ADHDの言語流暢性低下について

ADHDでは「言葉がすぐに出てこない」ことがある?

ADHD(注意欠如・多動症)というと、「集中できない」「忘れ物が多い」「落ち着きがない」といった特徴がよく知られています。

一方で、日常生活では、

  • 「言いたいことは分かっているのに、言葉がすぐに出てこない」
  • 「会話の途中で言葉に詰まる」
  • 「頭の中にはあるのに、うまく言語化できない」

と感じる方もいます。

このような特徴の一部には、言語流暢性(verbal fluency)と呼ばれる認知機能が関係している可能性があります。

2026年8月に発表されたメタ解析では、ADHDのある人では、ADHDのない人と比べて言語流暢性が低下していることが報告されました1)

言語流暢性とは?

言語流暢性とは、

一定のルールに従って、限られた時間内にできるだけ多くの言葉を思い出して話す能力

のことです。

代表的な検査には、2つの種類があります。

意味性言語流暢性では、
「動物の名前を1分間でできるだけ多く言ってください」
といった課題を行います。

一方、音韻性言語流暢性では、
「Fで始まる言葉を1分間でできるだけ多く言ってください」
というように、特定の文字から始まる言葉を挙げます。

一見すると単純な課題ですが、実際には、

  • 言葉を記憶から探す
  • → 条件に合う言葉を選ぶ
  • → 同じ言葉を繰り返さない
  • → 不適切な言葉を抑える
  • → 行き詰まったら検索方法を切り替える

といった複数の認知機能が必要になります。

そのため言語流暢性は、単なる語彙力ではなく、注意、抑制、認知的柔軟性、自己モニタリングなどの実行機能とも深く関係しています。

ADHDでは言語流暢性が低下する

2026年のメタ解析では、16研究、1,167人が対象となりました。

内訳は、

ADHD群:566人
対照群:601人

で、年齢は4歳から55歳まで、小児から成人まで幅広く含まれていました。

その結果、ADHD群では、音韻性・意味性のどちらの言語流暢性も有意に低下していました。

ADHDの言語流暢性低下

つまり、ADHDのある人では、限られた時間の中で言葉を効率よく検索し、次々と取り出す能力が平均的に低下していることが示されました。

ADHDの言語流暢性低下は「言葉を知らない」という意味ではありません

ADHDで言語流暢性が低下しているからといって、

語彙が少ない、言語能力が低い

という意味ではありません。

言語流暢性課題では、知っている言葉を素早く検索し、選び、整理して取り出す能力が求められます。

ADHDでは、抑制、ワーキングメモリ、認知的柔軟性などの実行機能が影響することが知られており、今回の論文でも、言語流暢性低下がこうした実行機能の問題と関係する可能性が考察されています。

そのため、

「言葉を知らない」のではなく、「知っている言葉をその場ですぐに取り出しにくい」

というイメージの方が近い場合があります。

なぜ「意味性」の方がやや低下していたのか?

今回の研究では、

  • 音韻性:g = −0.44
  • 意味性:g = −0.51

と、意味性言語流暢性の低下が数値上やや大きくなりました。

これは少し意外な結果です。

一般に、音韻性言語流暢性は複数の言葉のネットワークを探しながら、不要な言葉を抑制したり、検索方法を切り替えたりする必要があるため、より実行機能への負荷が高いと考えられています。

一方、意味性言語流暢性は、「動物」「食べ物」といった一つの意味カテゴリーの中から言葉を探すため、語彙や意味記憶との関係が比較的大きいとされています。

それでも今回、意味性も同程度、あるいはやや大きく低下していたことから、著者らは、

ADHDの言語流暢性低下は、実行機能だけでなく、言葉を記憶から検索する過程そのものにも関係している可能性を示唆しています。

子どもだけの問題ではありません

今回のメタ解析では、小児と成人の両方が含まれていましたが、年齢による明確な違いは認められませんでした

音韻性、意味性のどちらについても、年齢は効果量を有意に説明しませんでした。

このことから、言語流暢性の問題は、子どもの時期だけでなく、成人ADHDでもみられる可能性があります。

ただし、成人を対象にした研究は5件と多くなく、今回の研究は横断研究のメタ解析です。

そのため、

子どもの時から成人になるまで同じ人でADHDの言語流暢性低下が持続する

ことを証明したものではありません。

併存症だけでは説明できない

ADHDでは、不安症、気分症、反抗挑発症などを併存することがあります。

そこで今回の研究では、

ADHDのみの群
併存症を含むADHD群

についても比較されました。

音韻性言語流暢性では両群ともg = −0.3でほぼ同じでした。

意味性言語流暢性では、

  • ADHDのみ:g = −0.5
  • 併存症あり:g = −0.3

と、むしろADHDのみの群で言語流暢性低下が大きい結果でした。

したがって、言語流暢性の低下を単純に「不安やうつなどの併存症の影響」と説明することは難しいと考えられます。

ただし、この解析は研究数が少ないため、慎重な解釈が必要です。

日常生活ではどう感じる?

言語流暢性の問題は、日常生活では例えば、

  • 「言いたい言葉がすぐに出てこない」
  • 「話をまとめるのに時間がかかる」
  • 「会議や面接で急に質問されると答えに詰まる」
  • 「文章を書くときは考えられるのに、会話では言葉が出にくい」

といった形で感じられる可能性があります。

ただし、今回の研究は言語流暢性検査の成績を調べたものであり、こうした日常的な困りごとを直接測定したものではありません。

そのため、これらの日常症状をすべて言語流暢性だけで説明することはできません。

言語流暢性検査だけでADHDを診断できる?

できません。

言語流暢性は、ADHDだけでなく、認知症、統合失調症、うつ病、脳損傷などさまざまな状態で低下する可能性があります。

今回の論文では、言語流暢性課題は短時間で実施しやすく、ADHDの神経心理学的評価に役立つ可能性があると述べられています。

しかし、

言語流暢性が低い=ADHD

ではありません。

ADHDの診断では、幼少期からの不注意・多動性・衝動性、学校や仕事、家庭での生活への影響などを総合的に評価することが重要です。

まとめ

2026年のメタ解析では、ADHDのある人では、

  • 音韻性言語流暢性:g = −0.44
  • 意味性言語流暢性:g = −0.51

と、どちらも中等度の低下が認められました。

これは、

ADHDでは「言葉そのものを知らない」のではなく、頭の中にある言葉をその場で効率よく検索・整理して取り出すことが苦手な場合がある

ことを示唆しています。

言語流暢性には、注意、抑制、ワーキングメモリ、認知的柔軟性など複数の実行機能が関わります。

そのため、「会話で言葉が出にくい」「急に質問されると答えに詰まる」といった困りごとの背景を考える際には、単なる語彙力だけでなく、実行機能や情報検索の特性という視点も役立つ可能性があります。

文献

1)Agahi Z, Nejati V.: Verbal fluency in individuals with attention deficit-hyperactivity disorder (ADHD): A meta-analysis. Acta Psychol (Amst), 270:107638, 2026.

執筆者

院長 宮本 浩司(みやもと こうじ)

院長 宮本浩司

川崎市・溝の口の心療内科・精神科
高津心音メンタルクリニック
・ 精神保健指定医
・ 日本精神神経学会認定専門医・指導医