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044-455-7500ADHD(注意欠如・多動症)というと、
といった特徴を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
実際、ADHDの中心的な症状は「不注意」「多動性」「衝動性」です。
しかし、ADHDの症状は子どもから大人になるにつれて、その現れ方が変化します。
大人のADHDの症状は、多動性・衝動性が目立ちにくくなる一方、不注意が比較的持続しやすいことが報告されています。
さらに、感情調節や実行機能に関連した問題もしばしば認められます1)。
近年の大人のADHD当事者を対象とした研究では、成人ADHDの経験は従来の3症状だけでは十分に説明できず、
9つの症状領域として捉えられる可能性が示されています2)。

ADHDの注意の問題というと、「集中力がない」と考えられがちです。
しかし実際には、もう少し複雑です。
研究では、参加者全員に注意を持続することの難しさが認められました。
その一方で、興味のあることに対しては、周囲のことが分からなくなるほど集中してしまう「過集中(hyperfocus)」も報告されています。
過集中すると、
といったことも起こります。
つまりADHDでは、単純に「注意力が弱い」というより、
「何に注意を向けるか」「いつ注意を切り替えるか」「どのくらい集中するか」を調節することが難しい
と考えると理解しやすいかもしれません。
子どもの多動性では、
「じっと座っていられない」
「走り回る」
「身体をいつも動かしている」
など、外から見て分かりやすい行動が目立ちます。
しかし大人になると、身体的な多動性が目立たなくなることがあります。
その代わりに、
「頭の中でいくつもの考えが同時に浮かぶ」
という内面的な多動性として現れる場合があります。
研究参加者は、こうした状態を racing thoughts(次々と浮かんでくる思考)として報告していました。
これによって、集中しにくくなったり、考えを整理して話すことが難しくなったり、夜になっても頭が休まらず眠れなくなったりすることがあります。
成人のADHDでは、衝動性が生活上のさまざまな場面に現れることがあります。
研究では、
などが報告されました。
その背景として、「待つことが苦手」「すぐに満足を得たい」「刺激を求める」といった傾向も指摘されています。
レビュー論文では、ADHDの衝動性の一つとして遅延回避(delay aversion)が挙げられています。
会話への割り込み、退屈による転職、危険行動などにつながる場合があります。
目の前の小さな報酬と、将来得られる大きな報酬がある場合、ADHDでは「今すぐ得られる報酬」の影響を受けやすいことがあります。
成人ADHDでは、
といった問題が生じることがあります。
研究でも、物事を順序立てること、持ち物を整理すること、物をなくさないこと、計画を立てることなどの困難が報告されました。
こうした問題は仕事だけではなく、家事、金銭管理、日常生活など幅広い場面に影響する可能性があります。
ADHDの「忘れやすさ」は、単に予定を忘れるだけではありません。
研究では、
など、さまざまな内容について忘れやすさが報告されています。
成人ADHDで非常に重要なのが、activation(活動を開始・遂行すること)の問題です。
頭では分かっているのに、なかなか始められないことがあります。
研究参加者の中にも、重要な課題であっても自分の意思だけでは開始したり完了したりすることが難しい人がいました。
特に、退屈な作業や難しい作業では始めることが難しく、一方で締め切りなどの外的なプレッシャーがあると取り組める場合もありました。
そのため、この問題を単純に「怠けている」「やる気がない」と考えるのは適切ではありません。
成人ADHDでは、注意や行動だけでなく、感情の調節にも困難がみられることがあります。
研究参加者からは、
といった経験が報告されています。
ただし、感情の不安定さそのものは、現在のDSM-5のADHD診断症状には含まれていません。
ADHDの成人の一部では、睡眠にも問題がみられます。
研究では、
といった経験が報告されました。
ただし、参加者全員に睡眠障害があったわけではありません。睡眠に問題がない参加者もいました。
成人ADHDでは、時間を正確に感じたり見積もったりすることが難しい場合があります。
いわゆる「タイム・ブラインドネス(time blindness)」と呼ばれることがあります。
たとえば、
といったことです。
研究でも、何かに集中していると時間がいつの間にか過ぎてしまうことや、課題や締め切りまでに必要な時間を正しく見積もれないことが報告されています。
一方で、遅刻しないために必要以上に早く目的地へ行くなど、自分なりの対処法を身につけている人もいます。
その場合、周囲からは「時間管理ができている人」に見えていても、実際には時間感覚の問題を補うために大きな努力をしている可能性があります。
成人ADHDを考えるうえでもう一つ重要なのが、補償行動(coping strategies)や代償行動(compensation)です。
大人になるまでの間に、自分の苦手な部分を補う方法を身につけている方がいます。
たとえば、
「忘れるので、すべてスマートフォンに記録する」
「遅刻するのが怖いので、いつも30分以上早く到着する」
「整理できなくなるのが怖いので、非常に厳格なルールを作る」
といった工夫です。
こうした方法は生活を支える一方、維持するために大きな認知的エネルギーを必要とする場合があります。
また、一見すると問題なく生活できているため、ADHDの存在が分かりにくくなることもあります。
成人ADHDの特徴を理解する一つのキーワードとして、
「調節することの難しさ」
が浮かび上がります。
注意を向けられないことがある一方で、過集中することもある。
なかなか行動を始められない一方で、考える前に衝動的に行動してしまうこともある。
時間をうまく見積もれない。
感情が急激に強くなる。
つまり成人ADHDは、単純に何かの能力が「足りない」というよりも、
注意・行動・衝動・感情・時間などを、その時の状況に合わせて適切に調節することが難しい
という視点から見ると、日常生活で起こるさまざまな困りごとを理解しやすくなります。
ただし、「調節の障害」は現在の正式なADHD診断基準そのものを意味する言葉ではありません。
あくまで、成人ADHDの多様な臨床像を理解するための一つの捉え方です。
過集中、内面的な多動、待つことの苦手さ、実行機能の問題、活動開始の難しさ、時間感覚、感情調節、睡眠、そして症状が隠れる代償行動
まで含めて考えることで、大人のADHDをより実際の生活に即して理解することができます。
「仕事はできているからADHDではない」
「好きなことには集中できるからADHDではない」
「じっと座っていられるからADHDではない」
とは必ずしも言えません。
成人ADHDを評価する際には、表面的な症状だけを見るのではなく、その人が日常生活のどこで困っているのか、そして困難を補うためにどれほどの努力をしているのかを見ることも大切です。
・1)Weibel S, et al.: Practical considerations for the evaluation and management of Attention Deficit Hyperactivity Disorder (ADHD) in adults. Encephale, 46: 30-40, 2020.
・2)Chua IJJ, et al.: ADHD symptom manifestation in adulthood: moving beyond conceptualisations of inattention and hyperactivity/impulsivity. Ir J Psychol Med, 5:1-8, 2026.
