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044-455-7500ADHD(注意欠如・多動症)というと、
といった特徴がよく知られています。
しかし、ADHDの日常生活上の困難を理解するうえで、もう一つ重要なのが実行機能(executive function)です。
実行機能とは簡単にいえば、
「目標を達成するために、自分の考えや行動をコントロールする能力」
です。
ADHDでは、この実行機能の一部に弱さがみられることがあります。
たとえば、「来週までにレポートを提出する」という目標があるとします。
レポートを完成させるためには、
という多くの処理が必要です。
この一連の「脳の司令塔」のような働きが、実行機能です。
実行機能は一つの能力ではありません。
研究によって分類方法は異なりますが、ADHDとの関連で特に重要なのは次のような機能です。
もちろん、すべてのADHDの人にこれらすべての問題が認められるわけではありません。
ADHDと実行機能の関係を検討した代表的な研究が、Willcuttらによる2005年のメタ解析です。
83研究を統合し、
を比較しました。
その結果、ADHD群では検討されたすべての実行機能課題で有意な弱さが認められ、効果量は概ね中等度(0.46~0.69)でした。
特に強く、一貫した違いが認められたのが、
でした。

Boonstraらの成人ADHDを対象としたメタ解析では、13研究が検討されました2)。
成人ADHDでは、
など、中等度程度の群間差が報告されています。
ただし、この研究では実行機能以外の認知領域にも差がみられました。
そのため、成人ADHDの認知的特徴を「すべて実行機能障害で説明できる」わけではないことにも注意が必要です。
実行機能を理解すると、ADHDでしばしばみられる、
「やらなければならないことは分かっているのに、なぜかできない」
という状態を理解しやすくなります。
たとえば部屋を片づける必要があることは十分理解しています。
しかし、
という複数の判断が必要になると、行動を開始すること自体が難しくなることがあります。
そこでスマートフォンを見るなど別の行動に移り、結果的に片づけが先延ばしになります。
これは「片づける必要性を理解していない」こととは異なります。
ワーキングメモリとは、情報を一時的に頭の中に保持しながら、それを使って作業する能力です。
たとえば、
「2階へ行って、書類とスマートフォンを持ってきて、そのあとメールを送ろう」
と思って2階へ行ったのに、「何を取りに来たんだっけ?」となることがあります。
仕事でも、
ということが起こり得ます。
Willcuttらのメタ解析でも、ワーキングメモリはADHDとの比較的一貫した関連が認められた領域の一つでした。
私たちの脳には、何かに反応したくなったときに、
「今はしない」
と行動を止める機能があります。
これが抑制制御(inhibitory control)です。
たとえば仕事をしている最中にスマートフォンへ通知が来たとします。
通知を見る
→ 気になる
→ でも今は仕事中なので見ない
という最後の部分に抑制機能が必要です。
ADHDでは、この反応抑制にも平均的な弱さが認められています1)。
旅行に行く」という目標があれば、
日程を決める
→ ホテルを予約する
→ 交通手段を調べる
→ 荷物を準備する
→ 当日の出発時間を決める
というように、大きな目標を小さな行動へ分解する必要があります。
ADHDでは、このような計画(planning)にも弱さが認められることがあります1)。
大きな課題を目の前にすると「何から始めればよいか分からない」となり、その結果、作業開始が遅れることがあります。
実行機能には前頭前野が重要な役割を果たしています。
前頭前野は、目標やルールなどの情報を保持しながら、注意や行動を目標に沿って調整する「認知制御」に深く関わっています。
実行機能には、抑制制御、ワーキングメモリ、認知的柔軟性などが含まれます。ただし、実行機能は前頭前野だけで生み出されるものではなく、前頭前野と他の脳領域からなるネットワークによって支えられています3)。
ADHDでは、実行機能に重要な前頭前野を含む脳ネットワークの働きに違いがあることが、脳機能画像研究から示されています。
fMRI研究を統合したメタ解析では、ADHDの人では、実行機能に関わる前頭頭頂ネットワークや、抑制制御に関わる下前頭皮質、注意制御に関わる背外側前頭前野などで、対照群とは異なる活動パターンが報告されています4)。
そのため、ADHDを単純に「前頭前野の機能が低下した病気」と考えるのは正確ではなく、前頭前野、線条体、頭頂葉、小脳などを結ぶ複数の神経ネットワークの機能的な違いとして捉えることが必要です。
実行機能に弱さがある場合、
「もっと集中しよう」
「忘れないようにしよう」
「ちゃんと計画しよう」
と頭の中だけで努力するより、必要な機能を外部の仕組みに任せる方法が役立つことがあります。
たとえば、
「部屋を片づける」
では大きすぎるので、
と分割します。
そして、チェックリスト、スマートフォンのリマインダー、カレンダー、タイマーなどを利用します。
つまり、
「覚えておく」のではなく書いておく。
「あとでやる」のではなく開始時刻を決める。
「全部やる」のではなく最初の一歩まで小さくする。
という考え方です。

ここは非常に重要です。
実行機能の問題はADHDだけに認められるものではありません。
また、ADHDであっても、すべての人に明確な実行機能障害が認められるわけではありません。
実際、Willcuttらも、効果量が中等度であることやADHD患者全員に実行機能障害が存在するわけではないことから、実行機能の弱さだけではADHDのすべてを説明できないと結論づけています。
したがって、
「実行機能が低いからADHD」
と診断することはできません。
ADHDの診断では、不注意、多動性・衝動性の症状、発症時期、複数の生活場面での支障などを総合的に評価する必要があります。
ADHDでは、不注意・多動性・衝動性という表面的な症状の背景に、実行機能の弱さが関係している場合があります。
特に研究で比較的一貫して認められているのが、
などです。
そのため、
といった困りごとを、単純な「やる気」や「性格」の問題だけで捉えるのではなく、実行機能・時間処理・報酬処理という認知機能の観点から理解することも重要です。
・1)Willcutt EG, et al.: Validity of the executive function theory of attention-deficit/hyperactivity disorder: a meta-analytic review. Biol Psychiatry, 57: 1336-46, 2005.
・2)Boonstra AM, et al.: Executive functioning in adult ADHD: a meta-analytic review. Psychol Med, 35: 1097-108, 2005.
・3)Miller EK, Cohen JD.: An integrative theory of prefrontal cortex function. Annu Rev Neurosci, 24:167-202, 2001.
・4)Cortese S, et al.: Toward systems neuroscience of ADHD: a meta-analysis of 55 fMRI studies. Am J Psychiatry, 169: 1038-55, 2012.
