アンヘドニア(快感消失)に有効な治療法は何か?

うつ病になると、気分が落ち込むだけではありません。

以前は楽しめていたことが楽しめなくなる場合があります。

  • 好きだった音楽を聴いても心が動かない
  • 趣味に興味が持てない
  • おいしいものを食べても喜びを感じない
  • 家族や友人と過ごしていても楽しいと思えない

といった症状です。

このような状態は、アンヘドニア(anhedonia:快感消失)と呼ばれ、うつ病の中心的な症状の一つです。

アンヘドニアは、うつ病だけでなく、統合失調症などの精神疾患でも認められます。

また、アンヘドニアが強い場合には、生活の質や社会生活の機能が低下し、治療が難しくなることもあります。

それでは、アンヘドニアに対して、どのような治療が有効なのでしょうか。

2026年9月に発表された研究では、薬物療法、経頭蓋磁気刺激療法(TMS)、心理療法などを比較したネットワークメタ解析が報告されました1)。

アンヘドニア(快感消失)とは?

アンヘドニアは、一般的に「喜びや楽しさを感じる能力が低下した状態」を意味します。

しかし、近年の研究では、アンヘドニアは単に快感が弱くなることだけではなく、報酬に関連する複数の心理機能の障害として理解されています。

例えば、次のような状態が含まれます。

  • 喜びを感じにくい: 好きなことをしても、以前ほど楽しいと感じられない。
  • 楽しみを期待できない: これから予定している出来事を楽しみに思えない。
  • 意欲が湧かない: 何かをしたいという気持ちが起こりにくい。
  • 行動を起こしにくい: 楽しさを得られる可能性があっても、そのための努力や行動が難しい。

こうした機能には、脳の報酬系と呼ばれる神経回路が関与していると考えられています。

特に、

  • 腹側線条体や前頭前野を含む神経回路
  • ドパミン神経伝達
  • 報酬への期待や学習

などとの関連が研究されています。

ただし、アンヘドニアは単純にドパミンが不足しているだけでなく、セロトニン、グルタミン酸、ストレス反応、炎症など、複数の要因が関係している可能性があります。

約5,800人を対象としたネットワークメタ解析

Wangら(2026)は、アンヘドニアに対するさまざまな治療法の有効性を比較するため、61試験、合計5,794人のデータを統合しました。

対象には、大うつ病性障害、統合失調症、アンヘドニア傾向を持つ健常者などが含まれています。

薬物療法だけでなく、TMSや心理療法などの非薬物療法も比較しました。

ネットワークメタ解析とは、複数の治療法について、直接比較した試験だけでなく、共通の対照群を介した間接的な比較も組み合わせて解析する方法です。

この研究の主解析では、35試験を用いて16種類の治療介入と統合対照群が比較されました。

アンヘドニアに改善効果が認められた4つの治療法

全体解析では、次の4つの治療法で、対照群に比べて統計学的に有意な改善が認められました。

  • ボルチオキセチン10mg/日
  • 左DLPFCへのTMS
  • 行動活性化療法
  • 瞑想
アンヘドニアの改善が認められた4つの治療法

この結果から、アンヘドニアに対しては、薬物療法だけでなく、TMSや心理療法なども治療の選択肢として研究されていることが分かります。

特に、左DLPFCへのTMSは、診断横断的な全体解析と大うつ病性障害に限定した解析の両方で、ほぼ同程度の改善効果を示しました。

一方、ボルチオキセチンでは、対象疾患を限定すると効果量が変化しました。

これは、アンヘドニアの治療効果を考える際に、対象となる精神疾患や治療条件を区別することの重要性を示しています。

今回のアンヘドニアの治療の比較の研究から分からないこと

今回の研究は、多様な治療法を共通の枠組みで比較した点に意義があります。

一方、研究結果にはいくつかの限界があります。

第一に、研究間の異質性が大きく、全体解析ではI²=71.9%でした。これは、治療効果が研究ごとにかなり異なっていたことを示します。

第二に、対象となった精神疾患やアンヘドニアの評価尺度、治療期間などが統一されていませんでした。

第三に、14比較のエビデンスの確実性が評価されました。

そのうち、3比較が「低い」、11比較が「非常に低い」と判定されました。

つまり、今回の結果は有望です。

しかし、今後の研究によって効果量や治療法の順位が変わる可能性があります。

また、この研究では、アンヘドニアの中でも

  • 「楽しみを期待できない」
  • 「実際に楽しさを感じられない」
  • 「行動を起こす意欲が湧かない」

といった異なる側面に対して、どの治療が最も有効かまでは明らかになっていません。

また、今回の研究には、2026年6月に発表された

アンヘドニアにプラミペキソールが有効性を示した研究2)は、組み込まれていません。

そのため、プラミペキソール等の研究に含まれなかった薬剤が有効でないという意味ではありません。

アンヘドニアの治療で大切なこと

アンヘドニアは、うつ病の中でも生活の質に大きく影響する症状です。

気分の落ち込みが軽くなっても、楽しさを感じられない状態や意欲の低下が残る場合があります。

そのため、うつ病の治療では、抑うつ気分の改善だけでなく、

  • 興味や喜び
  • 活動性
  • 意欲

などの変化を丁寧に評価することが重要です。

今回の研究は、アンヘドニアに対して、薬物療法、TMS、心理療法など、異なる方法から治療に取り組む可能性を示しました。

ただし、治療法の選択には、

  • うつ病の重症度
  • これまでの治療歴
  • 併存疾患
  • 薬剤の副作用
  • 治療への負担

などを考慮する必要があります。

また、アンヘドニアが強い患者さんに対して、無理に趣味や活動を勧めることが適切とは限りません。

患者さんの状態に合わせて、無理のない方法を検討することが大切です。

まとめ

2026年に発表されたネットワークメタ解析では、アンヘドニアに対して、ボルチオキセチン10mg/日、左DLPFCへのTMS、行動活性化療法、瞑想に改善効果が認められました。

特にボルチオキセチンは全体解析で大きな効果量を示しました。

しかし、根拠となる試験数が少なく、エビデンスの確実性は非常に低いと評価されています。

一方、左DLPFCへのTMSは、大うつ病性障害に限定した解析でも改善効果が認められ、比較的一貫した結果が得られました。

ただし、現時点では、アンヘドニアに対する最も優れた治療法が確立されたわけではありません。

アンヘドニアは、単なる気分の落ち込みとは異なる側面を持つ症状です。

今後は、アンヘドニアを独立した治療標的として評価し、それぞれの患者さんに適した治療法を明らかにしていくことが期待されます。

文献

・1)Wang YM, et al.: Comparative efficacy of interventions for transdiagnostic anhedonia: a network meta-analysis. Psychiatry Research, 366:117435, 2026.

・2)Ventorp F, et al.: Efficacy and target engagement of dopamine agonist pramipexole for anhedonic depression: a randomized placebo-controlled trial. Nat Med, 2026.

当院のコラムは、一般的な医療情報の提供を目的として掲載しております。コラムの内容に関する個別のご相談やご質問につきましては、診察を行わずに医学的な判断をすることが難しいため、当院に通院されていない方への個別の回答はいたしかねます。何卒ご理解くださいますようお願いいたします。

執筆者

院長 宮本 浩司(みやもと こうじ)

院長 宮本浩司

川崎市・溝の口の心療内科・精神科
高津心音メンタルクリニック
・ 精神保健指定医
・ 日本精神神経学会認定専門医・指導医