妊娠中の抗精神病薬・抗うつ薬と妊娠糖尿病リスク

妊娠中の抗精神病薬・抗うつ薬の使用は妊娠糖尿病のリスクを高める? ― 2026年最新メタ解析

妊娠中に抗精神病薬や抗うつ薬を使用することは、妊娠糖尿病の発症リスクと関連する可能性があることが、

2026年10月に発表されたシステマティックレビューおよびメタ解析で報告されました1)。

特に、第二世代抗精神病薬の使用では妊娠糖尿病の相対リスクが60%、抗うつ薬では19%高いことが示されました。

一方で、妊娠中の精神疾患の治療中断は、症状の再発や悪化につながる可能性があるため、

薬物療法の継続については慎重な判断が必要です。

妊娠糖尿病とは

妊娠糖尿病(Gestational Diabetes Mellitus:GDM)は、妊娠中に初めて発見または発症した

糖代謝異常のうち、糖尿病に至っていない状態を指します。

妊娠中は胎児への栄養供給を維持するため、生理的にインスリン抵抗性が増大します。このため、

妊娠前には血糖値に異常がなかった女性でも、妊娠中に血糖値が上昇することがあります。

妊娠糖尿病は、早産や帝王切開などの周産期合併症に加え、出産後の母親の2型糖尿病発症リスクとも

関連しています。

抗精神病薬や一部の抗うつ薬は、体重増加やインスリン抵抗性、糖代謝異常を引き起こす可能性があるため、

妊娠中の使用による影響が懸念されてきました。

21研究を対象としたメタ解析

2026年、Zhaoらは、妊娠中の抗精神病薬および抗うつ薬への曝露と妊娠糖尿病発症リスクの関連について、

システマティックレビューおよびメタ解析を実施しました。

PubMed、Scopus、Web of Scienceを用いて2025年6月までの研究を検索し、

最終的に21件の観察研究を解析対象としました。

抗精神病薬については13研究、抗うつ薬については7研究のデータを統合し、

妊娠糖尿病の発症リスクを評価しました。

抗精神病薬の使用で妊娠糖尿病のリスクが43%上昇

抗精神病薬を使用した妊婦では、使用していない妊婦と比較して、妊娠糖尿病の相対リスクが

43%高いことが示されました。

相対リスク(RR)=1.43(95%信頼区間:1.17~1.69)

さらに、抗精神病薬を第一世代と第二世代に分類して解析したところ、以下の結果が得られました。

抗精神病薬の分類相対リスク(RR)結果
第一世代抗精神病薬1.31(95% CI:0.29~2.32)有意な関連なし
第二世代抗精神病薬1.60(95% CI:1.23~1.97)60%高い

第二世代抗精神病薬では、妊娠糖尿病のリスク上昇との有意な関連が認められました。

一方、第一世代抗精神病薬では統計学的に有意な関連は確認されませんでした。

ただし、第一世代抗精神病薬が妊娠糖尿病のリスクを増加させないと結論づけることはできません。

また、妊娠第1~第3三半期を通じた抗精神病薬への曝露を評価した研究では、

妊娠糖尿病の相対リスクが57%高いことが示されました(RR=1.57、95% CI:1.10~2.03)。

抗うつ薬の使用でも妊娠糖尿病のリスクが19%上昇

抗うつ薬については、7研究を統合した結果、妊娠中の抗うつ薬への曝露と妊娠糖尿病発症との間に

有意な関連が認められました。

相対リスク(RR)=1.19(95%信頼区間:1.10~1.27)

これは、抗うつ薬を使用した妊婦では、使用していない妊婦と比較して妊娠糖尿病の相対リスクが

19%高かったことを意味します。

抗精神病薬と比較するとリスク上昇の程度は小さいものの、統計学的に有意な関連が認められました。

なお、本研究では複数の抗うつ薬をまとめて解析しており、個々の抗うつ薬による

リスクの違いについては十分に評価されていません。

なぜ抗精神病薬や抗うつ薬は妊娠糖尿病と関連するのか

抗精神病薬による糖代謝異常には、複数の神経伝達物質受容体が関与すると考えられています。

特に、ヒスタミンH1受容体やセロトニン5-HT2C受容体の遮断は、食欲増加や体重増加を引き起こし、

インスリン抵抗性を増大させる可能性があります。

また、ムスカリンM3受容体の遮断は、膵β細胞からのインスリン分泌を障害し、

血糖値の上昇につながる可能性があります。

第二世代抗精神病薬の中でも、オランザピンやクロザピンは、アリピプラゾールと比較して、

体重増加やインスリン抵抗性への影響が大きいことが知られています。

一方、抗うつ薬については、セロトニンシグナルの変化による糖代謝への影響や、

視床下部―下垂体―副腎(HPA)系の調節異常などが関与する可能性が考えられています。

ただし、これらの機序は本研究で直接検証されたものではなく、詳細については今後の研究が必要です。

妊娠中の向精神薬は中止すべきなのか

今回の研究結果は、妊娠中の抗精神病薬や抗うつ薬の使用を一律に中止すべきであることを

意味するものではありません。

統合失調症、双極性障害、うつ病などでは、薬物療法の中断によって

精神症状が再発・悪化する可能性があります。

精神疾患の悪化は、母親自身の健康状態だけでなく、妊娠中の生活管理や産科的ケアにも

影響を及ぼす可能性があります。

そのため、妊娠中の薬物療法では、精神症状の安定性と薬剤による代謝への影響を

総合的に評価することが重要です。

特に、肥満や糖尿病の家族歴など、妊娠糖尿病の危険因子がある場合には、産科と精神科が連携し、

適切な血糖モニタリングを行う必要があります。

まとめ

2026年に発表された21研究のシステマティックレビューおよびメタ解析では、

妊娠中の抗精神病薬および抗うつ薬への曝露が、妊娠糖尿病の発症リスク上昇と

関連することが示されました。

特に、抗精神病薬全体では43%、第二世代抗精神病薬では60%、抗うつ薬では19%の相対リスク上昇が

認められました。

妊娠中の向精神薬の使用と妊娠糖尿病のリスク

ただし、これらは観察研究に基づく結果であり、薬剤の使用そのものが妊娠糖尿病を

引き起こすという因果関係が証明されたわけではありません。

妊娠中の精神疾患治療では、薬剤による代謝リスクだけでなく、治療中断による

精神症状の再発リスクも考慮し、個々の患者さんに応じた治療方針を検討することが大切です。

文献

1)Zhao X, et al.: Exposure to antidepressant and antipsychotic medicines in pregnant women and risk of gestational diabetes: a systematic review and meta-analysis of observational studies. Archives of Women’s Mental Health, 29: 143, 2026.

当院のコラムは、一般的な医療情報の提供を目的として掲載しております。コラムの内容に関する個別のご相談やご質問につきましては、診察を行わずに医学的な判断をすることが難しいため、当院に通院されていない方への個別の回答はいたしかねます。何卒ご理解くださいますようお願いいたします。

執筆者

院長 宮本 浩司(みやもと こうじ)

院長 宮本浩司

川崎市・溝の口の心療内科・精神科
高津心音メンタルクリニック
・ 精神保健指定医
・ 日本精神神経学会認定専門医・指導医