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044-455-7500アレキシサイミア(失感情症)とは、自分の感情を認識したり、言葉で表現したりすることが難しい状態を指します。
1972年に精神科医のピーター・E・シフネオスによって提唱された概念です
ピーターは、ギリシャ語から“a(lack:欠けている)+lexis(word:言葉)+thymos(emotion:感情)”と名付けました。
近年では単なる性格ではなく、「感情を処理する特性(感覚・認知の特徴)」として考えられています。
アレキシサイミア(失感情症)は、うつ病、不安症、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD、統合失調症、摂食障害、慢性疼痛など、さまざまな疾患との関連が報告されています。
一方で、アレキシサイミア(失感情症)そのものは病気ではなく、適切な支援や心理療法によって改善が期待できる場合もあります。

アレキシサイミア(失感情症)では、次のような症状がみられます。
・「自分が怒っているのか悲しいのか分からない」
・「ストレスがあると頭痛や腹痛として現れやすい」
・「人から『どう感じた?』と聞かれても答えに困る」
・「感情をうまく伝えられず、人間関係で誤解されることがある」
症状をまとめると次の4つになります1)。
① 自分の感情を認識しにくい
② 感情を言葉で表現することが苦手
③ 感情と身体症状(動悸・腹痛・頭痛など)を区別しにくい
④ 想像や空想よりも現実的・事実中心の思考になりやすい
病気ではありません。
主に以下の疾患との関連が報告されています1)、4)~6)、(図1)。
感情を認識しにくくなることで、症状の改善や回復を妨げる可能性があります。
不安や緊張などの感情を認識しにくいことが、不安症状を強める要因になると考えられています。
トラウマ体験により感情を切り離す防御反応が続き、アレキシサイミア(失感情症)を伴うことがあります。
ASDではアレキシサイミア(失感情症)を併存する人が多く、対人関係の困難さの一部に関与している可能性がありま す。
感情認識や感情調整の困難さとの関連が報告されています。
アレキシサイミア(失感情症)を併存する人が多く、感情認識や感情表現の困難さが生活の質(QOL)の低下と関連することが報告されています。
感情表現や対人コミュニケーションの困難さとの関連が報告されています。
感情をうまく表現できず、食行動によって感情を調整しようとすることが一因と考えられています。
言葉にできないつらい感情を、自傷という行動で表現してしまうことがあります。
慢性的な痛みを持つ人では、アレキシサイミア(失感情症)の頻度が高いことが報告されています。
痛みの強さや生活の質(QOL)の低下との関連が報告されています。
感情をうまく認識・表現できないことが、症状の悪化に関与する可能性があります。

特にうつ病では、感情を認識しにくくなることで回復を妨げる可能性があります。
また、摂食障害や自傷行為では、つらい感情をうまく言葉にできず、行動として表現してしまうことが一因になると考えられています2)、3)、(図2)。

