統合失調症と認知症の関係

はじめに

統合失調症は、幻覚や妄想などの精神症状に加え、記憶力、注意力、遂行機能などの

認知機能にも影響を及ぼすことが知られています。

しかし、統合失調症に伴う認知機能障害と、加齢に伴って発症する認知症は同じものではありません。

近年、統合失調症などの精神病性障害患者では、一般人口と比較して認知症が

多く認められる可能性が報告されています。

2026年、医学誌『Asia-Pacific Psychiatry』に、統合失調症およびその他の

原発性精神病性障害と認知症の関係を検討したシステマティックレビュー・メタ解析が発表されました1)。

この研究では、約57万7,000人を含む29研究を検討した結果、

高齢の精神病性障害患者における認知症の統合有病率は24.3%と報告されました。

今回は、この研究結果と、統合失調症患者の長期的な認知機能評価の重要性について解説します。

統合失調症に伴う認知機能障害と認知症は異なる

統合失調症では、幻覚や妄想などの症状だけでなく、認知機能の障害が認められることがあります。

主に、以下のような認知機能が影響を受ける場合があります。

  • 注意力や集中力
  • 記憶力や作業記憶
  • 情報処理速度
  • 遂行機能(計画を立てて実行する能力)
  • 判断力や問題解決能力

こうした認知機能障害は、日常生活や社会生活に影響を及ぼすことがあります。

一方、認知症は、以前と比較して認知機能が低下し、日常生活に支障を来す状態です。

そのため、統合失調症患者に認知機能障害が認められたとしても、

それだけで認知症と診断されるわけではありません。

以前から存在していた認知機能障害なのか、それとも新たに認知機能が低下してきたのかを

区別することが重要です。

約57万7,000人を対象とした最新メタ解析

Gaoら(2026年)は、統合失調症およびその他の原発性精神病性障害患者における

認知症の有病率と発症率を検討しました。

研究の概要は以下のとおりです。

項目内容
対象研究29研究
対象者数576,727人
メタ解析12研究
認知症有病率を報告12研究
認知症発症率を報告19研究
対象地域欧州、北米、オーストラリア、アジアなど

本研究では、すでに認知症を有している患者の割合である「有病率」と、

追跡期間中に新たに認知症を発症した割合である「発症率」を区別して評価しました。

高齢の精神病性障害患者では認知症有病率が24.3%

高齢者を対象とした8研究を統合すると、認知症の有病率は27.2%でした。

さらに、他の研究と大きく異なる結果を示した1研究を除外したところ、

7研究、119,843人における統合有病率は以下のようになりました。

認知症有病率:24.3%(95%信頼区間 20.5~28.5%)

