双極性障害躁状態にはどの薬が有効?

2026年の大規模ネットワークメタ解析から

双極性障害躁状態(躁病エピソード)では、気分の高揚がみられます。

また、活動性が著しく高まったり、睡眠時間が短くなったりするなどの症状が生じます。

躁状態が強くなると、判断力の低下が生じます

また、対人関係や仕事上のトラブルなどにつながることがあり、適切な治療が重要です。

2026年7月、急性双極性障害躁状態に対する薬物療法を比較した解析が発表されました1)。

研究では113件のランダム化比較試験、20,666人のデータが解析されました。

その中で、49種類の治療について、有効性や治療継続のしやすさなどが比較されました。

今回の双極性障害躁状態の薬物療法の比較の研究の特徴は「用量」まで比較したこと

これまでにも急性双極性障害躁状態の薬物療法を比較した研究はありました。

しかし、今回の研究では、

といったように、同じ薬でも用量ごとに別の治療として評価しています。

成人だけでなく小児・青年も対象に含められています。

また、単剤療法だけでなく、気分安定薬への追加療法も解析されました。

年齢を限定せず、薬剤の用量効果まで同時に評価した更新の解析とされています。

双極性障害躁状態では、どの薬が躁症状を改善したのでしょうか?

研究ではYMRS(Young Mania Rating Scale)などを用いて躁症状の変化を評価しました。

研究の質が低い試験や外れ値の影響を除いた感度分析でも、複数の治療がプラセボより有意に躁症状を改善しました。

代表的な治療は次の通りです(図1、2)。

図1

治療効果量(SMD)
リスペリドン 3 mg/日−7.57
タモキシフェン 160 mg/日−1.73
リバスチグミン 3 mg/日−1.13
ハロペリドール 30 mg/日−0.96
バルプロ酸 750 mg/日−0.76
タモキシフェン 40 mg/日−0.75
セレコキシブ 400 mg/日−0.74
パリペリドン徐放錠 12 mg/日−0.62
オランザピン 15 mg/日−0.59
アロプリノール 600 mg/日−0.54
リスペリドン 4 mg/日−0.53
オランザピン 20 mg/日−0.52
カリプラジン 12 mg/日−0.49
リチウム 1500 mg/日−0.42
アセナピン 20 mg/日−0.38
アリピプラゾール 15 mg/日−0.33

図2

双極性障害躁状態に対する薬物療法の効果量

SMDは0から離れるほどプラセボとの差が大きく、この解析ではマイナス方向に大きいほど躁症状の改善が大きいことを示します。

ただし、この表をそのまま「薬の強さランキング」と解釈することはできません。

リスペリドン3 mgの「SMD −7.57」は慎重に考える必要があります

今回の結果ではリスペリドン3 mg/日の効果量が突出しています。

しかし、SMD −7.57という値は非常に大きく、通常の臨床試験でみられる効果量としては極端です。

著者ら自身も、大きな効果量が認められた研究ほど研究の質が低い傾向があり、小規模研究、間接比較、データ不足による標準偏差の補完などによって効果量が過大評価されている可能性を指摘しています。

また、CINeMAによるエビデンスの確実性評価では、躁症状変化に関する比較のほとんどがlow(低い)またはvery low(非常に低い)と評価されました。

したがって、「リスペリドン3 mgが他の薬より圧倒的に優れている」と結論づけることはできません。

双極性障害躁状態における、通常の治療薬以外にも興味深い結果

今回の研究で特に興味深いのは、抗精神病薬や気分安定薬以外にも、躁症状を改善する可能性のある薬剤が示されたことです。

タモキシフェン ― PKCを阻害する薬

タモキシフェンは本来、乳がんなどに用いられる薬ですが、protein kinase C(PKC)を阻害する作用を持っています。

躁状態ではPKCシグナルの異常が病態に関係する可能性が指摘されており、過去にもタモキシフェンの抗躁効果を検討した臨床試験が行われています。

今回の解析でも160 mg/日および40 mg/日でプラセボより躁症状を改善しました。

ただし、これは現在の標準的な躁病治療薬という意味ではありません。

リバスチグミン ― アセチルコリン系

リバスチグミンはアルツハイマー型認知症などに用いられるコリンエステラーゼ阻害薬です。

今回の解析では、バルプロ酸への追加療法として高い抗躁効果が示されました。

著者らは、この結果について、躁状態ではノルアドレナリン系がコリン作動性神経系に対して優位になるという「コリン作動性―アドレナリン作動性バランス仮説」と関連する可能性を考察しています。

アロプリノール ― アデノシン系

アロプリノールは通常、高尿酸血症や痛風の治療薬として使用されます。

著者らは、アロプリノールによって脳内アデノシンが増加し、アデノシンとドパミンの相互作用を介して躁症状が改善する可能性を説明しています。

今回の解析では600 mg/日がプラセボより有意に躁症状を改善しました。

セレコキシブ ― 炎症を抑える薬

セレコキシブはCOX-2阻害薬で、通常は疼痛や炎症の治療に使用されます。

躁状態の病態には炎症反応も関与している可能性があり、今回の解析でもセレコキシブ400 mg/日が躁症状改善を示しました。著者らも、その抗炎症作用を介した補助療法としての可能性に言及しています。

