ADHDとワーキングメモリの関係|学習能力・仕事の成果

ADHD(注意欠如・多動症)は、不注意や多動性・衝動性を特徴とする神経発達症ですが、

学習や仕事、日常生活における困難には、ワーキングメモリ(作動記憶)や実行機能が

関係していることが知られています。

ワーキングメモリとは、情報を一時的に保持しながら処理する能力です。

例えば、会話の内容を覚えながら理解する、複数の指示を順番に実行する、

文章を読みながら内容を整理するなどの場面で必要になります。

また、実行機能とは、計画を立てる、時間を管理する、注意を切り替える、

行動を調整するなど、目標に向かって行動するための認知機能を指します。

近年、こうした認知機能は、ADHDの子どもの学業成績だけでなく、

成人ADHDの仕事や社会生活への適応を考えるうえでも重要であることが

報告されています。

ADHD児の学業成績とワーキングメモリの関係

2026年に発表された、システマティックレビュー・メタ解析では、

ADHDの子どものレジリエンス(心理的回復力・困難への適応力)に関連する要因が

検討されました1)。

28研究、合計11,622人の子どもを対象とした研究で、学業成績などの教育的成果と

関連する要因は以下のとおりでした。

ADHDの子どもの学業成績と関連するレジリエンス要因

いずれも、学業成績などの教育的成果と有意な正の相関が認められました。

特に、ワーキングメモリは学業成績と比較的強い関連(r=0.57)を示していました。

この結果は、ADHDの子どもの学習を支援するうえで、単に勉強時間を増やすだけでなく、

情報を保持・処理する能力や学習方法にも注目することの重要性を示唆しています。

ただし、相関関係は因果関係を意味するものではなく、ワーキングメモリを改善すれば

学業成績が向上することを証明した結果ではありません。

成人ADHDでもワーキングメモリの問題が認められる

ワーキングメモリの問題は、子どものADHDだけに認められるものではありません。

Aldersonらが2013年に報告したメタ解析では、成人ADHDのワーキングメモリに

関する38研究が検討されました2)。

その結果、成人ADHDでは、健常対照群と比較して、言語的なワーキングメモリと

視空間的なワーキングメモリの両方に機能低下が認められました。

つまり、ADHDに関連するワーキングメモリの困難は、

成人期にも持続する場合があると考えられます。

成人の場合、こうした困難は、仕事の指示を覚える、複数の作業を同時に進める、

会議の内容を整理する、仕事の優先順位を決めるといった場面に

影響する可能性があります3)。

ただし、ADHDのある成人すべてにワーキングメモリの低下が認められるわけではなく、個人差があります。

成人ADHDの仕事の成果には実行機能が関係する

2026年のChanらの研究では、19~30歳の就労している成人ADHD患者100人を対象に、

実行機能と仕事の成果との関連が検討されました4)。

その結果、時間管理の困難や多動性・衝動性は、

  • 収入の低さ
  • 職場での注意・警告の多さ
  • 仕事中の退屈感
  • 同僚や上司との関係への満足度の低さ

と関連していました。

また、仕事を整理する能力や意欲の調整に関する困難も、複数の職業機能の指標と関連していました。

この研究は、成人ADHDの仕事上の問題を考える際に、不注意や衝動性だけでなく、

時間管理、計画性、整理整頓、意欲の調整といった実行機能に注目することが

重要である可能性を示しています。

ただし、対象者数は100人と比較的小さく、観察研究であるため、

実行機能の問題が仕事の成果を直接低下させるという因果関係を証明したものではありません。

ワーキングメモリを鍛えれば、仕事や学業の能力も向上するのか?

ワーキングメモリが学習や仕事に関連しているのであれば、ワーキングメモリを鍛えることで、

学業成績や仕事の成果も改善するのではないかと考えられます。

しかし、研究結果は必ずしもそのような単純な関係を示していません。

Melby-Lervågらが2016年に報告したメタ解析では、87文献、145の実験比較を統合し、

ワーキングメモリトレーニングの効果が検討されました5)。

その結果、トレーニングによってワーキングメモリ課題の成績は改善しましたが、

知能、読解力、計算能力など、トレーニングとは異なる認知能力への効果は明確ではありませんでした。

このことから、ワーキングメモリと学業成績に相関があるとしても、

ワーキングメモリだけを鍛えることで、学習能力や仕事の成果が広く改善するとは限らないと考えられます。

成人ADHDではワーキングメモリだけでなく、実行機能を補う工夫も重要

成人ADHDでは、認知機能そのものを改善することに加えて、

日常生活の中で実行機能の困難を補う方法も重要です。

例えば、

  • 予定をカレンダーに記録する
  • 作業を小さな段階に分ける
  • 仕事の優先順位を明確にする
  • リマインダーを活用する

などの方法が考えられます。

まとめ

今回紹介した研究から、ADHDの子どもではワーキングメモリや認知機能が学業成績と関連し、

成人ADHDでは実行機能が仕事や社会生活への適応と関連していることが示されています。

一方、ワーキングメモリを鍛えるだけで学業成績や仕事の成果が改善するとは限りません。

成人ADHDの支援では、本人の認知機能の特徴を理解し、

苦手な部分を補う方法を身につけることが重要です。

また、仕事の進め方や職場環境を調整し、本人の得意な能力を発揮しやすい環境を整えることも

大切と考えられます。

文献

  • 1)Cheung YCH, et al.: “Which resilience factors are the most effective for which Outcomes?” A systematic review and Meta-Analysis of multisystemic resilience of children with ADHD. European Child & Adolescent Psychiatry, 35:1397–1413, 2026.
  • 2)Alderson RM, et al.: Attention-deficit/hyperactivity disorder (ADHD) and working memory in adults: a meta-analytic review. Neuropsychology, 27: 287–302, 2013.
  • 3)Barkley RA, Murphy KR.: Impairment in Occupational Functioning and Adult ADHD: The Predictive Utility of Executive Function (EF) Ratings Versus EF Tests. Archives of Clinical Neuropsychology, 25: 157–173, 2010.
  • 4)Chan ESM, Langberg JM.: Predicting Occupational Outcomes for Individuals with ADHD: The Role of Hyperactivity/Impulsivity and Executive Functioning. Journal of Occupational Rehabilitation,36: 223–233, 2026.
  • 5)Melby-Lervåg M, Redick TS, Hulme C. Working Memory Training Does Not Improve Performance on Measures of Intelligence or Other Measures of “Far Transfer”: Evidence From a Meta-Analytic Review. Perspectives on Psychological Science, 11: 512–534, 2016.

執筆者

院長 宮本 浩司(みやもと こうじ)

院長 宮本浩司

川崎市・溝の口の心療内科・精神科
高津心音メンタルクリニック
・ 精神保健指定医
・ 日本精神神経学会認定専門医・指導医