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044-455-7500ADHD(注意欠如・多動症)というと、「集中できない」「忘れ物が多い」「落ち着きがない」といった症状がよく知られています。
しかし、大人のADHDではもう一つ、
「時間をうまく扱うことが苦手」
という特徴がみられることがあります。
このような問題には、ADHDにみられる時間処理(temporal processing)の特徴が関係している可能性があります。
私たちは普段、時計を見る以外にもさまざまな方法で時間を処理しています。
たとえば、
といった能力です。
ADHDでは、このような時間に関係する認知機能に違いがみられることがあります1)。
一般には、ADHDの「時間処理障害」や「タイム・ブラインドネス(time blindness)」と表現されることがあります。
たとえばスマートフォンを見始めたとき、
「10分くらい見よう」
と思っていたのに、気がつくと30分、1時間経っていたということがあります。
逆に、興味のない作業をしていると、実際には10分しか経っていないのに非常に長く感じることもあります。
ADHDでは研究上、時間の長さを弁別したり、推定したり、一定時間を再現したりする課題で違いが認められることがあります。
ただし、これは単純に「体内時計がおかしい」ということではありません。
時間を正確に捉えるためには、時間そのものの処理だけでなく、注意を維持することや作業記憶なども必要だからです。
朝8時に家を出なければならないとします。
実際には、
と50分ほど必要なのに、「30分あれば大丈夫」と考えてしまいます。
そして7時30分から準備を始め、
「思ったより時間がない!」
となってしまいます。
これは単なる遅刻癖ではなく、必要な時間を見積もり、それをもとに行動開始時刻を決めることの難しさが関係している場合があります。
大人のADHDでは非常に特徴的な困りごとがあります。
「締め切りはちゃんと分かっている。でも、なぜか直前にならないと始められない」
というものです。
たとえば金曜日が締め切りの仕事があるとします。
月曜日
「金曜日までだから、まだ大丈夫」
↓
火曜日
「まだ3日ある」
↓
水曜日
「明日からやれば間に合う」
↓
木曜日夜
「まずい!」
↓
突然集中して一気に仕上げる
ということがあります。
重要なのは、本人が締め切りを忘れているとは限らないことです。
将来の締め切りを知識として理解することと、その未来を現在の行動につなげることは別の問題なのです。
下前頭‐線条体‐小脳ネットワークや前頭‐頭頂ネットワークの機能不全が関与していることが画像研究で報告されています2)。

締め切りがわかっているのに動けないことには、ADHDで研究されている報酬処理も関係します。
人間にはもともと、遠い将来にもらえる報酬よりも、今すぐ得られる報酬を高く評価する傾向があります。これを遅延割引(delay discounting)といいます。
ADHDでは平均的に、この傾向が強いことが報告されています。
たとえば、
レポートを書く
→ 努力が必要
→ 達成感は数時間後
一方、
SNSを見る
→ すぐできる
→ すぐ楽しい
となれば、目の前のSNSに引きつけられやすくなります。
ところが締め切り直前になると状況が変わります。
「提出できる」「間に合う」という報酬と、「間に合わない」という不利益が突然目前に迫ります。
その結果、それまで始められなかった仕事に急激に集中できることがあります。
さらにADHDでは、実行機能(executive function)の問題がみられることがあります。
実行機能とは、
目標を決める
→ 計画する
→ 優先順位を決める
→ 行動を開始する
→ 注意を維持する
→ 最後までやり遂げる
ための自己調整機能です。
そのためADHDの先延ばしには、
が複雑に関係している可能性があります。
課題がある
↓
① 実行機能
どこから始めればよいか整理しにくい
+
② 時間処理
必要な時間や締め切りまでの距離を実感しにくい
+
③ 遅延報酬
遠い将来の達成感より、目の前の楽しさに引きつけられる
↓
先延ばし
↓
締め切りが目前に迫る
↓
緊急性が高まる
↓
ようやく行動を開始する
という流れです。
このため、「やる気がない」「怠けている」という説明だけでは、ADHDの先延ばしを十分に理解できない場合があります。
時間感覚そのものを努力だけで変えようとするよりも、頭の中で管理している時間を外に出す(外在化する)方法が役立ちます。
たとえば「午後に資料を作る」ではなく、
というように具体化します。
タイマーやアラームを使う、残り時間を視覚化する、予定に開始時刻を書く、大きな仕事を小さなタスクに分解する、実際の締め切りより前に自分用の締め切りを設定する、といった工夫も考えられます。
ポイントは、
「時間を意識しよう」と頑張るのではなく、「時間が見える環境」を作ること
です。

ADHDの時間処理の問題は、すべてのADHDの人に同じように認められるわけではありません。
また、寝不足、うつ病、不安症などによっても、集中力や時間管理能力は低下します。
そのため、
「遅刻するからADHD」
「先延ばしするからADHD」
と判断することはできません。
ADHDの診断では、不注意や多動性・衝動性が子どもの頃から存在していたか、複数の場面でみられるか、生活にどの程度支障を生じているか、他の疾患では説明できないかなどを総合的に評価する必要があります。
ADHDは単なる「集中力の問題」ではありません。
大人のADHDでみられる、
「まだ時間があると思っていたら、もう時間がない」
「締め切り直前にならないと動けない」
「いつも所要時間を短く見積もってしまう」
といった困りごとの背景には、時間処理・実行機能・報酬処理という複数の認知機能が関係している可能性があります。
ADHDの時間管理を考えるときには、「もっと時間を意識する」だけではなく、時間を視覚化し、課題を小さく分け、未来の予定を現在の具体的な行動に変換することが重要です。
・1)Marx I, et al.: Meta-analysis: Altered Perceptual Timing Abilities in Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder. J Am Acad Child Adolesc Psychiatry, 61: 866-880, 2022.
・2)Noreika V, et al.: Timing deficits in attention-deficit/hyperactivity disorder (ADHD): evidence from neurocognitive and neuroimaging studies. Neuropsychologia, 51: 235-66, 2013.

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