レジリエンスとは?

2026.09.08

私たちは生活の中で、仕事や人間関係のストレス、病気、失敗、挫折、別れ、災害など、さまざまな困難に直面します。

同じような出来事を経験しても、その後の心の反応や回復の仕方は人によって異なります。

こうした困難やストレスに直面したときに、状況に適応しながら心理的な健康を維持したり、いったん低下した状態から回復したりする力や過程を、心理学・精神医学ではレジリエンス(resilience)と呼びます。

日本語では「心理的回復力」「心の回復力」「復元力」などと表現されます。

Sistoらは、レジリエンスを以下のように定義しています1)。

  • 「困難を粘り強く乗り越える力」
  • 「自分のことを良く知り、自分の気持ち・考え・行動が一貫していること」
  • 「自分の成長に向けて、積極的に動こうとする前向きな心の姿勢」

レジリエンスの中心的構成要素

レジリエンスの中心的構成要素として、以下が挙げられています。

① 回復力(Recovery)

ストレスや失敗から元の状態に戻る力です。

② 適応力(Adaptation)

状況の変化に合わせて行動や考え方を調整する力です。

③ 成長(Growth)

逆境を通して新しいスキルや視点を獲得する力。 近年の心理学では「困難を経験した後のポジティブな変化(PTG)」として研究されています。

レジリエンスを構成する3つの力

レジリエンスの主要な視点

現在の研究におけるレジリエンスの主要な視点として、以下が挙げられています。

① 個人レベル

  • 認知の柔軟性
  • 問題解決能力
  • 自己効力感
  • 感情調整力
レジリエンスを支える心理的な力

② 生物学的レベル

  • ストレスホルモン(コルチゾール)反応
  • 神経可塑性
  • 遺伝的要因

③ 社会・環境レベル

  • 家族・友人のサポート
  • 安定した生活環境
  • コミュニティのつながり

レジリエンスを高めるには?

① 認知(思考)を鍛えるトレーニング

認知の再評価(Reappraisal)

ストレス状況の「意味づけ」を変える練習。

例:

  • 「失敗した → 自分はダメ」ではなく
  • 「失敗した → 学習の機会だった」

これは心理学で最も効果が高いレジリエンス技法のひとつです。

認知の柔軟性トレーニング

具体的には以下を練習します:

  • 1つの出来事に対して「3つの別の解釈」を考える
  • “白黒思考”を避け、グラデーションで考える
  • 「最悪のシナリオ」と「最良のシナリオ」を両方書き出す

自己効力感(できる感)の強化

小さな成功体験を積み重ねる。

例:

  • 5分だけ作業する
  • 1つだけ片付ける
  • 簡単なタスクを毎日1つ達成する

② 感情調整力を鍛えるトレーニング

マインドフルネス(注意の訓練)

科学的にレジリエンス向上効果が確認されている方法。 1日3分でも効果がある。

練習例:

  • 呼吸に注意を向ける
  • 浮かんだ思考を評価せず流す
  • 身体感覚(足裏、呼吸)に意識を戻す

感情ラベリング

感情を「言葉にする」だけで情動反応が落ち着く。

例:

  • 「今、私は不安を感じている」
  • 「今、怒りがある」
  • 「今、疲労が強い」

③ 行動レベルのトレーニング

問題解決スキル(Problem-solving)

検索ページでも「困難に直面した時にうまく適応する能力」と説明されています 。 そのための行動トレーニングは以下:

  1. 問題を具体化する
  2. 解決策を5つ書き出す
  3. それぞれのメリット・デメリットを書く
  4. 最も実行可能なものを選ぶ
  5. 24時間以内に小さく着手する

トレス耐性トレーニング(Exposure)

不安を避けず、少しずつ慣らす方法。

例:

  • 苦手な作業を「5分だけ」やる
  • 不安な場面に「短時間だけ」身を置く

④ 身体的トレーニング

運動2)

