精神疾患と神経疾患の併存について

はじめに

精神科と神経内科は現在では異なる診療科として分かれています。

しかし、実際の患者さんを診ていると、その境界は必ずしも明確ではありません。

たとえば、双極性障害の患者さんが片頭痛に悩んでいることがあります。

また、てんかんの患者さんにうつ病やADHDが併存していることもあります。

2026年に8月、Fornaroらが発表した大規模なアンブレラレビューでは、こうした精神疾患と神経疾患の「重なり」が包括的に検討されました1)

本研究は、既存のメタ解析をさらに統合し、単に併存率を出すだけでなく、その数字がどの程度信頼できるか(credibility)まで評価した点が特徴です。

最終的に81メタ解析、2,273研究、42,464,788人から166のメタ解析推定値を評価しました。

90の併存率推定のうち、45(50%)がmoderate/strong credibilityを満たしました。

特に信頼性の高かった精神疾患と神経疾患の併存率

重要な結果をまとめると、以下です。

精神疾患と神経疾患の併存率

これらは本研究で特にstrong credibilityと評価された組み合わせです。

双極性障害の約3人に1人に片頭痛

精神科診療という観点から特に重要なのが、双極性障害と片頭痛の関係です。

双極性障害の患者さんにおける片頭痛の生涯有病率は、34.8%でした。

つまり、およそ3人に1人です。

また、双極性障害では慢性疼痛も28.9%に認められました。

いずれも今回の研究では特に信頼性の高い結果と評価されています。

双極性障害の患者さんが繰り返す頭痛や慢性的な痛みを訴えている場合、それを精神症状の一部としてだけ捉えるのではなく、神経疾患や疼痛疾患の併存について考えることも重要といえます。

片頭痛とうつ病も多い

片頭痛患者では、

うつ病(MDD):23.0%

でした。

著者らは、片頭痛とうつ病には脳発達や神経伝達系など共通する生物学的経路が存在する可能性を指摘しています。

Zhangらのうつ病と片頭痛の遺伝子解析の報告によると、うつ病と片頭痛では強い遺伝的相関があることが示されています2)

てんかんでは、うつ病だけでなくADHDや自閉スペクトラム症も

てんかんも精神疾患との関連が強く認められた疾患の一つでした。

精神疾患の生涯有病率は、

  • うつ病:23.1%
  • ADHD:22.3%
  • 自閉スペクトラム症:11.1%
  • PTSD:7.7%

でした。

これらについても高い信頼性のエビデンスが得られています。

さらにADHDについては、成人てんかん患者で22.3%です。

一方、小児では30.7%という高い割合が報告されています。

てんかんを「発作だけの病気」と考えるのではなく、気分、注意・集中、発達、トラウマ関連症状なども含めて評価する必要性を示す結果といえます。

神経疾患では「うつ」と「不安」が非常に多い

一方、神経疾患を持つ患者さんでは、うつ病や不安症が高い割合で認められました。

特に信頼性の高かった結果では、

  • 視神経脊髄炎 → うつ病 40%
  • 神経障害性慢性疼痛 → うつ病 37.5%
  • 神経障害性慢性疼痛 → 不安症 33.8%
  • 多発性硬化症 → 不安症 36%
  • 多発性硬化症 → うつ病 27.0%
  • 脳卒中 → 不安症 29.3%
  • 認知症 → うつ病 25.0%

などが報告されています。

疾患によっては、実に3~4人に1人程度がうつや不安を経験していることになります。

「心の病気」と「脳の病気」は本当に別のものなのか

なぜ、これほど精神疾患と神経疾患は重なるのでしょうか。

著者らは、両者に共通する背景として、以下等が関係している可能性を挙げています。

  • 神経炎症
  • シナプス可塑性
  • 遺伝的要因
  • 脳内ネットワークや神経回路の異常

つまり、現在の医療制度では「精神科疾患」と「神経疾患」というカテゴリーに分けられていても、生物学的には両者が完全に独立しているとは限りません。

これは、精神医学と神経学の境界そのものについて考えさせられる結果でもあります。

ただし「原因と結果」はまだ分からない

今回の研究を読むうえで注意しなければならない点があります。

たとえば、

「多発性硬化症だからうつ病になる」

「双極性障害だから片頭痛になる」

という因果関係が証明されたわけではありません

今回検討された研究の中心は観察研究です。

そのため、選択バイアスや交絡因子などの影響を完全には排除できません。

著者ら自身も、このアンブレラレビューから因果関係を判断することはできないと注意を促しています。

おわりに

大切なのは「診断名の向こう側」を見ること

今回の研究が示しているのは、精神疾患と神経疾患の併存は決して例外的なものではない、ということです。

うつ病の患者さんに頭痛や神経症状があれば、それをすべて「うつの身体症状」と考えない。

逆に、脳卒中やてんかん、多発性硬化症などの患者さんに気分の落ち込みや不安があれば、それを単なる「病気になったことへの心理的反応」と決めつけない。

身体症状の背景に精神疾患が隠れていることもあれば、精神症状の背景に神経疾患が存在することもあります。

著者らは、精神医学と神経学は独立した専門分野でありながら、深く結びついた領域であると結論づけています。

そして、併存疾患を早期に発見し、より適切なリスク評価を行うためには、精神科と神経内科を横断した統合的・多職種的な診療が重要であるとしています。

「心」と「脳」を別々に診るのではなく、一人の患者さんの中で両方を見ていく。

今回の研究は、そんな当たり前でありながら難しい医療の重要性を、4,200万人を超えるデータから改めて示した研究といえます。

文献

・1)Fornaro M, et al.; Prevalence and outcomes of co-occurring psychiatric and neurological disorders: An atlas based on umbrella review of 81 meta-analyses. Eur Neuropsychopharmacol, 109:112820, 2026. 

・2)Zhang M, et al.: Shared genetic architecture between depression and migraine: a large-scale genome-wide cross-trait analysis. J Headache Pain, 27: 187, 2026.

執筆者

院長 宮本 浩司(みやもと こうじ)

院長 宮本浩司

川崎市・溝の口の心療内科・精神科
高津心音メンタルクリニック
・ 精神保健指定医
・ 日本精神神経学会認定専門医・指導医