統合失調症の「認知機能」は抗精神病薬で改善する?

統合失調症の治療というと、幻覚や妄想などの症状を改善することがまず思い浮かぶかもしれません。

しかし、統合失調症ではそれ以外にも、

  • 「集中しにくい」
  • 「物事を覚えにくい」
  • 「考えるのに時間がかかる」
  • 「複数の情報を頭の中で整理しにくい」

といった認知機能の問題がみられることがあります。

2026年に発表された研究では、抗精神病薬を使用したことのない初回エピソード統合失調症の患者さんを対象として、4種類の第二世代抗精神病薬(SGA)が認知機能にどのような影響を与えるのかが検討されました1)。

統合失調症と認知機能

統合失調症の認知機能障害は、病気の中核的な特徴の一つとされています。

今回の論文では、初回エピソード統合失調症の70~80%に中等度~重度の認知機能障害が認められると説明されています。

影響を受ける領域には、

  • 注意力
  • 情報処理速度
  • 言語記憶・視覚記憶
  • ワーキングメモリ
  • 実行機能
  • 微細運動機能

などがあります。

こうした認知機能は、単に「テストの成績」に関係するだけではありません。

仕事、学業、人とのコミュニケーション、日常生活などにも関係するため、統合失調症の治療を考えるうえで重要な領域です。

統合失調症の認知機能の影響について、4種類の抗精神病薬を比較

今回の研究では、

の4剤が比較されました。

解析対象となったのは、6か月後の認知機能検査まで完了した294人です。

内訳は、

  • ブロナンセリン(ロナセン):43人
  • オランザピン(ジプレキサ):84人
  • アリピプラゾール(エブリファイ):72人
  • リスペリドン(リスパダール):95人

でした。対象者は18~45歳、罹病期間3年以内で、それまで抗精神病薬による系統的な治療を受けていない患者さんでした。

治療前と6か月後に複数の神経心理検査を行い、

  • 処理速度
  • 注意
  • ワーキングメモリ
  • 言語学習・記憶
  • 視空間学習・記憶
  • 微細運動機能

などが評価されました。

4剤すべてで改善した統合失調症の認知機能があった

まず注目されるのは、4種類の抗精神病薬すべてで、

処理速度やワーキングメモリなどの認知機能に改善が認められた

ことです。

PASATとTMT-Aという検査では4群すべてで改善が認められ、その効果量はCohen’s d=0.40~0.99でした。

つまり、抗精神病薬による治療は、幻覚や妄想などの精神症状だけではなく、一部の基本的な認知機能の改善にも関連している可能性があります。

ただし、この改善が薬剤の認知機能への直接作用だけによるものか、精神症状が改善することで集中しやすくなったことなどによるものかは、この研究だけでは区別できません。

著者らも、臨床症状の改善によって注意力や情報処理効率が向上した可能性を指摘しています。

ブロナンセリンで「言語学習・記憶」に特徴的な結果

統合失調症の認知機能の影響について、4剤の違いを比較した際に特に興味深かったのが、言語学習・記憶です。

HVLT-Rという検査では、ブロナンセリン群は、

  • 35.30 → 38.91
  • Cohen’s d=0.30

と改善傾向を示しました。

一方、リスペリドン群では、

  • 35.59 → 30.95
  • Cohen’s d=−0.45

と低下が認められました。

統合失調症の認知機能:言語学習・記憶の変化・4種類の抗精神病薬の比較

そして、治療による変化を両群で比較すると、ブロナンセリンはリスペリドンより言語学習・記憶で良好な改善を示し、この差は多重比較を補正した後も統計学的に有意でした。

今回の研究の中では、比較的注目される結果です。

視空間記憶については?

統合失調症の認知機能の影響について、「見たものを覚える」といった視空間学習・記憶についても興味深い結果が得られました。

ブロナンセリン群ではBVMT-Rが、

  • 31.29 → 36.88
  • Cohen’s d=0.39
  • p=0.013

と改善しました。

リスペリドンとの比較でもブロナンセリンの方が良好な変化を示しましたが、こちらは多重比較を補正すると統計学的有意差が維持されませんでした。

そのため、言語学習・記憶の結果より慎重に解釈する必要があります。著者らも探索的な結果と位置づけています。

なぜブロナンセリンで違いがみられたのか?

