公開日 2023.7.24
はじめに
うつやストレスはめまい症の発症の要因となったり、悪化させる原因となることがわかっています。
特に代表的なものに以下のめまい症があります。
- 良性発作性頭位めまい症
- メニエール病
- 持続性知覚性姿勢誘発めまい
- 片頭痛関連めまい
いずれも発症すると仕事や日常生活に大きな支障がでるため、メンタルヘルス上の管理を行い、発症予防・再発予防を行うことが大切となります。
良性発作性頭位めまい症
(BPPV ; Benign Paroxysmal Positional Vertigo)
良性発作性頭位めまい症は頭の向きを変えると、ぐるぐると回るようなめまいの症状が生じる疾患です。
通常、抗めまい薬で治療が行われ、一般的に初回発症のめまいは改善することが多いです。
その一方で再発しやすいことも知られています1)。
うつ病、心理的ストレスは良性発作性頭位めまい症の発症・再発リスクとなることが報告されています2)~4)、(図1)。
図1 うつ病患者における良性発作性頭位めまい症(BPPV)の発症率
うつ病、心理的ストレスを強く抱える良性発作性頭位めまい症ではめまいが再発しやすいため、うつ病の治療・ストレス軽減も重要となります。
ビタミンD低値・欠乏はうつ病の発症リスクであるとともに、良性発作性頭位めまい症の発症・再発リスクであることも報告されています5)~7)、(図2)。
図2 血中ビタミンD濃度と良性発作性めまい症の再発率の関係
ビタミンDの補充はうつ病の改善に関与することと、良性発作性頭位めまい症の再発リスクを低下させることが報告されており8)~10)、ビタミンD低値・欠乏では補充による効果が期待できます。
メニエール病
メニエール病は回転性のめまいとともに、耳鳴りや難聴を伴う疾患です。
吐き気や嘔吐を伴うこともあります。
メニエール病はうつ病を併存することが多く、またうつ病ではメニエール病を発症するリスクが高いことが報告されています11)、12)。
Patelらは、メニエール病患者さんの約半数がうつ病に該当したと報告しています12)。
心理的ストレスがメニエール病の発症に関与することも報告されています13)、14)、(図3)。
図3 メニエール病に併存する疾患の割合
仕事や私生活でストレス負荷が高い際は、ストレス軽減を図ることが必要となります。
持続性知覚性姿勢誘発めまい
(PDDD;Persistent Postural-Perceptual Dizziness)
持続性知覚性姿勢誘発めまいは、ふわふわとするめまいが生じ、立っている状態、体を動かした時、目でものを追った時などにめまいが悪化する疾患です。
不安、抑うつ、ストレスが発症に関与し、パニック症(パニック障害)などの不安障害に伴い生じることがあります15)、16)、(図4)。
図4 持続性知覚性姿勢誘発めまい(PDDD)の発症要因
心理的・精神的要因を伴う持続性知覚性姿勢誘発めまいの患者さんでは、脳内の機能的接続の低下があることが画像研究で示されています17)、(図5)。
図5 気分障害を伴うPPPDの患者における機能的な脳内接続の低下
一方、視覚からの情報を前庭機能より強くとらえるように、脳内の接続性が増加していることが確認されており、視覚からの情報への偏りが姿勢誘発するめまいに関与していることが示唆されています17)。
治療では抗うつ薬のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)が使用されますが、その効果はまだ不確定なところがあります18)。
片頭痛関連めまい(MAV;Migraine-Associated Vertigo)
片頭痛では嘔気、めまいを伴うことが多く、片頭痛とめまいが同時におきる片頭痛を前庭性片頭痛と呼んでいます。
うつ病、パニック症、双極性障害などのメンタルヘルス疾患は片頭痛と併存しやすく、相互に関連していることが報告されています19)、20)、(図6)。
図6 片頭痛とうつ病・不安の併存
また、片頭痛は乗り物酔いとの関連が知られており、乗り物酔いで生じるめまいと共通のメカニズムを有しているとされています21)。
片頭痛予防薬による治療を行うことが一般的です22)。
片頭痛では良性発作性頭位めまい症の発症リスクも高まることが報告されており23)、めまいが重複することもあります(図7)。
図7 片頭痛患者における良性発作性頭位めまい症の発症率
併存するメンタルヘルス疾患の治療や、生活上でのストレス軽減で片頭痛そのものを改善していく必要もあります。
おわりに
スマートフォンを長時間使用することは、眼球運動と前庭系のアンバランスを生み出し、めまいを発症しやすいことが報告されています24)。
高ストレス状態で長時間のPC作業を行うことや、特にスマートフォンの画面のスクロールを素早く何度も繰り返し行うことは、めまいの発症・悪化因子であるため、使用頻度を下げるなどして、目と耳の機能を休める必要があります。
現代社会では、労務環境・生活背景自体がめまいを生じやすいとも言え、ストレスの軽減とともに労務、生活上での配慮も必要となります。
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まずはかかりつけ内科等で相談するもの1つの方法です。
文献
- 1) Kong TH, et al. : Recurrence Rate and Risk Factors of Recurrence in Benign Paroxysmal Positional Vertigo: a Single-Center Long-Term Prospective Study With a Large Cohort. Ear Hear, 43 : 234-241, 2022.
- 2) Hsu CL, et al. : Risk of benign paroxysmal positional vertigo in patients with depressive disorders: a nationwide population-based cohort study. BMJ Open, 9 : e026936, 2019.
- 3) Monzani D, et al. : Life events and benign paroxysmal positional vertigo: a case-controlled study. Acta Otolaryngol, 126 : 987-92, 2006.
- 4) Faralli M, et al. : Dizziness in patients with recent episodes of benign paroxysmal positional vertigo: real otolithic dysfunction or mental stress?. J Otolaryngol Head Neck Surg, 38 : 375-80, 2009.
- 5) Anglin RE, et al. : Vitamin D deficiency and depression in adults: systematic review and meta-analysis. Br J Psychiatry, 202 : 100-7, 2013.
- 6) Chen J, et al. : Risk Factors for the Occurrence of Benign Paroxysmal Positional Vertigo: A Systematic Review and Meta-Analysis. Front Neurol, 11 : 506, 2020.
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- 10) Jeong SH, et al. : Prevention of recurrent benign paroxysmal positional vertigo with vitamin D supplementation: a meta-analysis. J Neurol, 269 : 619-626, 2022.
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