難治性抑うつ(DTD)とは?|治療抵抗性うつ病(TRD)との違い

うつ病では、抗うつ薬による治療を行っても十分な改善が得られず、

抑うつ症状が長期間続くことがあります。

これまで、このような状態は主に「治療抵抗性うつ病(Treatment-Resistant Depression:TRD)」

という概念で捉えられてきました。

しかし近年、従来のTRDとは異なる視点から、治療が難しい抑うつ状態を理解するための

「難治性抑うつ(Difficult-to-Treat Depression:DTD)」という概念が注目されています。

2020年には、McAllister-WilliamsらによってDTDの評価と治療に関する

国際コンセンサス声明が発表されました。

難治性抑うつ(DTDでは、抗うつ薬による症状の改善だけでなく、患者の生活機能、生活の質(QOL)、治療の負担、本人の希望なども重視します。

今回は、DTDという新しい概念と、従来のTRDとの違い、治療の考え方について解説します。

難治性抑うつ(DTD)とは?

難治性抑うつ(DTD)とは、通常の治療を行っても十分な改善が得られず、

抑うつ症状や生活上の困難が持続している状態を包括的に捉える概念です。

重要なのは、難治性抑うつ(DTD)が単に「抗うつ薬が効かないうつ病」を

意味するわけではないという点です。

うつ病の治療では、症状が完全に消失する「寛解」が重要な目標になります。

しかし、複数の治療を行っても寛解に至らない患者がいる一方、抑うつ症状が残っていても、

仕事に復帰できるようになる、家事ができるようになる、人間関係を維持できるようになるなど、

生活面で改善が得られる場合があります。

難治性抑うつ(DTDでは、このような生活機能やQOLの改善も、治療の重要な成果として評価します。

つまり、症状の寛解を目指しながら、寛解に至らない場合にも、

患者にとって意味のある改善を積み重ねていくことが難治性抑うつ(DTD)の基本的な考え方です。

なお、難治性抑うつ(DTD)は現時点でDSM-5-TRやICD-11における独立した診断名ではなく、

臨床的な評価と治療方針を考えるための概念です。

難治性抑うつ(DTD)と治療抵抗性うつ病(TRD)の違い

従来のTRDは、一般的に、十分な用量と期間による抗うつ薬治療を2種類以上行っても

十分な改善が得られない状態を指します。

一方、難治性抑うつ(DTD)では、抗うつ薬への反応性だけでなく、

抑うつ状態が長期間続くことによる疾病負担を重視します。

比較項目TRDDTD
日本語治療抵抗性うつ病難治性抑うつ
主な視点治療への反応性症状と生活上の負担
評価の中心抗うつ薬の治療歴と症状改善症状、生活機能、QOL、治療負担
治療目標主に症状の寛解寛解を目指しつつ、生活機能やQOLの改善も重視
治療方針有効な治療法の探索多面的な治療と長期的な疾病管理
治療抵抗性うつ病と難治性抑うつの違い

例えば、2種類の抗うつ薬で十分な改善が得られなかった場合、TRDの一般的な定義に該当することがあります。

しかし、その後の治療で寛解する可能性がなくなったわけではありません。

難治性抑うつ(DTD)という概念は、「治療に抵抗する」という表現によって、

治療の可能性を過度に限定してしまうことを避ける意味もあります。

また、DTDとTRDは完全に別の患者群を指すものではなく、両者には重なりがあります。

なぜうつ病の治療が難しくなるのか?

うつ病の治療が難しくなる背景には、さまざまな要因が関係しています。

① 診断に関係する要因

うつ病と診断されていても、経過の中で双極症(双極性障害)の可能性が明らかになる場合があります。

また、精神病症状を伴ううつ病や、長期間にわたって抑うつ症状が持続する病態などでは、

治療方法が異なることがあります。

そのため、十分な改善が得られない場合には、診断を改めて確認することが重要です。

② 併存する精神疾患や身体疾患

不安症、不眠症、物質使用の問題などが、抑うつ症状の改善を妨げる場合があります。

また、甲状腺機能低下症、睡眠時無呼吸症候群、慢性疼痛などの身体的な問題も、

抑うつ症状や疲労感に関係することがあります。

③ 薬物療法に関係する要因

抗うつ薬の種類だけでなく、投与量、治療期間、服薬状況、副作用なども治療効果に影響します。

十分な効果が得られない場合には、薬剤を変更する前に、これまでの治療内容を再評価することが重要です。

④ 心理社会的な要因

職場や家庭でのストレス、対人関係の問題、経済的な困難、社会的孤立なども、

抑うつ症状の持続に関係する場合があります。

DTDでは、こうした背景を含めて患者の状態を理解することが重視されています。

難治性抑うつ(DTD)ではどのような治療を行うのか?

