抗うつ薬で心電図のQTは延長する?|10種類の抗うつ薬を比較した最新研究

抗うつ薬を使用するとき、「心電図のQTが延長することがある」と聞いたことがある方もいるかもしれません。

QT延長は、一部の薬剤で注意が必要な心電図上の変化です。しかし、抗うつ薬であればすべて同じようにQTを延長するわけではありません。

また、QTへの影響は薬の種類だけでなく、年齢や血液中のカリウム濃度、腎機能などによっても変化する可能性があります。

2026年9月に発表された研究では、大うつ病性障害に使用される抗うつ薬について、QTcへの影響と重大な心血管イベントとの関連が詳しく検討されました1)。

QT・QTcとは?

心電図には「P波」「QRS波」「T波」などがありますが、QRS波の始まりからT波の終わりまでの時間がQT間隔です。

心電図の波形

QT間隔は心拍数によって変化するため、心拍数の影響を補正したものをQTc(corrected QT)と呼びます。

QTcが著しく延長すると、まれではありますが、torsade de pointes(TdP:トルサード・ド・ポアント)と呼ばれる重篤な心室性不整脈につながることがあります。

そのため、向精神薬を使用するときには、薬剤によるQTcへの影響が安全性を考えるうえで一つの重要なポイントになります。

10種類の抗うつ薬のQTc延長を比較解析

今回の研究では、QTcについて35件の二重盲検ランダム化比較試験、8,679人の個人データが解析されました。

対象となったのは次の10種類です。

です。

研究では、年齢、性別、治療開始前のQTc、BMI、血清カリウム、腎機能(eGFR)などを考慮して解析されています。

QTcへの影響には薬剤による違いがあった

プラセボと比較したQTcFの平均変化は次のようになりました。

10種類の抗うつ悪によるQTcFの変化

このうち、95%信用区間(CrI)が0をまたがず、プラセボと比較して統計学的に明確なQTcF延長が認められたのは、

  • エスシタロプラム:+8.7 ms(95%CrI 1.6~15.8)
  • アミトリプチリン:+5.3 ms(95%CrI 0.8~9.8)

でした。

ただし、著者らはこれらを平均的には小さなQTc増加として扱っています。

また、この表は「上にある薬ほど危険」というランキングではありません。平均QTc変化と実際の重篤な不整脈リスクは同じものではないためです。

同じ薬でも年齢によって影響が違う?

今回の研究で特に興味深かったのが、患者さんの背景によってQTcへの影響が変化したことです。

例えばエスシタロプラムでは、モデルから推定されたQTcF変化は、

  • 30歳:+2.66 ms
  • 45歳:+8.03 ms
  • 60歳:+13.40 ms
  • 75歳:+18.77 ms

となりました。

つまり、「エスシタロプラムは平均+8.7 ms」とだけ考えるのではなく、年齢などによって影響が異なる可能性を考える必要があります。

ただし、高齢になるほど推定値の不確実性も大きくなっており、これらの数字をすべての患者さんにそのまま当てはめることはできません。

QT延長は薬だけで決まるわけではない

QTcへの影響を考える際には、薬剤だけを見るのでは不十分です。

今回の研究では、

  • 年齢
  • 性別
  • 治療開始前のQTc
  • 血清カリウム
  • BMI
  • 腎機能(eGFR)
  • QTcに影響する他の薬剤

など、複数の要因を考慮する重要性が示されています。

例えば、もともとQTcが長い方、低カリウム血症がある方、高齢の方、QTを延長する他の薬剤を併用している方などでは、より慎重な評価が必要になる可能性があります。

したがって、

「どの抗うつ薬を使用しているか」だけではなく、「どのような患者さんが使用しているか」も重要

ということになります。

重度のQTc延長はどのくらいあった?

8,679人の個人データの中で、

  • QTcFが500 msを超えた人:7人(0.08%)
  • 治療前から60 ms以上増加した人:56人(0.65%)

でした。

症例数が非常に少なかったため、これらのイベントについて薬剤間の詳細な統計解析を行うことはできませんでした。

トルサード・ド・ポアントや突然死は?

さらに重要なのが、実際の重大な心血管イベントです。

QTc解析に使用された8,679人では、

  • トルサード・ド・ポアント:0人
  • 非自殺性突然死:0人

でした。 抗うつ薬 QT延長

さらに、重大な心血管イベントや突然死については、より大規模な139試験・52,398人のデータが解析されました。

非自殺性突然死は、

  • 抗うつ薬群:9/34,575人(0.03%)
  • プラセボ群:3/17,823人(0.02%)

で、リスク差は0.01%(95%CrI −0.01~0.02%)でした。

この解析では、抗うつ薬によって治療早期の非自殺性突然死が増加することを示す明確なエビデンスは認められませんでした。

「QTが延長する」=「危険な薬」ではありません

ある抗うつ薬で平均QTcが数ms延長したからといって、

その薬を服用すると危険な不整脈が起こる

という意味ではありません。

今回の研究でも、エスシタロプラムやアミトリプチリンで平均QTcFの延長が認められた一方、重度のQTc延長は少なく、TdPも観察されませんでした。

一方で、TdPや突然死はもともと非常にまれなイベントであるため、今回のランダム化比較試験だけから「リスクがまったくない」と証明されたわけでもありません。

したがって、「QTcを何ms延長するか」と「実際に重篤な不整脈をどの程度起こすか」は分けて考える必要があります。

心電図検査が必要になることも

抗うつ薬を服用するすべての患者さんに、同じ頻度で心電図検査が必要というわけではありません。

一方、QTc延長のリスクが考えられる場合には、患者さんの背景や使用する薬剤に応じて、治療前や治療中に心電図や電解質などを確認することが検討されます。

特に複数のリスク因子が重なっている場合には、平均的な薬剤データだけではなく、個々の患者さんに合わせて安全性を評価することが重要になります。

まとめ

2026年の研究では、10種類の抗うつ薬のQTcへの影響が比較されました。

平均的には、プラセボと比較してエスシタロプラムで+8.7 ms、アミトリプチリンで+5.3 msの統計学的に明確なQTcF延長が認められました。

しかし、この研究が示している重要なポイントは、

「抗うつ薬のQTリスクは薬の名前だけでは決まらない」

ということです。

年齢、治療前QTc、血清カリウム、腎機能、併用薬などによって影響は変化する可能性があります。

抗うつ薬の安全性を考える際には、単純に「QTを延長する薬・しない薬」と分類するのではなく、薬剤の特性と患者さん個人のリスク因子を組み合わせて評価することが大切です。

文献

1)Ostinelli EG, et al.: QTc changes and early major adverse cardiovascular events associated with antidepressant treatment for major depressive disorder in adults: systematic review and individual participant data network meta-analysis. BMJ, 394: e100600, 2026.

うつ症状がある場合は、我慢せず早めの心療内科・精神科への受診をおすすめします。
まずはかかりつけ内科等で相談するもの1つの方法です。

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当院のコラムは、一般的な医療情報の提供を目的として掲載しております。コラムの内容に関する個別のご相談やご質問につきましては、診察を行わずに医学的な判断をすることが難しいため、当院に通院されていない方への個別の回答はいたしかねます。何卒ご理解くださいますようお願いいたします。

執筆者

院長 宮本 浩司(みやもと こうじ)

院長 宮本浩司

川崎市・溝の口の心療内科・精神科
高津心音メンタルクリニック
・ 精神保健指定医
・ 日本精神神経学会認定専門医・指導医