ADHDにはどんな病気が併存しやすい?

ADHD(注意欠如・多動症)というと、

  • 「集中することが難しい」
  • 「忘れ物が多い」
  • 「じっとしていることが苦手」
  • 「考えるより先に行動してしまう」

といった不注意・多動性・衝動性を思い浮かべる方が多いかもしれません。

しかし近年、ADHDについて考える際には、このような中心症状だけでなく、一緒に生じやすい精神疾患や身体的な健康問題にも目を向けることが重要と考えられています。

2024年、KangらはADHDとさまざまな健康状態との関連について、これまでに行われたメタ解析をさらに統合したアンブレラレビュー(umbrella review)を発表しました1)。

2億3,400万人以上を含む大規模研究

この研究は、一つの臨床試験や観察研究ではありません。

複数の研究を統合した「メタ解析」を、さらにまとめて評価するアンブレラレビューです。

研究では、

  • 22件のメタ解析
  • 544件の一次研究
  • 76種類の健康状態
  • 36か国・6大陸
  • 2億3,400万人以上

という非常に大規模なデータが検討されました。 さらに、単に「関連があった・なかった」だけでなく、GRADEという方法を用いて、それぞれの結果についてエビデンスの確実性も評価しています。

ADHDと精神疾患の併存

まず、精神科診療で重要なのが他の精神疾患との関連です。

研究では、ADHDと複数の精神・神経学的状態との間に以下の関連が認められました。

ADHDと関連が強い精神・神経学的な健康問題

特に、双極性障害、統合失調症、パーソナリティ障害については、エビデンスの確実性が「High」と評価されました。

うつ病についてもOR 3.00という有意な関連が認められ、エビデンスの確実性は「Moderate」でした。

ただし、この数字には注意が必要です。

例えば、

「ADHDがあると、ADHDが原因となって双極性障害を5.88倍発症する」

という意味ではありません。

OR(オッズ比)は、この研究ではADHDとそれぞれの健康状態との関連の強さを示す指標として理解する必要があります。

ADHDでは「その場の文脈や相手に合わせて言葉を使うこと」の困難の併存がある?

興味深い結果の一つが、pragmatic language skills(語用論的言語能力)です。

ADHDでは、

  • SMD=−1.55
  • 95%CI −1.95~−1.14

という関連が認められ、エビデンスの確実性はHighでした。

語用論的言語能力とは、単純に「言葉をたくさん知っている」ということではありません。

例えば、

  • 相手や状況に合わせて話す
  • 会話の文脈を理解する
  • 相手の意図を読みながら会話する

といった、社会的な場面で言語を適切に使用する能力に関係します。

ADHDを理解するうえでは、不注意や衝動性だけでなく、こうしたコミュニケーションの側面にも注意する必要があることを示唆する結果です。

ADHDと睡眠に関する問題の併存

現在までの研究で、ADHDでは、睡眠に関するさまざまな問題との関連も報告されています。

今回の研究では、

  • 夜間覚醒の増加
  • 入眠までに時間がかかる
  • 睡眠効率の低下
  • 日中の眠気
  • 睡眠の質の低下
  • 睡眠呼吸障害
  • REM densityの低下

などとの関連が示されました。

このうち、夜間覚醒との関連についてはHigh certaintyと評価されています。

一方で、睡眠関連の結果の中にはエビデンスの確実性が低いものもあります。

そのため、

「ADHD=睡眠障害」ではありませんが、ADHDの診療では睡眠状態について確認することも重要

と考えるのが適切といえます。

ADHDと肥満・糖尿病の併存

ADHDと身体的な健康状態との関連も報告されています。

代表的なのが肥満と2型糖尿病です。

2型糖尿病

  • OR=2.29
  • 95%CI 1.49~3.53

成人の肥満

  • OR=1.55
  • 95%CI 1.28~1.87

でした。

特に成人の肥満との関連についてはHigh certaintyと評価されました。

著者らは考えられる背景の一つとして、ADHDにみられることがある計画、整理、意思決定などの実行機能の問題が、食生活や身体活動などの生活習慣に影響する可能性を挙げています。