これは、研究対象となった高齢の精神病性障害患者では、

約4人に1人に認知症が認められたことを示しています。

一方、全年齢を含む4研究、73,367人では、認知症の統合有病率は9.4%でした。

研究対象認知症の統合有病率
全年齢を含む研究9.4%
高齢者を対象とした研究24.3%

ただし、これらは異なる研究集団の結果であり、同じ患者を追跡して年齢による変化を調べたものではありません。

また、今回の研究では45歳以上を含む研究も高齢者群に分類されているため、

24.3%という数値を65歳以上の統合失調症患者全体にそのまま当てはめることはできません。

さらに重要なのは、24.3%という数値は認知症の有病率であり、将来認知症を発症する確率ではないという点です。

統合失調症などの精神病性障害と認知症の関係

統合失調症の認知症の発症率は研究によって大きく異なる

認知症の新規発症については、19研究、501,118人のデータが検討されました。

その結果、追跡期間中に新たに認知症を発症した患者の割合は1.7~21.5%でした。

また、発症率は1,000人年あたり1.72~77.40件と、研究によって大きく異なっていました。

この違いには、対象患者の年齢、追跡期間、認知症の診断方法などが影響している可能性があります。

研究間のばらつきが大きかったため、認知症発症率については統合した数値を

算出することができませんでした。

したがって、今回の研究から、統合失調症患者が1年間にどの程度の確率で

認知症を発症するのかを正確に示すことはできません。

アルツハイマー病と血管性認知症

今回の研究では、認知症の種類についても検討されました。

人口ベースの研究では、アルツハイマー病の有病率が7.8~12.2%、血管性認知症が2~5%と報告されました。

認知症の種類報告された有病率
アルツハイマー病7.8~12.2%
血管性認知症2~5%

ただし、認知症の新規発症を調べた研究では、認知症の病型が特定されていない症例も多く含まれていました。

そのため、統合失調症患者において、どの種類の認知症が特に発症しやすいのかについては、

さらに研究が必要です。

統合失調症の認知症の有病率に影響する要因

今回の研究では、認知症の有病率が年齢や地域、研究方法によって異なることも示されました。

特に、高齢者では若年者より有病率が高く、欧州以外の地域では欧州より高い傾向が認められました。

また、病院の診療記録を利用した研究よりも、人口ベースの研究で有病率が高くなる傾向がありました。

この違いについて、著者らは、人口ベースの研究では施設入所者なども含めて、

認知症患者をより広く把握できる可能性を指摘しています。

さらに、積極的な認知症スクリーニングを行う研究では、それまで診断されていなかった

認知症が発見される可能性があります。

したがって、認知症の有病率を比較する際には、患者の年齢だけでなく、

診断方法や研究対象の違いにも注意する必要があります。

統合失調症患者の認知機能をどのように評価するか

統合失調症では、認知症を発症していなくても、注意力や記憶力などの認知機能に問題が認められることがあります。

そのため、認知症の評価では、単に認知機能検査の得点が低いかどうかだけでなく、

以前と比較してどの程度変化しているかを確認することが重要です。

例えば、次のような変化が認められる場合には注意が必要です。

  • 以前は覚えられていたことを忘れるようになった
  • 日常生活でできていたことが難しくなった
  • 服薬管理や金銭管理が以前より困難になった
  • 判断力や問題解決能力が徐々に低下している
  • 周囲の人から認知機能の変化を指摘されるようになった

こうした変化がある場合には、認知症だけでなく、精神症状の変化、薬剤の影響、睡眠障害、

身体疾患なども含めて評価する必要があります。

なお、今回の研究は認知症の有病率と発症率を調べたものであり、

抗精神病薬による治療が認知症リスクを上昇または低下させるかどうかを直接検証したものではありません。

まとめ

2026年に発表されたシステマティックレビュー・メタ解析では、

統合失調症などの原発性精神病性障害患者約57万7,000人を対象とした29研究が検討されました。

その結果、高齢者を含む研究における認知症の統合有病率は24.3%と報告されました。

ただし、研究間のばらつきは大きく、この数値をすべての統合失調症患者に当てはめることはできません。

また、今回の結果は、統合失調症患者の約4人に1人が将来認知症を発症することを意味するものではありません。

統合失調症の長期的な診療では、幻覚や妄想などの精神症状の安定だけでなく、

認知機能の変化にも継続的に注意を払うことが重要です。

文献

1)Gao M, et al.: Prevalence and Incidence of Dementia for Schizophrenia and Other Primary Psychotic Disorders: A Systematic Review and Meta-Analysis. Asia-Pacific Psychiatry, 18: e70033, 2026.

当院のコラムは、一般的な医療情報の提供を目的として掲載しております。コラムの内容に関する個別のご相談やご質問につきましては、診察を行わずに医学的な判断をすることが難しいため、当院に通院されていない方への個別の回答はいたしかねます。何卒ご理解くださいますようお願いいたします。

執筆者

院長 宮本 浩司(みやもと こうじ)

院長 宮本浩司

川崎市・溝の口の心療内科・精神科
高津心音メンタルクリニック
・ 精神保健指定医
・ 日本精神神経学会認定専門医・指導医