大人のADHDはどう治療する?

大人のADHDでは、「集中できない」「忘れ物が多い」「仕事を先延ばししてしまう」「時間を守れない」「思いついたことをすぐ行動に移してしまう」といった問題が、仕事や家庭、対人関係などさまざまな場面に影響することがあります。

大人のADHDの治療というと「薬を飲む治療」をイメージする方も多いかもしれません。

しかし、大人のADHDの治療は薬物療法だけではありません。

近年の大規模なネットワークメタ解析でも、大人のADHDに対して薬物療法だけでなく、認知行動療法(CBT)など複数の治療法が検討されています1)

大人のADHDでは、

① ADHDについて理解する(心理教育)
② 苦手なことを環境や仕組みで補う(環境調整)
③ 必要に応じて薬物療法を行う
④ 認知行動療法(CBT)などで生活上のスキルを身につける

といった方法を組み合わせていきます。

治療の最終的な目的は、単に「ADHDの症状を減らすこと」ではなく、

仕事・家庭・対人関係など、実際の生活での困りごとを減らすことです。

1. まずADHDの特徴を理解する ― 心理教育

まずADHDの特徴を理解する ― 心理教育

ADHD治療の第一歩は、自分自身の特性を理解することです。

たとえば、ADHDでは単純に「集中力がない」というより、

注意を適切な対象に向け、それを維持したり切り替えたりすることが難しい場合があります。

また、

  • ワーキングメモリー
  • 抑制制御
  • 計画
  • 時間管理
  • 課題の開始
  • 報酬を待つこと

などに困難がみられることがあります。

そのため、

「努力が足りないからできない」

と考えるのではなく、

「どのような場面で困りやすいのか」「どの機能を環境によって補えばよいのか」

という視点で考えることが重要です。

2. 「頑張って覚える」より「忘れても大丈夫な仕組み」をつくる

ADHDの環境調整で重要なのは、苦手な機能を意志や努力だけで補おうとしないことです。

たとえば忘れ物が多い人に、「もっと注意して覚えておきましょう」と伝えるだけでは、なかなか問題は解決しません。

そこで、

覚えておく → 書いておく

というように、頭の中に保持していた情報を外に出します。

スマートフォンの予定表、ToDoリスト、アラーム、付箋などを利用する方法があります。

同じように、

「鍵をなくさないように気をつける」

ではなく、

「鍵を置く場所を一か所に決める」

といった方法も有効です。

つまり環境調整とは、自分の苦手な機能を、道具や環境に肩代わりしてもらうという考え方です。

3. 「あとでやる」を「○時に始める」に変える

成人ADHDでは、課題を始めること(task initiation)が難しいことがあります。

「今日中に書類を作ろう」

と思っていても、なかなか始められず、締め切り直前になって一気に取り組むことがあります。

このような場合、

「今日やる」

という曖昧な予定ではなく、

「19時30分にパソコンを開く」

というように、開始時刻と最初の行動を具体化することが役立ちます。

「レポートを書く」という大きな課題も、

パソコンを開く

ファイルを作る

タイトルを書く

最初の3行を書く

というように小さく分けます。

「最後までやる」ことを目標にするのではなく、まず「始められる大きさまで課題を小さくする」ことがポイントです。

4. ADHDでは「遠い報酬」を待つことが苦手なことがある

ADHDでは、将来得られる大きな報酬よりも、すぐに得られる小さな報酬を選びやすい傾向(delay discounting)が報告されています。

そのため、

「3か月後の試験のために毎日勉強する」

「将来の健康のために運動する」

といった、成果がすぐには現れない行動を続けることが難しい場合があります。

そこで有効なのが、遠い報酬を近づけるという工夫です。

たとえば、

  • 30分勉強したら好きなコーヒーを飲む
  • 書類を1つ完成させたら10分休憩する

というように、大きな目標を小さな目標に分け、その途中にも達成感や報酬を設定します。

5. 薬物療法 ― ADHDの中核症状を改善する

大人のADHDでは、症状による生活上の支障が大きい場合、薬物療法を検討します。

薬物療法の主な目的は、

不注意・多動性・衝動性

といったADHDの中核症状を改善することです。

ADHD治療薬について多数の二重盲検RCTを統合したCorteseらのネットワークメタ解析では、成人ADHDに対する複数の薬物療法の短期的な有効性が検討されています2)

