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044-455-7500睡眠は、心身の健康を維持するうえで欠かせないものです。
睡眠不足が続くと、疲労感や集中力の低下、イライラ、気分の落ち込みなどが生じやすくなります。
また、不眠とうつ病には密接な関係があることが知られています。
それでは、うつ病予防のためには、睡眠を何時間とるのがよいのでしょうか。
一般的には7~8時間程度の睡眠が健康的とされています。
しかし、長く眠ればよいというわけでもなく、短時間睡眠とうつ病の関係についても
研究によって結果が異なります。
さらに、近年の研究では、睡眠時間そのものよりも「寝つきの悪さ」が、
うつ病の初回発症を予測する重要な症状である可能性が示されています。
今回は、睡眠時間とうつ病の発症リスクに関する2つのメタ解析と、
入眠困難とうつ病の初回発症を検討した6年間の追跡研究をもとに、睡眠とうつ病予防の関係を解説します。
2023年Liらが報告した、中高年33,595人を対象とする6つのコホート研究の用量反応メタ解析では、
睡眠時間とうつ病発症リスクにU字型の関係が認められました1)。
この研究では、7時間睡眠でうつ病発症リスクが最も低く、
睡眠時間が短くても長くても、相対リスクが高くなる傾向が報告されました。

この結果だけを見ると、うつ病予防には7時間前後の睡眠が最も適しているように思われます。
しかし、注意が必要です。
これらの数値は観察研究に基づく集団平均の推定値であり、
すべての人に7時間睡眠が最適であることや、睡眠時間を7時間に調整すればうつ病を予防できることを証明したものではありません。
また、長時間睡眠とうつ病の関連については、ほかの研究で異なる結果も報告されています。
Zhangら(2024)は、睡眠時間と精神疾患の関係を調べた52研究、合計1,407,891人を対象とするシステマティックレビュー・メタ解析を報告しました2)。
この研究には14件のコホート研究と38件の横断研究が含まれています。
そのうち、うつ病の発症リスクを評価したコホート研究では、次の結果が得られました。

短時間睡眠では、基準となる睡眠時間と比べて、うつ病発症の相対リスクが約43%高いという結果でした。
一方、長時間睡眠の相対リスクは1.15でしたが、95%信頼区間が1.00をまたいでおり、
統計学的に有意な関連は認められませんでした。
つまり、短時間睡眠とうつ病の発症リスク上昇には有意な関連が認められましたが、
長時間睡眠については明確な関連が確認されませんでした。
ただし、これは長時間睡眠がうつ病と無関係であることを証明したものではありません。
長時間睡眠の点推定値はリスク上昇方向であり、研究間にもばらつきがありました。
また、原著研究ごとに短時間睡眠や長時間睡眠の定義が異なることも、結果に影響した可能性があります。
長時間睡眠とうつ病の関係を考える際には、いくつかの問題があります。
まず、必要な睡眠時間には個人差があります。年齢や体質、生活環境などによって、
十分な休養を得るために必要な睡眠時間は異なります。
また、長時間睡眠は、うつ病の原因ではなく、うつ病の前駆症状である可能性もあります。
例えば、うつ病の発症前から疲労感や意欲低下、過眠などが現れ、
睡眠時間が長くなっている場合です。
さらに、睡眠時無呼吸症候群、身体疾患、服用している薬剤などが、
睡眠時間とうつ病の両方に影響している可能性もあります。
したがって、長時間睡眠とうつ病の関連が認められたとしても、
長く眠ること自体がうつ病の原因とは限りません。
反対に、長時間睡眠との関連が統計学的に有意でなかった研究があるからといって、
睡眠の問題を無視してよいわけでもありません。
2020年のBlankenらの研究は、睡眠とうつ病の関係を考えるうえで、非常に興味深い結果を報告しています3)。
この研究では、過去に大うつ病性障害を発症したことのない768人を6年間追跡しました。
対象者の平均年齢は41.1歳で、女性が62.7%でした。
6年間の追跡期間中、141人(18.4%)が初めて大うつ病性障害を発症しました。
研究者らは、睡眠時間、不眠の重症度、入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒などが、
その後のうつ病発症を予測するかどうかを調べました。
その結果、睡眠時間の短さそのものではなく、不眠の重症度、特に入眠困難が、うつ病の初回発症を有意に予測しました。
Blankenらの研究では、対象者の約22%が、平均睡眠時間を6時間以下と回答していました。
しかし、短時間睡眠とうつ病初回発症との間に、統計学的に有意な関連は認められませんでした。
| 評価項目 | ハザード比(HR) | 95%信頼区間 |
| 不眠重症度(IRS 1点増加) | 1.11 | 1.07~1.15 |
| 睡眠時間6時間以下 | 0.95 | 0.35~2.63 |
| 短時間睡眠と不眠重症度の交互作用 | 0.99 | 0.91~1.10 |
不眠重症度が1点高くなるごとに、うつ病初回発症のハザードは約11%高くなりました。
一方、睡眠時間が6時間以下であること自体は、有意な予測因子ではありませんでした。
この結果は、短時間睡眠とうつ病の関連を認めたZhangらのメタ解析とは異なります。
ただし、Blankenらの研究では、短時間睡眠のハザード比の95%信頼区間が0.35~2.63と広く、リスク上昇を否定できるわけではありません。
また、両研究では対象集団や評価方法が異なります。
そのため、この結果だけで「睡眠時間が短くても問題ない」と考えることは適切ではありません。
Blankenらは、不眠症状をさらに詳しく分析しました。
その結果、入眠困難、つまり寝つきの悪さが、うつ病の初回発症を有意に予測することが分かりました。
入眠困難の重症度が1点高くなるごとのハザード比は、1.33(95%CI 1.12~1.57)でした。
さらに、入眠困難がない人と比較すると、次のような結果でした。