ASDでは、社会的コミュニケーションや対人関係に困難がみられることが特徴です4)。
一方、アレキシサイミア(失感情症)では、自分や他者の感情を認識し、言葉で表現することが難しいことが特徴です。
両者は併存することも多く、近年ではASDの感情認識の困難さの一部はアレキシサイミア(失感情症)によって説明できる可能性も報告されています。
近年、ADHDでも
・感情認識
・感情調整
が障害されることが報告されています。
現在、アレキシサイミア(失感情症)を評価する代表的な質問票として、TAS-20(トロント・アレキシサイミア尺度)とBVAQ(Bermond-Vorst Alexithymia Questionnaire)があります。
これらは研究や臨床で広く用いられていますが、診断を確定する検査ではありません。
完全に治るのではなく、改善する可能性があります
精神科、心療内科で相談できます。
アレキシサイミア(失感情症)は、一つの原因だけで起こるわけではなく、複数の要因が関係すると考えられています。
① 遺伝的要因
遺伝子研究では、セロトニン神経伝達系をはじめとする神経伝達物質との関連が報告されています7)。
遺伝的な体質が感情認識のしやすさに影響している可能性があります。
幼少期の虐待やネグレクト、いじめなどの心理的外傷(トラウマ)は、アレキシサイミア(失感情症)と深く関連しています8)。
強いストレス環境では、自分の感情を切り離すことが一時的な防御反応として働くことがあります。
その状態が長く続くと、感情を認識する力そのものが低下する可能性があります。
近年の脳画像研究では、
・島皮質
・前帯状皮質
・前頭前野
・右傍中心小葉
など、感情認識や自己認識に関わる脳領域の構造や機能に違いがみられることが報告されています9)。
アレキシサイミア(失感情症)そのものに対する特効薬はありません。
しかし、感情を認識し表現する力を育てる心理療法やリハビリテーションによって改善が期待できます 1)。
まず、
・身体感覚に注意を向ける
・「今どんな気持ちか」を言葉にする
・感情と身体症状を区別する
といった練習を繰り返します。
心理療法では感情日記(Emotion Diary)などを用いることもあります。
マインドフルネスでは、
・身体感覚
・思考
・感情
を評価せず、今この瞬間に意識を向け、ありのままを受け入れる訓練を行います。
これによって前頭前野の働きが高まり、感情調整能力の改善が期待されています。
HD-tDCSは、頭皮からごく弱い電流を流して脳活動を調整するニューロモデュレーション治療です。
近年、感情認識や感情調整への効果が研究されており、アレキシサイミア(失感情症)への応用も期待されています。
ただし、現時点では研究段階であり、標準治療として確立されているわけではありません。
以前は、アレキシサイミア(失感情症)は「感情を表現できない性格」と考えられることもありました。
しかし、現在では、脳の働きや発達、トラウマ、精神疾患など様々な要因が関係する神経心理学的な特性として、理解されるようになっています。
また、アレキシサイミア(失感情症)は本人の努力不足や性格の問題ではありません。
適切な心理療法や環境調整によって改善する可能性があり、背景にうつ病やASD、不安症などが隠れていることもあります。
「自分の気持ちがよく分からない」、「感情よりも身体の不調ばかり感じる」といった状態が続く場合には、一人で抱え込まず、精神科や心療内科で相談することをおすすめします。
1)Luminet O, Nielson KA.: Alexithymia: Toward an Experimental, Processual Affective Science with Effective Interventions. Annu Rev Psychol, 76: 741-769, 2025.
2)Yurtdaş Depboylu G, Fındık BE.: Relationships among alexithymia, psychological distress, and disordered eating behaviors in adolescents. Appetite, 200:107536, 2024.
3)Shi Y, et al.: Alexithymia and self-injury functions as mediators between childhood maltreatment and nonsuicidal self-injury in adolescents with major depressive disorder. Sci Rep, 15: 23097, 2025.
4)Kinnaird E, et al: Investigating alexithymia in autism: A systematic review and meta-analysis. Eur Psychiatry, 55:80-89, 2019.
5)Ozdemir E, et al.: Alexithymia in Schizophrenia and Psychosis Vulnerability: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Clin Psychol, 81: 410-424, 2025.
6)Poprelka K, et al.: Emotional processing in epilepsy: Investigating alexithymia and its associated factors. Epilepsy Behav, 170:110469, 2025.
7)Hernández-Díaz Y, et al.: Exploring Candidate Gene Studies and Alexithymia: A Systematic Review. Genes (Basel), 15: 1025, 2024.
8)Sharma P, et al.: Childhood Trauma, Emotional Regulation, Alexithymia, and Psychological Symptoms Among Adolescents: A Mediational Analysis. Indian J Psychol Med. 1:02537176241258251, 2024.
9)Terock J, et al. Alexithymia Is Associated with Altered Cortical Thickness Networks in the General Population. Neuropsychobiology, 79, 233-244, 2020.
