ディスチミア親和型うつ病とは?

うつ病というと、真面目で責任感が強く、仕事や家庭で無理を重ねた結果、

心身の疲労が蓄積して発症するというイメージを持つ方もいるかもしれません。

しかし、実際のうつ病の症状や発症の背景は一人ひとり異なります。

なかには、仕事や学校では強い抑うつ症状を感じる一方、休日や自分の好きな活動では

比較的元気に過ごせる方もいます。

こうした従来のうつ病像とは異なる抑うつ状態を理解するために、日本の精神医学では

「ディスチミア親和型うつ病」という概念が提唱されました1)。

今回は、ディスチミア親和型うつ病の特徴や、従来のメランコリー親和型うつ病との違い、

治療において大切な考え方について解説します。

ディスチミア親和型うつ病とは?

ディスチミア親和型うつ病は、2005年に樽味伸、神庭重信によって提唱された、

日本独自の精神病理学的な概念です。

従来のメランコリー親和型うつ病とは異なり、自己評価への敏感さ、社会的役割との距離感、

不全感、周囲への不満などに注目した抑うつ状態として説明されました。

特に、若年成人にみられる抑うつ状態を理解するための一つの考え方として議論されてきました。

ただし、ディスチミア親和型うつ病は、DSM-5-TRやICD-11などの国際的な診断分類に含まれる

正式な診断名ではありません。

また、独立した疾患としての妥当性が十分に確立されているわけでもありません。

そのため、実際の診療では、うつ病や適応反応症などの診断を適切に行ったうえで、

患者さんの心理的特徴や生活環境を理解するための補助的な視点として考えることが重要です。

メランコリー親和型うつ病との違い

日本では古くから、几帳面で真面目、責任感が強く、周囲への配慮を大切にする人が、

過重な負担などをきっかけにうつ病を発症するという「メランコリー親和型」の考え方が知られています。

一方、ディスチミア親和型では、自己評価や対人関係、社会的役割への向き合い方に

異なる特徴があるとされました。

メランコリー親和型うつ病とディスチミア親和型うつ病の違い

これらは提唱された類型の特徴を比較したものであり、すべての患者さんに当てはまるわけではありません。

また、どちらの類型が優れている、あるいは問題があるという意味でもありません。

ディスチミア親和型うつ病の主な特徴

① 自己評価や周囲からの評価に敏感

ディスチミア親和型では、自分自身への関心が強く、他者からどのように

評価されているかに敏感であるとされました。

職場や学校で期待どおりに評価されないことが、強い不満や不全感につながる場合があります。

ただし、こうした特徴を単純に「自己中心的」「自己愛が強い」と理解することは適切ではありません。

実際には、自己評価の低さや傷つきやすさが背景に存在する可能性もあります。

② 倦怠感や意欲低下、不全感が目立つ

従来のメランコリー親和型では、強い自責感や罪責感、精神運動制止などが注目されてきました。

一方、ディスチミア親和型では、慢性的な疲労感、意欲低下、漠然とした不全感などが

目立つ場合があるとされます。

また、仕事や人間関係に対する不満が、抑うつ症状とともに現れることもあります。

③ 環境によって症状が変動する

仕事や学校など、心理的負担の大きい環境では抑うつ症状が強くなる一方、

そこから離れると比較的元気に過ごせる場合があります。

例えば、出勤することは難しくても、休日には趣味や外出を楽しめることがあります。

しかし、こうした状態を「怠けている」「本当はうつ病ではない」と判断することはできません。

抑うつ症状の現れ方はさまざまであり、状況による変動がみられることもあります。

④ 治療が長期化する場合がある

ディスチミア親和型として記述された抑うつ状態では、薬物療法や休養だけでは

十分な改善が得られず、症状が長期化する場合があると指摘されてきました。

ただし、この類型に該当することによって、抗うつ薬が効きにくいと医学的に

確定できるわけではありません。

実際の治療では、診断、症状の重症度、併存疾患、生活環境などを総合的に評価する必要があります。

「新型うつ病」や「非定型うつ病」とは違う?

