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044-455-7500私たちは生活の中で、仕事や人間関係のストレス、病気、失敗、挫折、別れ、災害など、さまざまな困難に直面します。
同じような出来事を経験しても、その後の心の反応や回復の仕方は人によって異なります。
こうした困難やストレスに直面したときに、状況に適応しながら心理的な健康を維持したり、いったん低下した状態から回復したりする力や過程を、心理学・精神医学ではレジリエンス(resilience)と呼びます。
日本語では「心理的回復力」「心の回復力」「復元力」などと表現されます。
Sistoらは、レジリエンスを以下のように定義しています1)。
レジリエンスの中心的構成要素として、以下が挙げられています。
ストレスや失敗から元の状態に戻る力です。
状況の変化に合わせて行動や考え方を調整する力です。
逆境を通して新しいスキルや視点を獲得する力。 近年の心理学では「困難を経験した後のポジティブな変化(PTG)」として研究されています。

現在の研究におけるレジリエンスの主要な視点として、以下が挙げられています。

認知の再評価(Reappraisal)
ストレス状況の「意味づけ」を変える練習。
例:
これは心理学で最も効果が高いレジリエンス技法のひとつです。
認知の柔軟性トレーニング
具体的には以下を練習します:
自己効力感(できる感)の強化
小さな成功体験を積み重ねる。
例:
マインドフルネス(注意の訓練)
科学的にレジリエンス向上効果が確認されている方法。 1日3分でも効果がある。
練習例:
感情ラベリング
感情を「言葉にする」だけで情動反応が落ち着く。
例:
問題解決スキル(Problem-solving)
検索ページでも「困難に直面した時にうまく適応する能力」と説明されています 。 そのための行動トレーニングは以下:
トレス耐性トレーニング(Exposure)
不安を避けず、少しずつ慣らす方法。
例:
運動2)
特に効果が高いのは:
睡眠の安定化
睡眠は情動調整力の基盤。 就寝・起床時刻を一定にするだけでレジリエンスが向上する。
サポートネットワークの構築
心理的安全性のある関係を増やす
「弱さを見せても大丈夫な人」とのつながりはレジリエンスの最大の保護因子
価値観の明確化
自分が大切にしている価値を5つ書く。
例:
価値に沿った行動を1日1つ行う
価値と行動が一致すると、逆境でも折れにくくなる。
レジリエンスは精神疾患の“発症リスク”と“回復過程”の両方に関わる
心理学では、レジリエンスは 「強いストレス事象を体験しても、すべての人がPTSDになるわけではない」 という観察から研究が進みました。
精神疾患との関係は以下のように整理できます。
2026年1月に発表された、システマティックレビュー・メタ解析では、双極性障害患者のレジリエンス(心理的回復力・ストレスへの適応力)について検討されました3)。
28研究が採用され、双極性障害患者3,094人、健常者4,100人、その他の精神疾患患者1,768人が対象となりました。
その結果、双極性障害患者のレジリエンスは健常者と比較して有意に低く(標準化平均差SMD=−0.787)、統合失調症患者より有意に高い(SMD=0.336)ことが示されました。
一方、大うつ病性障害患者との間には有意な差が認められませんでした。
また、双極性障害患者では、状況をコントロールする能力、自己の有能感、変化を肯定的に受け入れる能力、ネガティブな感情への耐性などが、健常者より低い傾向にありました。
特に注目されるのは、寛解期にある患者の割合が高い研究ほど、健常者とのレジリエンスの差が小さかったことです。
この結果は、レジリエンスが固定的な性質ではなく、気分状態や疾患経過によって変動する可能性を示唆しています。
ただし、研究間のばらつきが大きく、因果関係も明らかではありません。双極性障害の治療では、気分症状の安定化に加え、ストレス対処能力や感情調整能力など、レジリエンスに関連する側面にも注目することが重要と考えられます。
2026年5月に発表された、システマティックレビュー・メタ解析では、ADHDの子どものレジリエンス(心理的回復力・困難への適応力)に関連する要因が検討されました。
28研究、合計11,622人の子どもを対象とした解析の結果、学業成績にはワーキングメモリ(相関係数r=0.57)や学業スキル(r=0.49)、良好な対人関係には友人関係(r=0.45)や向社会的行動(r=0.38)が関連していました。
また、感情調整能力や周囲からの支援は、抑うつ・不安などの内在化症状や、攻撃性・反抗的行動などの外在化症状が少ないことと関連していました。
本研究で特に重要なのは、レジリエンスが子ども自身の能力だけで決まるものではなく、親子関係、友人関係、学校や地域社会からの支援など、さまざまな要因によって支えられるという点です。
さらに、学業成績、精神的健康、対人関係など、目標とする領域によって重要なレジリエンス関連要因が異なることも示されました。
この結果は、ADHDの子どもへの支援では、苦手なことの改善だけでなく、本人の強みを伸ばし、周囲の人間関係や支援環境を整えることが重要である可能性を示しています。
ただし、主に観察研究に基づく結果であり、これらの要因を改善することで実際に症状や生活機能が改善するかについては、今後の研究が必要です。
共通点:レジリエンスは“診断横断的(transdiagnostic)”な保護因子
多くの研究で、レジリエンスは うつ・不安・PTSDなど複数の精神疾患に共通して働く保護因子 とされています。
ACEが多いほど、うつ・不安・PTSD・依存症などのリスクが上昇することが知られています。
しかし、ACEがあっても“必ず”問題が起きるわけではない
ここで重要なのがレジリエンスです。
レジリエンスはACEの影響を“緩衝(buffer)”する
研究では、以下の因子がACEの悪影響を弱めることが示されています:
つまり、ACEはリスクを高める一方で、 レジリエンス因子が十分にある場合、精神健康は大きく保護される という二重構造になっています。
レジリエンスとは、困難に傷つかない能力ではなく、困難の中でも自分自身や周囲の力を利用しながら適応し、回復していく力・過程です。
一人で我慢することがレジリエンスではありません。
休むこと、考え方を変えること、人に相談すること、治療を受けることも、すべて回復のために利用できる大切な力です。
そして、つらいときにすぐ立ち直れなくても、それだけで「心が弱い」ということにはなりません。
回復の仕方や速度は、一人ひとり違ってよいのです。
・1)Sisto A, et al.: Towards a Transversal Definition of Psychological Resilience: A Literature Review. Medicina (Kaunas), 55: 745, 2019.
・2)Liu C, et al.: The effect of exercise interventions on enhancing psychological resilience: a systematic review and meta-analysis. BMC Psychol, 14: 1167, 2026.
・3)Clougher D, et al.: Resilience in Bipolar Disorder Compared to Clinical and Non-Clinical Populations: A Systematic Review and Meta-Analysis. Acta Psychiatr Scand, 153:6–23, 2026.
・4)Cheung YCH, et al.: “Which resilience factors are the most effective for which Outcomes?” A systematic review and Meta-Analysis of multisystemic resilience of children with ADHD. Eur Child Adolesc Psychiatry, 35:1397–1413, 2026.