特に効果が高いのは:

  • 有酸素運動(ウォーキング・ジョギング)
  • ヨガ
  • 筋トレ
  • 8週間以上の継続

睡眠の安定化

睡眠は情動調整力の基盤。 就寝・起床時刻を一定にするだけでレジリエンスが向上する。

⑤ 社会的レベルのトレーニング

サポートネットワークの構築

  • 相談できる人を3名書き出す
  • 月1回は誰かと話す
  • 小さな助けを求める練習をする

心理的安全性のある関係を増やす

「弱さを見せても大丈夫な人」とのつながりはレジリエンスの最大の保護因子

⑥ 意味づけ(Purpose)を鍛えるトレーニング

価値観の明確化

自分が大切にしている価値を5つ書く。

例:

  • 誠実
  • 成長
  • 家族
  • 健康
  • 創造性

価値に沿った行動を1日1つ行う

価値と行動が一致すると、逆境でも折れにくくなる。

レジリエンスと精神疾患

レジリエンスは精神疾患の“発症リスク”と“回復過程”の両方に関わる

心理学では、レジリエンスは 「強いストレス事象を体験しても、すべての人がPTSDになるわけではない」 という観察から研究が進みました。

精神疾患との関係は以下のように整理できます。

うつ病

  • ストレスへの脆弱性が高いと発症リスクが上昇
  • 認知の柔軟性・社会的支援などのレジリエンス因子が高い人は、 抑うつの慢性化を防ぎ、回復が早い

不安症

  • 不確実性への耐性が低いと不安が増幅
  • レジリエンスが高い人は「脅威の再評価」がうまくでき、 過度な心配や回避行動を減らせる

PTSD

  • トラウマ後の反応は個人差が大きい
  • レジリエンス因子(情動調整力・社会的支援・意味づけ能力)が高いと 侵入症状や過覚醒が長期化しにくい

共通点:レジリエンスは“診断横断的(transdiagnostic)”な保護因子

多くの研究で、レジリエンスは うつ・不安・PTSDなど複数の精神疾患に共通して働く保護因子 とされています。

ACE(逆境的小児期体験)は成人後の精神疾患リスクを高める

ACEが多いほど、うつ・不安・PTSD・依存症などのリスクが上昇することが知られています。

しかし、ACEがあっても“必ず”問題が起きるわけではない

ここで重要なのがレジリエンスです。

レジリエンスはACEの影響を“緩衝(buffer)”する

研究では、以下の因子がACEの悪影響を弱めることが示されています:

  • 安定した大人との関係(親・教師・支援者)
  • 自己効力感
  • 問題解決能力
  • 感情調整力
  • コミュニティの支援

つまり、ACEはリスクを高める一方で、 レジリエンス因子が十分にある場合、精神健康は大きく保護される という二重構造になっています。

まとめ

レジリエンスとは、困難に傷つかない能力ではなく、困難の中でも自分自身や周囲の力を利用しながら適応し、回復していく力・過程です。

一人で我慢することがレジリエンスではありません。

休むこと、考え方を変えること、人に相談すること、治療を受けることも、すべて回復のために利用できる大切な力です。

そして、つらいときにすぐ立ち直れなくても、それだけで「心が弱い」ということにはなりません。

回復の仕方や速度は、一人ひとり違ってよいのです。

文献

・1)Sisto A, et al.: Towards a Transversal Definition of Psychological Resilience: A Literature Review. Medicina (Kaunas), 55: 745, 2019.

・2)Liu C, et al.: The effect of exercise interventions on enhancing psychological resilience: a systematic review and meta-analysis. BMC Psychol, 14: 1167, 2026.

執筆者

院長 宮本 浩司(みやもと こうじ)

院長 宮本浩司

川崎市・溝の口の心療内科・精神科
高津心音メンタルクリニック
・ 精神保健指定医
・ 日本精神神経学会認定専門医・指導医