双極性障害躁状態の「治療反応率」では明確な差が出なかった

興味深いことに、躁症状の点数変化では多くの薬剤に有効性が認められた一方、YMRSが50%以上改善したか

などで評価する治療反応率では、主要解析においてプラセボより明確に優れた治療はありませんでした。

59件のRCT、14,163人を解析した結果です。

著者らは、研究によって治療反応や寛解の定義が異なっていたことなどが、この結果に影響した可能性を指摘しています。

つまり、「躁症状の平均点は下がる」ことと、「一定基準以上改善した患者さんの割合が明確に増える」ことは、必ずしも同じ結果にならなかったということです。

双極性障害躁状態の薬物治療における副作用・治療継続性はどうだった?

主要な安全性評価は、理由を問わない治療中止、すなわちacceptability(受容性・治療継続のしやすさ)でした。

主要解析では、治療間で明確な差は確認されませんでした。

ただし著者らは、個々の薬剤について興味深い特徴を指摘しています。

ハロペリドールは有効だが副作用に注意

ハロペリドールは躁症状に対する有効性が確認された一方、ハロペリドール10 mg/日は最も忍容性が低く、acceptabilityも低かったとされています。

その背景には錐体外路症状があると考察されています。

さらにハロペリドールでは、用量が増えるほど錐体外路症状のリスクが高くなる傾向が認められました。

今回の研究が「薬剤名」だけでなく用量まで評価したことの臨床的な意味がよく表れている結果です。

小児・青年ではどうだった?

小児・青年だけを対象とした感度分析では、ジプラシドン(日本未承認)160 mg/日、セレコキシブ200 mg/日、アセナピン20 mg/日、アセナピン10 mg/日がプラセボより有効でした。

ただし成人の結果と同様、研究数やエビデンスの確実性を考慮して慎重に解釈する必要があります。

今回の研究から分かること

今回の大規模ネットワークメタ解析では、急性双極性障害躁状態に対して、リスペリドン、オランザピン、パリペリドン、カリプラジン、アリピプラゾールなどの抗精神病薬、リチウムやバルプロ酸などの気分安定薬の有効性が改めて示されました。

同時に、

  • PKCを標的とするタモキシフェン
  • アセチルコリン系に作用するリバスチグミン
  • アデノシン系に関連するアロプリノール
  • 炎症を抑えるセレコキシブ

などにも抗躁効果のシグナルが認められました。

これは、双極性障害躁状態の病態が単純なドパミンやセロトニンだけではなく、PKC、コリン作動性神経、プリン作動性神経伝達、炎症など多様な生物学的機序と関連している可能性を考えるうえでも興味深い結果です。

この研究を読む際の注意点

今回の研究には大規模な解析という強みがありますが、著者ら自身もいくつかの限界を挙げています。

特に、

  • 一部の治療は研究数が少ない
  • 間接比較を含む
  • 小規模研究の影響を受ける
  • 欠損した標準偏差を統計的に補完した研究がある
  • エビデンスの確実性が多くの比較でlow~very low
  • 単剤療法と追加療法の両方を主要ネットワークに含んでいる

といった点があります。

そのため、この結果をそのまま処方薬の順位表として利用することはできません。

実際の治療では、躁状態の重症度、精神病症状の有無、混合性の特徴、過去の治療反応、副作用、身体疾患、併用薬などを考慮して治療薬を選択する必要があります。

おわりに

2026年7月に発表された今回の研究では、急性双極性障害躁状態に対するさまざまな薬物療法を、薬剤だけでなく用量別に比較しました。

従来から使用されている抗精神病薬や気分安定薬の有効性が確認される一方、タモキシフェン、リバスチグミン、アロプリノール、セレコキシブなど、異なる作用機序を持つ治療にも興味深い結果が示されました。

一方で、効果量が大きく示された治療の中にはエビデンスの確実性が十分でないものもあり、最も効果量が大きい薬=最も優れた治療薬」と単純に考えることはできません。

今回の研究は、躁病治療において「どの薬を使うか」だけでなく「どの用量を使うか」、そして「有効性と副作用のバランスをどう取るか」が重要であることを改めて示した研究といえます。

文献

1)Fornaro M, et al.: Efficacy, acceptability, and related outcomes of pharmacological interventions for acute bipolar mania: a systematic review and dose-related network meta-analysis across different age groups. J Affect Disord, 414:122329, 2026.

執筆者

院長 宮本 浩司(みやもと こうじ)

院長 宮本浩司

川崎市・溝の口の心療内科・精神科
高津心音メンタルクリニック
・ 精神保健指定医
・ 日本精神神経学会認定専門医・指導医