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044-455-7500仕事には行けないのに、趣味や遊びには出かけられる。
学校の授業には出席できないのに、アルバイトや友人との交流は続けられる。
このように、仕事や学業など特定の活動に対して意欲が低下する一方、
それ以外の活動は比較的維持されている状態があります。
こうした状態を理解するために、日本の精神科医である笠原嘉が提唱した概念が「退却神経症」です。
退却神経症は、単なる怠慢や意欲不足ではなく、失敗への恐れ、自己評価、社会的役割との葛藤などが
関係する病態として考えられてきました。
今回は、退却神経症の特徴や背景、うつ病との違い、現代の精神科診療における位置づけについて解説します。
退却神経症(withdrawal neurosis)は、精神科医の笠原嘉が提唱した、日本独自の精神病理学的概念です。
主な特徴は、仕事や学業など、本人にとって重要な社会的役割から選択的に退却し、
無気力や無関心などが認められることです。
例えば、会社員の場合、出勤や仕事上の責任を回避する一方、休日の外出や趣味の活動は継続できる場合があります。
大学生の場合には、授業や試験には参加できなくても、サークル活動やアルバイトには参加できることがあります。
このように、生活全体に意欲低下が及ぶのではなく、特定の社会的役割に関連して
活動性が低下する点が特徴とされています。
ただし、退却神経症は現在のDSM-5-TRやICD-11における独立した正式な診断名ではありません。
あくまで、患者の心理状態や行動を理解するための臨床的・精神病理学的概念です。
退却神経症の概念は、1970年代以降、笠原嘉によって体系化されました。
笠原は当初、大学生にみられる無気力状態に注目し、「アパシー型神経症(神経症性アパシー)」という概念を
用いていました。
その後、同様の状態が大学生だけでなく、社会人にも認められることから、
「退却神経症」という名称を提唱しました。
1988年には『退却神経症―無気力・無関心・無快楽の克服―』を刊行しています。
この概念が重要なのは、仕事や学業に取り組めない状態を単なる意欲の欠如として捉えるのではなく、
その背景にある心理的な葛藤や自己評価の問題に注目した点です。
退却神経症では、以下のような特徴が指摘されています。
最も特徴的なのは、無気力が特定の活動に限局することです。
例えば、仕事に対しては強い無気力を示す一方、趣味や娯楽には比較的積極的に参加できる場合があります。
ただし、趣味や娯楽を楽しめるという特徴だけで、退却神経症と判断することはできません。
会社員であれば出勤や業務上の責任、学生であれば授業や試験など、
本来果たすことが期待されている社会的役割から距離を置くようになります。
こうした退却は、周囲からは怠慢や責任感の欠如と受け取られる場合があります。
しかし、本人にとっては、その役割に伴う心理的な負担が大きくなっている可能性があります。
笠原の精神病理学的理解では、失敗や敗北への敏感さ、他者からの評価、自尊心の問題などが重要とされています。
例えば、仕事で失敗することによって自己評価が低下するのを避けるため、
仕事そのものから距離を置くという心理的な過程が考えられます。
仕事や学校に戻ることを考えると不安や緊張が強くなる一方、その場から離れると
心理的な負担が軽減する場合があります。
このような場合、退却すること自体が不安を軽減する行動として機能し、
結果として回避が持続する可能性があります。
退却神経症では、周囲の人が問題視しているほど、本人が困っていないように見える場合があります。
ただし、本人が苦痛を感じていないとは限りません。
失敗への恐れや自己評価の問題が、表面上の無関心や無気力の背景に存在する可能性があります。

退却神経症とうつ病は、無気力や活動性の低下という点で共通しています。
しかし、古典的な病像にはいくつかの違いがあります。

ただし、これらはあくまで典型的な特徴を比較したものです。
うつ病でも、趣味や娯楽を部分的に楽しめたり、特定の場面で症状が強く現れたりする場合があります。
したがって、仕事には行けないのに趣味は楽しめるという理由だけで、うつ病を否定することはできません。
退却神経症そのものに対する標準化された治療ガイドラインは確立されていません。
臨床的には、症状や背景に応じて、以下のような対応が考えられます。
本人が仕事や学業のどのような側面を負担と感じているのか、失敗や評価にどのような意味を
見いだしているのかを丁寧に確認します。
必要に応じて、失敗への恐れや過度な自己評価の問題、回避行動などに焦点を当てた
精神療法的なアプローチを検討します。
認知行動療法の技法が役立つ場合も考えられますが、退却神経症そのものに対する
有効性が確立された特定の精神療法があるわけではありません。
過度な業務負担や対人関係の問題などが関係している場合には、環境調整を検討します。
必要に応じて、業務内容の変更や段階的な復帰などを考慮することもあります。
うつ病や不安症などが認められる場合には、それぞれの診断に応じた治療が必要です。
退却神経症という概念だけを根拠として、薬物療法を選択することは適切ではありません。
退却神経症は、笠原嘉が提唱した、仕事や学業などの社会的役割から選択的に退却する状態を
理解するための精神病理学的概念です。
特徴的なのは、生活全体に意欲低下が及ぶのではなく、本人にとって重要な社会的役割に
関連して無気力や回避が認められることです。
その背景には、失敗への恐れ、他者からの評価、自尊心の問題などが関係している可能性があります。
ただし、退却神経症は現在の国際診断基準における独立した正式な診断名ではありません。
仕事や学校に行けないという状態を、単なる怠慢や意欲不足と捉えるのではなく、
抑うつ症状、心理的な葛藤、発達特性、職場や学校の環境などを含めて総合的に評価することが重要です。
1)笠原 嘉.: 『退却神経症―無気力・無関心・無快楽の克服―』講談社現代新書, 1988年.
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