ディスチミア親和型うつ病は、一般に「新型うつ病」と呼ばれる状態と関連して紹介されることがあります。

しかし、「新型うつ病」は医学的に統一された診断名ではありません。

また、ディスチミア親和型うつ病と非定型うつ病も、同じ概念ではありません。

非定型うつ病は、好ましい出来事に対して気分が改善する「気分反応性」など、

特定の症状特徴に基づいて評価されるものです。

一方、ディスチミア親和型は、抑うつ症状に加えて、自己評価、対人関係、

社会的役割への向き合い方などに注目した概念です。

さらに、名前が似ている「気分変調症(dysthymia)」とも区別する必要があります。

気分変調症を含む持続性抑うつ障害は、抑うつ気分が長期間持続することなどを

特徴とする正式な診断カテゴリーです。

持続性抑うつ障害とディスチミア親和型うつ病は、異なる概念です。

ディスチミア親和型うつ病の治療

ディスチミア親和型うつ病に特化した標準治療は、現時点では確立されていません。

そのため、まずは抑うつ症状の原因や背景を丁寧に評価し、適切な診断を行うことが重要です。

薬物療法

うつ病と診断された場合には、症状の重症度や経過に応じて抗うつ薬などの使用を検討します。

ただし、すべての抑うつ状態に抗うつ薬が必要なわけではありません。

また、薬物療法だけで十分な改善が得られない場合には、診断や治療方針を見直すことも大切です。

精神療法

認知行動療法などの精神療法では、自己評価のあり方、ストレスへの対処、

対人関係、回避行動などについて検討することがあります。

例えば、他者からの評価を過度に気にする傾向や、失敗を強く恐れる考え方がある場合には、

それらを少しずつ整理していくことが役立つ可能性があります。

ただし、ディスチミア親和型という類型に対して、特定の精神療法の有効性が

確立しているわけではありません。

生活環境の調整

職場や学校でのストレスが症状に大きく影響している場合には、負担の調整や周囲の支援も重要です。

休養が必要な場合には十分な休養を確保し、その後は本人の状態に応じて、

無理のない範囲で活動や社会参加の回復を目指します。

大切なのは、休養と活動のどちらか一方を重視するのではなく、

症状や生活状況に合わせて調整することです。

患者さんの性格を責めないことが重要

ディスチミア親和型うつ病について考える際、特に注意したいのは、

患者さんの性格や態度を否定的に評価しないことです2)。

例えば、仕事には行けないのに趣味の活動はできるという状態を、

単純に「甘え」や「わがまま」と考えることは適切ではありません。

また、周囲への不満が強く表れる場合にも、その背景には、抑うつ症状、自己評価の低下、

対人関係の困難、環境的なストレスなどが存在する可能性があります。

精神疾患の診療で重要なのは、患者さんを特定の性格類型に当てはめることではなく、

一人ひとりがどのような苦痛を抱え、何によって生活が難しくなっているのかを理解することです。

まとめ

ディスチミア親和型うつ病は、従来のメランコリー親和型うつ病とは異なる抑うつ状態を理解するために、

日本で提唱された精神病理学的な概念です。

自己評価への敏感さ、不全感、社会的役割との関係、環境による症状の変動などに注目した点に特徴があります。

一方で、正式な診断名ではなく、独立した疾患として確立されているわけではありません。

そのため、実際の診療では、うつ病や適応反応症などの鑑別を行い、症状だけでなく、

心理的特徴や生活環境も含めて総合的に理解することが重要です。

うつ病の現れ方は一人ひとり異なります。従来の典型的なうつ病像に当てはまらないからといって、

その苦痛が軽いということではありません。

患者さんそれぞれの状態に合わせた治療と支援を考えることが、回復に向けた大切な一歩になります。

文献

  • 1)樽味伸, 神庭重信.:うつ病の社会文化的試論―とくに「ディスチミア親和型うつ病」について―.日本社会精神医学会雑誌, 13: 129–136, 2005.
  • 2)日本うつ病学会.「新型うつ病」に関するQ&A.

当院のコラムは、一般的な医療情報の提供を目的として掲載しております。コラムの内容に関する個別のご相談やご質問につきましては、診察を行わずに医学的な判断をすることが難しいため、当院に通院されていない方への個別の回答はいたしかねます。何卒ご理解くださいますようお願いいたします。

執筆者

院長 宮本 浩司(みやもと こうじ)

院長 宮本浩司

川崎市・溝の口の心療内科・精神科
高津心音メンタルクリニック
・ 精神保健指定医
・ 日本精神神経学会認定専門医・指導医