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044-455-7500統合失調症の治療では、抗精神病薬が中心的な役割を果たしていますが、運動療法や栄養療法の研究もされています。
抗精神病薬は、幻覚や妄想などの陽性症状に対して有効ですが、意欲の低下、感情表出の乏しさ、社会的な引きこもりなどの陰性症状については、十分な改善が得られない場合があります。
また、抗精神病薬の副作用として、体重増加、脂質異常、血糖値の上昇などの代謝性副作用が問題になることがあります。
こうした背景から、薬物療法に加えて運動療法を取り入れることが、
精神症状や身体的健康の改善につながるのではないかと注目されています。
2026年10月、医学雑誌『Journal of Affective Disorders』に、抗精神病薬を服用している患者に対する運動療法の効果を検討したシステマティックレビュー・メタ解析がオンライン公開されました1)。
この研究では、運動療法によって統合失調症の陰性症状が有意に改善し、
体重・体脂肪率・腹囲にも小さいながら改善が認められたことが報告されています。
今回は、この研究について解説します。
今回紹介する研究は、Etayo-Urtasunらによって報告されたシステマティックレビュー・メタ解析です。
研究者らは、抗精神病薬を服用している成人患者に対して、
運動療法を追加することで精神症状や代謝性副作用が改善するかを検討しました。
対象となったのは、28件のランダム化比較試験(RCT)、合計1,119人です。
研究対象の中心は統合失調症および統合失調感情障害の患者でしたが、
初回精神病エピソードやその他の精神病性障害の患者も一部含まれています。
運動療法は、主に有酸素運動や筋力トレーニングで、すべて専門家などの監督下で実施されました。
研究では、運動療法を行った群と、通常の治療や運動を含まない介入を受けた群を比較しています。
今回の研究で特に注目されるのは、陰性症状に対する効果です。
統合失調症の症状は、大きく陽性症状と陰性症状に分けられます。
陽性症状には幻覚や妄想などが含まれます。
一方、陰性症状には、
などが含まれます。
陰性症状は、日常生活や社会生活の機能に大きく影響する一方、
抗精神病薬だけでは十分に改善しない場合があります。
今回の研究では、精神症状の評価に主にPANSS(陽性・陰性症状評価尺度)が用いられました。
運動療法による改善効果は、以下のとおりでした。

平均差(MD)がマイナスであることは、運動療法を行った群で、
対照群と比較して症状がより改善したことを意味します。
特に陰性症状では、PANSS得点が平均3.08点改善しました。
この結果は統計学的に有意であり(p<0.001)、著者らが採用した最小臨床的重要差(MCID)の3点にも達していました。
つまり、運動療法による統合失調症の陰性症状の改善は、統計学的に有意であるだけでなく、
臨床的にも意味のある変化である可能性が示されました。
なお、PANSS総得点も有意に改善しましたが、平均改善量は約7点であり、
著者らが採用した臨床的重要差の15点には達していませんでした。
また、陽性症状については改善傾向が認められたものの、
統計学的に有意な効果は確認されませんでした(p=0.053)。
抗精神病薬の治療では、体重増加や脂肪の蓄積などの代謝性副作用が問題になることがあります。
特に、オランザピンやクロザピンなどの一部の抗精神病薬では、体重増加や代謝異常への注意が必要です。
今回の研究では、運動療法がこうした身体的な問題を軽減できるかについても検討されました。
その結果、体重、体脂肪率、腹囲で統計学的に有意な改善が認められました。

運動療法を行った群では、対照群と比較して、体重が平均1.62kg、体脂肪率が平均1.25パーセントポイント、
腹囲が平均1.42cm改善しました。
ただし、これらの改善量は比較的小さく、著者らが参照した臨床的重要差の基準には達していませんでした。
また、BMIについては有意な改善が認められませんでした。
したがって、運動療法によって抗精神病薬に関連する体重増加や脂肪蓄積を軽減できる可能性がありますが、
短期間で大幅な体重減少が期待できるという結果ではありません。
一方、今回の研究では、運動療法によるすべての代謝指標の改善が確認されたわけではありません。
収縮期血圧、拡張期血圧、空腹時血糖値については、統計学的に有意な改善が認められませんでした。
また、脂質代謝についても、多くの指標で明確な改善は確認されませんでした。
総コレステロールについては小幅な上昇が報告されましたが、
研究数が限られており、結果は一貫していませんでした。
つまり、運動療法によって体重や体脂肪率が改善しても、
血圧や血糖値、脂質代謝が必ず改善するとは限らないということです。
そのため、抗精神病薬を服用している患者では、運動習慣の有無にかかわらず、
体重、腹囲、血圧、血糖値、脂質などの定期的な評価が重要です。
