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044-455-7500私たちの日常には、おいしい食事、心地よい風、好きな音楽、誰かとの楽しい会話など、小さな「よい出来事」があります。
しかし忙しかったり、心に余裕がなかったりすると、せっかくのよい出来事があっても、十分に味わうことなく通り過ぎてしまうことがあります。
ポジティブ心理学には、こうしたポジティブな経験に意識を向け、そこから生まれる喜びや心地よさを十分に味わう「Savoring(セイバリング)」という考え方があります。
近年では、ウェルビーイングを高めるだけでなく、うつや不安などの心理症状を軽減する可能性についても研究されています。
「savor」という英語には、「味わう」「じっくり楽しむ」といった意味があります。
心理学におけるSavoringは、BryantとVeroffらによって体系化され、
ポジティブな経験に意識的に注意を向け、そこから生じる肯定的な感情を味わい、持続させたり高めたりする心理的プロセスと考えられています。
例えば、おいしいコーヒーを飲んだとき、
「おいしい」
と思ってすぐにスマートフォンを見るのではなく、
このように、その瞬間の「よさ」に少し長く注意を向けることがSavoringです。
Savoringは、現在の出来事だけを対象にするわけではありません。
大きく3つの時間軸があります。

つまり、
楽しみにする → 実際に味わう → 後から思い返す
というように、一つのポジティブな経験を何度も味わうことができます。
Savoringというと、「毎日楽しいことを見つけなければならない」と思うかもしれません。
しかし、大きな出来事である必要はありません。
例えば、
といった、ごく小さな出来事でも構いません。
Savoringで大切なのは、「もっと幸せな出来事を増やそう」とすることよりも、すでに存在している小さなよい経験に気づき、それを十分に受け取ることです。
「今、少しうれしい」「気持ちがいい」と気づきます。
何が見えるか、どんな音がするか、どんな香りや味がするかなどに注意を向けます。
「うれしい」「楽しい」「安心する」「心地よい」と、自分が感じていることを意識します。
「今日こんなことがあった」と家族や友人に話すことも、ポジティブな経験を味わう方法の一つです。
写真を撮ったり、日記に書いたりして、その経験を後から思い出せるようにします。
Savoringとマインドフルネスは、「経験に注意を向ける」という点では似ています。
しかし、少し目的が異なります。

例えば、美しい夕焼けを見たとします。
マインドフルネスでは、
「空が赤くなっている」「風を感じる」
と、その経験を評価せず観察します。
Savoringでは、
「きれいだな」「この時間は心地よいな」
と、そのとき生じたポジティブな感情を十分に味わいます。
両者は対立するものではなく、実際には重なる部分もあります。
うつ病では、悲しみや不安などのネガティブな感情が増えるだけではありません。
重要な症状の一つに、
「以前は楽しかったことを楽しめない」
というアンヘドニア(快感消失)があります。
そのため、近年では、
ネガティブな感情を減らすことだけでなく、
ポジティブな感情を経験する力を回復させること
にも注目が集まっています。
Savoringは、この後者に働きかけるアプローチの一つとして研究されています。
2026年に発表されたSavoring介入の系統的レビュー・メタ解析では、20件の独立したランダム化比較試験(RCT)、4,805人が解析されました1)。
Savoring介入の全体的な効果量は、
で、全体として中等度の効果が認められました。
また、
と報告されており、単に幸福感を高めるだけでなく、うつや不安などの症状を軽減する可能性も示されています。
ただし、Savoringをうつ病や不安症の標準的な治療の代わりとして使用できることを意味するものではありません。今後さらに研究を重ねる必要があります。
Savoringと反対方向の心理反応として、Dampening(ダンペニング)というものがあります。
これは、せっかくポジティブな出来事があっても、その喜びを自分で弱めてしまうような反応です。
例えば、
「仕事を褒められた」
→「たまたまうまくいっただけ」
「今日は楽しかった」
→「でも明日はまたつらい」
「旅行に来て楽しい」
→「もうすぐ終わってしまう」
といった考え方です。
Savoringでは、このようにポジティブな感情をすぐに打ち消してしまう思考に気づくことも大切になります。
難しい練習をする必要はありません。
一日の中で、
「ちょっとよかったな」
と思った瞬間があったら、すぐに次のことを始めるのではなく、10~20秒だけその感覚に注意を向けてみます。
例えば、寝る前に今日の「よかった瞬間」を一つ思い出して、
という方法でも構いません。
Savoringで最も注意したいのは、
「つらくても前向きに考えましょう」
という方法ではないことです。
悲しいときには悲しみがあり、不安なときには不安があります。それを否定したり、無理に幸せを探したりする必要はありません。
Savoringは、ネガティブな感情を消そうとするのではなく、
「つらさがある中でも、小さな心地よさや喜びが現れたときには、それを急いで通り過ぎず、少しだけ味わってみる」
というアプローチです。
Savoring(セイバリング)とは、日常にあるポジティブな経験に意識を向け、そこから生まれる喜びや心地よさを十分に味わい、持続させるポジティブ心理学の考え方です。
特別な出来事を必要とせず、食事、景色、音楽、人との会話など、日常の小さな「よい瞬間」を対象にできます。
近年の研究では、ウェルビーイングを高めるだけでなく、うつや不安などの心理症状を軽減する可能性も示されています。
Savoringとは、「幸せにならなければならない」と努力することではなく、すでにそこにある小さな幸せを、少し立ち止まって味わうことなのかもしれません。
1)Chen PH, et al.: Effectiveness of savoring interventions: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Appl Psychol Health Well Being, 18: e70134, 2026.