成人ADHDの薬物療法については、国によって承認薬や使用条件が異なります。

日本では成人ADHDに対して

が使用されます。

メチルフェニデート徐放剤(コンサータ®)

メチルフェニデートは中枢刺激薬に分類されます。

主としてドパミンおよびノルアドレナリンの再取り込みを阻害し、これらの神経伝達に影響を与えます。

治療によって、

  • 注意を維持しやすくなる
  • 衝動的な行動が減る
  • 課題に取り組みやすくな

などの改善が期待されます。

比較的効果発現が速いことも特徴です。

一方、

食欲低下、不眠、動悸、頭痛、血圧や心拍数への影響

などに注意する必要があります。

また、日本ではコンサータ®の処方には適正流通管理の仕組みが設けられています。

アトモキセチン(ストラテラ®)

アトモキセチンは選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬で、中枢刺激薬とは異なるタイプのADHD治療薬です。

効果はメチルフェニデートのように服用後すぐには判断せず、一定期間継続しながら評価します。

副作用として、

悪心、食欲低下、眠気、不眠、口渇、心拍数・血圧への影響

などがみられることがあります。

グアンファシン(インチュニブ®)

α2Aアドレナリン受容体作動薬です。

前頭前野の神経機能に作用し、注意・衝動制御などに影響すると考えられています。

眠気、血圧低下、徐脈などに注意が必要です。

薬剤の選択では効果だけではなく、併存症、生活リズム、副作用、本人の希望などを考慮します。

6. 薬で「実行機能の使い方」を覚えるわけではない

薬物療法によって、

「集中しやすくなった」

としても、

  • 「何から始めればよいか」
  • 「どう予定を立てればよいか」
  • 「どう時間を管理すればよいか」

まで自動的に身につくわけではありません。

たとえば「勉強に集中する能力」が改善しても、勉強を始める時刻や学習計画が決まっていなければ、その能力を十分に活用できないことがあります。

そこで、環境調整や認知行動療法を組み合わせることが重要になります。

実際、薬物療法を受けていても症状が残存している成人ADHD患者86人を対象としたSafrenらのRCTでは、ADHDに特化したCBTを追加した群は、リラクゼーション+教育的支援群よりADHD症状が改善し、その効果は追跡期間でも維持されました3)

7. 成人ADHDに対する認知行動療法(CBT)

成人ADHDに対する認知行動療法では、単に考え方を変えるだけではなく、ADHDによって生じやすい具体的な生活上の問題に対処する方法を身につけます。

代表的なものとして、

  • スケジュール管理
  • ToDoリストの使い方
  • 優先順位のつけ方
  • 大きな課題の細分化
  • 先延ばしへの対処
  • 注意がそれたときの戻し方
  • 問題解決
  • 感情調節

などがあります。

成人ADHDに対するCBTのRCTをまとめたYoungらのメタ解析では、CBTは待機群と比較してSMD 0.76、active controlと比較してSMD 0.43で、ADHD症状の改善が認められました4)。

したがってCBTは、「薬を使わない人だけの治療」ではなく、

薬物療法だけでは残ってしまう日常生活上の問題に取り組む方法としても利用できます。

8. 薬物療法とCBTを組み合わせる

薬物療法とCBTは、「どちらか一方を選ばなければならない」というものでもありません。

Liらによる6件のRCTのメタ解析では、成人ADHDにおいてCBT+薬物療法は薬物療法単独よりADHD症状を改善し、少なくとも3か月時点では併用療法の優位性が認められました5)。