著者らは、その可能性の一つとしてブロナンセリンの薬理学的特徴を挙げています。

ブロナンセリンは、ドパミンD2受容体だけでなくD3受容体にも高い親和性を持っています。

D3受容体は、学習・記憶・実行機能などの認知機能との関連が研究されています。

そのため、著者らはD3受容体への作用が今回の結果に関係している可能性を考察しています。

さらにブロナンセリンは、

  • ヒスタミンH1受容体への親和性が低い
  • ムスカリンM1受容体への親和性が低い

という特徴があります。

そのため、眠気・鎮静や抗コリン作用が比較的少ないことも、認知課題の遂行に間接的に有利に働く可能性が考えられています。

ただし、今回の研究でこのメカニズムそのものが証明されたわけではありません。

「ブロナンセリンが最も認知機能に良い」とはいえない

今回の研究結果だけから、

「4剤の中ではブロナンセリンが認知機能に最も優れている」

と結論づけることはできません。

その大きな理由は、4剤すべてを同一のランダム化比較試験で比較した研究ではないためです。

オランザピン、アリピプラゾール、リスペリドンは一つのランダム化試験から得られたデータですが、ブロナンセリンは別の時期に実施された単群試験のデータです。

しかも、2つの試験は約9~11年離れて実施されています。

著者ら自身も、この違いによって測定されていない交絡因子が存在する可能性があり、ブロナンセリンと他剤との直接的な因果比較には注意が必要としています。

さらに、594人のうち6か月後まで認知機能評価を完了したのは294人、49.5%でした。

ブロナンセリン群では治療開始時の視空間記憶の得点が他群より低かったため、その後の改善の一部には「平均への回帰」が影響した可能性も指摘されています。

統合失調症治療では「認知機能」も大切

統合失調症の治療では、幻覚や妄想を改善することだけが目標ではありません。

例えば、

  • 話を聞きながら内容を覚えておく
  • 仕事の手順を覚える
  • 集中して作業を続ける
  • 複数の情報を頭の中で整理する
  • 状況に応じて判断する

といった能力は、社会生活を送るうえで重要です。

今回の研究は、抗精神病薬による治療とともに、処理速度やワーキングメモリなど一部の認知機能も改善する可能性を示しました。

さらに、薬剤によって認知機能の各領域に与える影響が異なる可能性も示唆されています。

まとめ

2026年に発表された今回の研究では、抗精神病薬を使用したことのない初回エピソード統合失調症患者に、ブロナンセリン、オランザピン、アリピプラゾール、リスペリドンを6か月間使用したところ、4剤すべてで処理速度やワーキングメモリの改善が認められました。

その中で、ブロナンセリンはリスペリドンと比較して言語学習・記憶で良好な変化を示したことが注目されます。

一方、この研究には試験デザインや脱落率、治療開始時の群間差などの限界があります。

したがって、

抗精神病薬は精神症状だけでなく認知機能にも影響する可能性があり、その影響は認知領域や薬剤によって異なる可能性がある

というところまでが、今回の研究から読み取れる重要なメッセージでしょう。

認知機能は、学業や仕事、人間関係、日常生活にも深く関係します。統合失調症の治療では、症状の改善だけではなく、「その人が日常生活の中でどのような機能を取り戻していくか」まで考えることが重要です。

文献

1)Hu W, et al.: Comparison of Neurocognitive Effects of Blonanserin, Olanzapine, Aripiprazole, and Risperidone in Drug-Naive First-Episode Schizophrenia. Neuropsychiatr Dis Treat, 22:603001, 2026.

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執筆者

院長 宮本 浩司(みやもと こうじ)

院長 宮本浩司

川崎市・溝の口の心療内科・精神科
高津心音メンタルクリニック
・ 精神保健指定医
・ 日本精神神経学会認定専門医・指導医