今回の研究で検討された運動療法は、有酸素運動を中心としたものが多く、
一部では筋力トレーニングや両者の併用が行われていました。
具体的には、
などが含まれています。
運動プログラムの特徴は以下のとおりです。
| 項目 | 主な内容 |
| 運動の種類 | 有酸素運動、筋力トレーニング、両者の併用 |
| 運動頻度 | 週2~3回が中心 |
| 運動期間 | 12週間が最多 |
| 有酸素運動の強度 | 最大心拍数の60~80%程度 |
| 筋力トレーニングの強度 | 最大挙上重量の60~70%程度 |
多くの研究では、中等度から比較的高い強度の運動が実施されていました。
また、陰性症状については、運動強度と改善効果との間に統計学的に有意な関連が認められました(p=0.011)。
ただし、この解析は探索的なものであり、研究数も限られているため、
運動強度が高ければ高いほど効果が大きいと結論することはできません。
運動の種類による明確な効果の違いも確認されませんでした。
したがって、今回の研究から、特定の運動方法が最も優れていると判断することは困難です。
運動療法によって陰性症状が改善する理由については、いくつかの可能性が考えられています。
運動は、身体活動量や心肺機能だけでなく、脳の神経伝達や神経可塑性、
炎症などに影響する可能性があります。
また、運動プログラムに参加すること自体が、日常生活の活動性や社会的な交流を増やす機会になることも考えられます。
統合失調症では、意欲の低下や活動性の低下によって運動機会が減少し、
それに伴う身体機能の低下がさらに活動性を制限する場合があります。
運動療法によって、このような悪循環が改善する可能性もあります。
ただし、今回のメタ解析は主として症状や代謝指標の変化を評価したものであり、
陰性症状が改善する具体的な神経生物学的機序を証明したものではありません。
今回の研究で重要なのは、対象者が抗精神病薬による治療を受けていたことです。
運動療法は、抗精神病薬による治療に追加する形で実施されました。
したがって、本研究は運動療法だけで統合失調症を治療できることを示したものではありません。
特に、幻覚や妄想などの陽性症状については、運動療法による有意な改善は確認されませんでした。
そのため、運動療法は抗精神病薬の代替ではなく、薬物療法を補完する治療方法として考える必要があります。
陰性症状や活動性の低下が目立つ場合、患者の身体機能や精神状態に合わせて運動療法を導入することは、
有用な選択肢になる可能性があります。
本研究は、ランダム化比較試験28件を統合している点が強みですが、いくつかの限界があります。
まず、28研究のうち19研究が、バイアスリスクの高い研究と評価されました。
また、研究によって運動の種類、強度、実施期間が異なっており、結果にばらつきが認められました。
多くの運動プログラムは約12週間であり、運動療法を長期間継続した場合の精神症状や代謝指標への効果については、十分に分かっていません。
さらに、抗精神病薬の種類や用量によって、運動療法の効果がどの程度異なるかについても十分に評価できていません。
エビデンスの確実性については、陰性症状、一般精神病理症状、体重、体脂肪率、腹囲では「中程度」でしたが、その他の多くの項目では「低い」または「非常に低い」と評価されました。
そのため、今後はより大規模で質の高いランダム化比較試験が必要と考えられます。
今回のメタ解析では、抗精神病薬を服用している患者に対して運動療法を追加することで、
陰性症状が有意に改善することが示されました。
PANSS陰性症状得点は平均3.08点改善し、著者らが採用した臨床的重要差の基準にも達していました。
また、体重、体脂肪率、腹囲についても小さいながら有意な改善が認められました。
一方、陽性症状や血圧、血糖値、脂質代謝への明確な効果は確認されませんでした。
統合失調症の治療では、幻覚や妄想などの陽性症状だけでなく、
意欲の低下や活動性の低下、身体的健康の問題にも目を向けることが重要です。
運動療法は、抗精神病薬による治療を継続しながら、陰性症状の改善と身体的健康の維持を目指すための
有望な補助的治療と考えられます。
ただし、今回の研究で検証されたのは監督下で実施された運動療法であり、
自主的な運動でも同程度の効果が得られるかは明らかではありません。
患者の症状や体力、身体疾患の有無などを考慮し、無理なく継続できる運動方法を選ぶことが大切です。
Etayo-Urtasun P, et al.: Exercise to enhance antipsychotic effectiveness and mitigate metabolic harm: systematic review and meta-analysis. Journal of Affective Disorders, 416:122587, 2027.
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