ただし、これについても「ADHDが肥満を直接引き起こす」と証明されたわけではありません。

ADHDとアレルギー疾患の併存

ADHDとアレルギー関連疾患との関連も検討されています。

今回の研究では、

  • アトピー性疾患
  • アトピー性皮膚炎
  • アレルギー性鼻炎
  • 喘息

との関連が示されました。

特に、小児・青年期の喘息との関連はHigh certaintyと評価されています。

著者らは、慢性的なストレスに関連した免疫反応や炎症、さらに共通する遺伝的要因などを、こうした関連を説明する可能性のある要因として挙げています。

ADHDと「目」の問題の併存

今回の研究では、視覚に関する関係についても研究され、以下のような結果でした。

ADHDと関連が報告された視覚の問題

このうち、乱視・遠視・斜視についてはエビデンスの確実性がHighと評価されています。

ADHDというと脳や行動の特徴に注目しがちですが、こうした結果は身体的な健康状態にも幅広く目を向けることの重要性を示しています。

ADHDと自殺関連行動

精神科診療において特に注意すべき結果が、自殺関連行動との関連です。

研究では、以下の関連が報告されました。

ADHDと自殺関連行動・死亡のリスク

特に自殺念慮についてはHigh certaintyと評価されています。

ただし、ここでも注意が必要です。

この結果から、

「ADHDそのものが自殺を直接引き起こす」

と結論づけることはできません。

ADHDには他の精神疾患が併存することがあり、心理社会的な要因なども関係します。

それでも、自殺念慮などとの関連が示されていることは、ADHDを診療する際に現在の気分や希死念慮などについても適切に評価することの重要性を示す結果と考えられます。

特にエビデンスの確実性が高かった12項目

今回検討された76の健康状態のうち、次の12項目についてHigh certaintyのエビデンスが認められました。

  • 双極性障害
  • パーソナリティ障害
  • 統合失調症
  • 語用論的言語能力
  • 夜間覚醒
  • 肥満
  • 初期う蝕面
  • 乱視
  • 遠視
  • 斜視
  • 喘息
  • 自殺念慮

です。

精神疾患だけでなく、睡眠、代謝、歯科、眼科、アレルギーなど非常に幅広い領域が含まれていることが分かります。

ADHDで特に関連が強い健康問題

ADHDは「不注意・多動・衝動性」だけではない

今回の研究から見えてくる重要なポイントは、

ADHDを不注意・多動・衝動性だけの問題として捉えないこと

だと思います。

ADHDでは精神疾患だけでなく、

  • 睡眠
  • 代謝
  • 骨折
  • 口腔
  • アレルギー
  • 視覚
  • 自殺関連行動

など、幅広い健康状態との関連が報告されています。

そのため著者らは、ADHDのある人を診療するときには、精神・神経疾患だけでなく、睡眠、自殺関連、代謝、筋骨格、口腔、アレルギー、視覚なども含めた包括的・全人的な評価が重要であると結論づけています。

「関連がある」ことと「原因である」ことは違う

今回の研究で示されたのは基本的にADHDとさまざまな健康状態との「関連」です。

因果関係が証明されたわけではありません。

研究には小児・青年と成人など異なる集団が含まれており、横断研究と縦断研究も混在していました。そのため著者らも、ADHDと各健康状態の時間的な前後関係を明確にすることが難しいとしています。

さらに、76のメタ解析のうち34.2%では大きな異質性があり、20.5%では出版バイアスの統計学的証拠が認められました。

したがって、

「ORが高い=必ずその病気になる」

という解釈は適切ではありません。

まとめ

2024年に発表された大規模アンブレラレビューでは、22件のメタ解析、544件の一次研究、76種類の健康状態、2億3,400万人以上のデータが検討されました。

その結果、ADHDは、

双極性障害・統合失調症・パーソナリティ障害・うつ病などの精神疾患

だけでなく、

睡眠問題、肥満、2型糖尿病、喘息、視覚異常、自殺関連行動など

幅広い健康状態と関連することが示されました。

特に、双極性障害、パーソナリティ障害、統合失調症、語用論的言語能力、夜間覚醒、肥満、初期う蝕面、乱視、遠視、斜視、喘息、自殺念慮の12項目については、エビデンスの確実性がHighと評価されています。

ADHDの診療では、不注意・多動・衝動性だけを見るのではなく、こころと身体の両方を含めて、その人が抱えている困難を総合的に評価することが重要と考えられます。

文献

1)Kang J, et al.: Comorbid health conditions in people with attention-deficit/hyperactivity disorders: An umbrella review of systematic reviews and meta-analyses. Asian Journal of Psychiatry, 99:104135, 2024.

当院のコラムは、一般的な医療情報の提供を目的として掲載しております。コラムの内容に関する個別のご相談やご質問につきましては、診察を行わずに医学的な判断をすることが難しいため、当院に通院されていない方への個別の回答はいたしかねます。何卒ご理解くださいますようお願いいたします。

執筆者

院長 宮本 浩司(みやもと こうじ)

院長 宮本浩司

川崎市・溝の口の心療内科・精神科
高津心音メンタルクリニック
・ 精神保健指定医
・ 日本精神神経学会認定専門医・指導医