adult ADHD assessment quality assurance standard. Front Psychiatry, 15:1380410, 2024.
・2)Ramos-Quiroga JA,et al.: Criteria and Concurrent Validity of DIVA 2.0: A Semi-Structured Diagnostic Interview for Adult ADHD. J Atten Disord, 23: 1126-1135, 2019.
・3)Pettersson R, et al.: Diagnosing ADHD in Adults: An Examination of the Discriminative Validity of Neuropsychological Tests and Diagnostic Assessment Instruments. J Atten Disord, 22: 1019-1031, 2018.
・4)Brevik EJ, et al.: Validity and accuracy of the Adult Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder (ADHD) Self-Report Scale (ASRS) and the Wender Utah Rating Scale (WURS) symptom checklists in discriminating between adults with and without ADHD. Brain Behav, 10: e01605, 2020.