難治性抑うつ(DTD)は特定の治療法を指す概念ではありません。

症状や生活機能の改善を目指して、薬物療法、精神療法、神経刺激療法、心理社会的支援などを組み合わせます。

① 難治性抑うつ(DTD)に対する薬物療法の見直し

抗うつ薬の効果が不十分な場合には、投与量や治療期間を確認し、

必要に応じて薬剤変更や増強療法を検討します。

増強療法としては、アリピプラゾールなどの第二世代抗精神病薬を併用する方法があります。

ただし、薬剤の選択には、症状、これまでの治療反応、副作用、身体的な状態などを

考慮する必要があります。

② 難治性抑うつ(DTD)に対する精神療法

認知行動療法(CBT)などの精神療法も、治療選択肢の一つです。

また、慢性的なうつ病に対して開発された認知行動分析システム精神療法(CBASP)も、

治療が難しい抑うつ状態に対して検討されています。

精神療法では、抑うつ症状への対処に加えて、ストレスへの対応、対人関係、生活習慣、

行動パターンなどにも取り組みます。

③ 難治性抑うつ(DTD)に対する反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)

反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)は、磁気刺激によって脳の神経活動を調整する治療法です。

抗うつ薬による治療で十分な改善が得られなかったうつ病患者に対して、有効性が示されています。

薬物療法とは異なる作用機序を持つため、治療選択肢を広げる方法の一つとなります。

ただし、すべてのDTD患者に適応となるわけではなく、症状や治療歴、実施条件などを

考慮して判断します。

④ 難治性抑うつ(DTD)に対する電気けいれん療法(ECT)

電気けいれん療法(ECT)は、重症うつ病や治療抵抗性の高いうつ病に対して

有効性が確立されている治療法の一つです。

特に、精神病症状を伴う場合や、緊急に症状の改善が必要な場合などに重要な選択肢となります。

⑤ 難治性抑うつ(DTD)に対する心理社会的支援

難治性抑うつ(DTD)では、薬物療法や精神療法だけでなく、日常生活を支える介入も重要です。

睡眠・覚醒リズムの調整、身体活動、家族支援、就労支援、社会参加への支援などを、

患者の状態に応じて取り入れます。

難治性抑うつ(DTD)では「寛解」だけが治療目標ではない

難治性抑うつ(DTD)の特徴の一つは、治療目標を多面的に考えることです。

うつ病の治療において、抑うつ症状の寛解は引き続き重要な目標です。

しかし、長期間にわたって症状が持続している場合には、寛解の達成だけを治療成果の基準にすると、

患者にとって重要な改善が十分に評価されない可能性があります。

例えば、次のような変化も治療上の意味を持ちます。

  • 抑うつ症状が軽減し、苦痛が少なくなる
  • 睡眠や日中の活動性が改善する
  • 家事や仕事を少しずつ再開できる
  • 家族や友人との交流が増える
  • 治療による副作用や負担が軽減する
  • 再発や症状の悪化を防ぐ

これらの目標は、患者によって重要度が異なります。

そのため、医療者が一方的に治療目標を決めるのではなく、患者本人の希望や価値観を確認しながら

治療方針を決める「共同意思決定(Shared Decision-Making)」が重要になります。

難治性抑うつ(DTD)は「治らないうつ病」という意味ではない

難治性抑うつ(DTD)という言葉から、「もう治らない」「治療方法がない」という印象を受けるかもしれません。

しかし、DTDは治癒や寛解が不可能であることを意味するものではありません。

複数の治療で十分な改善が得られなかった場合でも、診断や併存症の見直し、

新たな治療法の導入、心理社会的支援などによって改善が得られる可能性があります。

一方で、すべての患者が短期間で寛解するとは限りません。

そのため、治療効果と副作用のバランスを考えながら、長期的な視点で治療を継続し、

必要に応じて治療方針を見直していくことが重要です。

まとめ

難治性抑うつ(DTD)は、従来の治療抵抗性うつ病(TRD)を、より包括的な視点から捉え直すための概念です。

TRDが主に抗うつ薬への反応性に注目するのに対し、DTDでは、抑うつ症状だけでなく、

生活機能、QOL、治療負担、患者の価値観なども重視します。

また、薬物療法の変更を繰り返すだけでなく、診断や併存症の再評価、

精神療法、rTMSなどの神経刺激療法、心理社会的支援を組み合わせることが重要になります。

DTDという概念は、寛解を諦めるためのものではなく、寛解を目指しながら、

患者にとって意味のある改善を継続的に追求するための考え方といえます。

参考文献

  1. McAllister-Williams RH, et al.: The identification, assessment and management of difficult-to-treat depression: An international consensus statement. Journal of Affective Disorders, 267: 264–282, 2020.
  2. McAllister-Williams RH, et al.: Reconceptualising treatment-resistant depression as difficult-to-treat depression. The Lancet Psychiatry, 8: 14–15, 2021.
  3. 日本うつ病学会『うつ病治療ガイドライン2025』

当院のコラムは、一般的な医療情報の提供を目的として掲載しております。コラムの内容に関する個別のご相談やご質問につきましては、診察を行わずに医学的な判断をすることが難しいため、当院に通院されていない方への個別の回答はいたしかねます。何卒ご理解くださいますようお願いいたします。

執筆者

院長 宮本 浩司(みやもと こうじ)

院長 宮本浩司

川崎市・溝の口の心療内科・精神科
高津心音メンタルクリニック
・ 精神保健指定医
・ 日本精神神経学会認定専門医・指導医