ただし、6か月・9か月時点では群間差は統計学的に有意ではありませんでした。

したがって、

薬物療法で症状そのものに働きかけながら、CBTや環境調整によって実際の生活での対処法を身につける

という治療方法も選択肢になります。

9. 睡眠や生活習慣を整えることも大切

ADHDでは睡眠の問題を伴うことも少なくありません。

睡眠不足になると、

  • 注意力低下
  • 忘れっぽさ
  • イライラ
  • 衝動性
  • 実行機能の低下

がさらに目立つことがあります。

そのため、睡眠時間、起床時間、運動、カフェイン、飲酒などの生活習慣についても確認します。

また、「集中できない」という症状が実は睡眠不足や睡眠障害によって悪化していることもあるため、睡眠の評価は鑑別という意味でも重要です。

10. うつ病や不安症などの併存症も治療する

成人ADHDでは、ADHDだけではなく、

うつ病、不安症、双極症、睡眠障害、ASD、物質使用症

などを併存することがあります。

たとえばADHDによって、

「仕事で失敗する」

「自信をなくす」

「仕事に行くのが怖くなる」

「抑うつや不安が強くなる」

という経過をとることもあります。

逆に、うつ病や不安症そのものによって集中力が低下し、ADHDのようにみえることもあります。

したがって、すべての症状をADHDだけで説明せず、併存症や他の原因についても評価し、それぞれに必要な治療を行うことが重要です。

11. 大人のADHDの治療をまとめると

大人のADHDの治療の5つの柱

つまり、

大人のADHDの治療=薬物療法だけではありません。

「症状を改善する治療」と「生活しやすい仕組みをつくる治療」を組み合わせることが大切です。

まとめ ―「苦手をなくす」だけではなく「苦手を補う」

大人のADHDの治療というと、

  • 「集中できるようになる」
  • 「忘れなくなる」
  • 「衝動的でなくなる」

ことを目標にしがちです。

もちろん症状を改善することは重要です。

しかし、すべてのADHD特性をなくす必要があるわけではありません。

たとえば忘れやすいのであれば、「絶対に忘れない人になる」ことより、「忘れても困らない仕組みをつくる」という方法があります。

時間管理が苦手なら、頭の中だけで時間を管理するのではなく、時計、タイマー、アラーム、予定表などに時間管理の一部を任せることができます。

大人のADHDの治療で大切なのは、

その人の苦手なところだけを見るのではなく、得意なことや生活環境も含めて、

「どうすればその人が生活しやすくなるか」を考えることです。

薬物療法、心理教育、環境調整、認知行動療法などを必要に応じて組み合わせながら、症状の改善だけではなく、仕事、家庭、対人関係などでの実際の困りごとを減らしていくことが成人ADHD治療の目標になります。

文献

・1)Ostinelli EG, et al.: Comparative efficacy and acceptability of pharmacological, psychological, and neurostimulatory interventions for ADHD in adults: a systematic review and component network meta-analysis. Lancet Psychiatry, 12: 32-43, 2025.

・2)Cortese S, et al.: Comparative efficacy and tolerability of medications for attention-deficit hyperactivity disorder in children, adolescents, and adults: a systematic review and network meta-analysis. Lancet Psychiatry, 5: 727-738, 2018.

・3)Safren SA, et al.: Cognitive behavioral therapy vs relaxation with educational support for medication-treated adults with ADHD and persistent symptoms: a randomized controlled trial. JAMA, 304: 875-80, 2010.

・4)Young Z, et al.: The Efficacy of Cognitive Behavioral Therapy for Adults With ADHD: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. J Atten Disord, 24: 875-888, 2020.

・5)Li Y, Zhang L.: Efficacy of Cognitive Behavioral Therapy Combined with Pharmacotherapy Versus Pharmacotherapy Alone in Adult ADHD: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Atten Disord, 28: 279-292, 2024.

執筆者

院長 宮本 浩司(みやもと こうじ)

院長 宮本浩司

川崎市・溝の口の心療内科・精神科
高津心音メンタルクリニック
・ 精神保健指定医
・ 日本精神神経学会認定専門医・指導医