一方、中途覚醒や早朝覚醒など、ほかの不眠症状については、
同様の有意な独立した予測効果は認められませんでした。
つまり、不眠症状の中でも、特に「なかなか寝つけない」という症状が、
将来のうつ病発症と関連していたのです。
ただし、寝つきが悪い人が必ずうつ病を発症するという意味ではありません。
この研究では、ネットワークアウトカム解析(NOA)という統計手法も用いられました。
これは、さまざまな症状が互いに関連していることを考慮しながら、
将来のうつ病発症と独立して関連する症状を調べる方法です。
その結果、次の5つの症状が特定されました。
これら5つの症状によるうつ病初回発症の予測精度は、AUC 0.76でした。
ほかの9症状を追加しても、予測精度の向上は認められませんでした。
この結果は、うつ病の発症リスクを評価する際に、
入眠困難を含む特定の症状に注目する意義を示しています。
ただし、ネットワーク解析で独立した予測関係が認められたことは、
その症状がうつ病の直接的な原因であることを証明するものではありません。
| 比較項目 | Liら (2023) | Zhangら(2024) | Blankenら(2020) |
| 研究対象 | 中高年33,595人 | 全体で約140万人 | うつ病の既往がない768人 |
| 研究方法 | 用量反応メタ解析 | システマティックレビュー・メタ解析 | 6年間の前向き研究 |
| 短時間睡眠 | リスク上昇 | 有意なリスク上昇 | 有意な関連なし |
| 長時間睡眠 | リスク上昇 | うつ病では有意な関連なし | 主な検討対象ではない |
| 特に重要な結果 | 7時間前後でリスク最低 | 短時間睡眠の関連が比較的明確 | 入眠困難が初回発症を独立して予測 |
これらの研究結果は、一見すると矛盾しているように思われます。
しかし、研究対象や睡眠時間の評価方法、うつ病の発症歴、解析に含めた症状などが異なっています。
2023年の研究とZhangらの研究は、睡眠時間とうつ病の発症リスクとの集団レベルの関連を調べています。
一方、Blankenらの研究は、うつ病の既往がない人において、
睡眠時間や個別の不眠症状が初回発症を予測するかを検討しています。
そのため、短時間睡眠とうつ病の関連が集団全体では認められても、入眠困難などの症状を考慮すると、睡眠時間そのものの独立した予測効果が明確でなくなる可能性があります。
ただし、3つの研究を直接統合して再解析したわけではないため、この説明は一つの解釈であり、確定した結論ではありません。
今回の研究結果からは、睡眠時間と睡眠の質の両方を考えることが重要だと考えられます。
まず、慢性的な睡眠不足を避けることが基本です。
短時間睡眠とうつ病発症リスクの上昇については、複数のメタ解析で関連が報告されています。
一方、睡眠時間が十分でも、寝つきが悪い、中途覚醒が多い、朝起きたときに疲労感が残るといった問題がある場合には、睡眠の状態を詳しく評価する必要があります。
特に、Blankenらの研究では入眠困難が重要な予測因子となっていました。
ただし、これは中途覚醒や早朝覚醒が治療上重要ではないという意味ではありません。これらの症状も、日中の機能や生活の質に影響する場合には、適切な評価と治療が必要です。
今回のBlankenらの研究は、入眠困難を改善することがうつ病予防につながる可能性を示していますが、
実際に初回発症を予防できるかどうかを直接検証した研究ではありません。
睡眠時間を意識することは重要ですが、毎日必ず7時間眠らなければならないと考える必要はありません。
必要な睡眠時間には個人差があり、年齢によっても変化します。
また、眠ろうと努力しすぎることが、かえって寝つきの悪さにつながる場合もあります。
睡眠時間の数字だけにこだわるのではなく、次のような点も確認することが大切です。
入眠困難が長く続く場合や、気分の落ち込み、意欲低下などを伴う場合には、
睡眠と精神状態の両方を評価することが重要です。
今回紹介した3つの研究から、次のことが分かります。
第一に、短時間睡眠とうつ病発症リスクの上昇には、複数の研究で関連が認められています。
第二に、長時間睡眠とうつ病の関連については研究結果が一致しておらず、
長く眠ること自体がうつ病の原因となるかは明らかではありません。
第三に、うつ病の初回発症を検討した6年間の研究では、
睡眠時間の短さよりも、入眠困難が重要な独立した予測因子となっていました。
したがって、うつ病予防を考える際には、成人では7~8時間程度を睡眠時間の一つの目安としながら、
慢性的な睡眠不足を避け、寝つきの悪さなどの不眠症状にも注意することが大切です。
ただし、睡眠時間を調整することや入眠困難を治療することによって、必ずうつ病を予防できると証明されたわけではありません。
睡眠時間の長さだけでなく、寝つきの良さ、睡眠の規則性、日中の休養感などを総合的に評価することが、
心の健康を守るうえで重要と考えられます。
・1)Li XL, et al.: Relationship between night-sleep duration and risk for depression among middle-aged and older people: A dose-response meta-analysis. Front Physiol, 14:1085091, 2023,
・2)Zhang J, et al. Association of sleep duration and risk of mental disorder: a systematic review and meta-analysis. Sleep and Breathing, 28: 261–280, 2024.
・3)Blanken TF, et al.: Network outcome analysis identifies difficulty initiating sleep as a primary target for prevention of depression: a 6-year prospective study. Sleep, 43: zsz288, 2020.
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