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薬剤性高プロラクチン血症
について

公開日 2024.10.21

高プロラクチン血症について

プロラクチンは、下垂体前葉のプロラクチン分泌細胞から分泌され、視床下部からの抑制的な調節をうけています。

薬剤が原因でない高プロラクチン血症は、プロラクチン産生下垂体腺腫(プロラクチノーマ)によることが多いです。

高プロラクチン血症が生じると、成人女性では、乳汁分泌と無月経、男性では性欲低下等の症状が生じます。

長期的には骨粗鬆症と骨折のリスクが高まります。

薬剤性高プロラクチン血症では、内服している薬の影響でプロラクチンの値が上昇します。

薬剤性高プロラクチン血症の薬剤別リスク

2019年にHuhnらが、発表した抗精神病薬の有効性と忍容性の比較では、抗精神病薬による高プロラクチン血症のリスクは以下の順で高い結果でした1)、(図1)。

図1 各抗精神病薬の高プロラクチン血症のリスク

各抗精神病薬の高プロラクチン血症のリスク

この他に日本で、うつ病や胃炎・胃潰瘍等の治療でも使用されているスルピリド(ドグマチール)も比較的、高プロラクチン血症をきたしやすい薬剤です2)。

また、まれではあるものの、不眠症治療薬のラメルテオン(ロゼレム)は軽度のプロラクチン上昇を生じることがあることが報告されています3)。

薬剤性高プロラクチン血症のメカニズム

プロラクチンはもともと産後に乳汁分泌を促進する作用があり、下垂体前葉というと部位から分泌されています。

プロラクチンはドパミンにより分泌が抑制されています(図2)。

下垂体にあるドパミンD2受容体がブロックされると、プロラクチン分泌が促進し、高プロラクチン血症となることがわかっています4)、(図2)。

図2 下垂体ドパミンD2受容体阻害によるプロラクチン分泌亢進

下垂体ドパミンD2受容体阻害によるプロラクチン分泌亢進

近年、ドパミンだけでなくムスカリン受容体との関連もわかってきています。

OltenとBlochは抗精神病薬の受容体結合プロファイルと副作用の関係を調べ、高プロラクチン血症では、ムスカリンM1、M4受容体阻害率が関連していることを報告しています5)、(図3、4)。

図3 ムスカリンM1受容体阻害率と高プロラクチン血症の相関性

ムスカリンM1受容体阻害率と高プロラクチン血症の相関性

図4 ムスカリンM4受容体阻害率と高プロラクチン血症の相関性

ムスカリンM4受容体阻害率と高プロラクチン血症の相関性

ドパミンD2受容体阻害率と高プロラクチン血症の関係を比較してみると、相関性はみられないことがわかります(図5)。

図5 ドパミンD2受容体阻害率と高プロラクチン血症の関係

ドパミンD2受容体阻害率と高プロラクチン血症の関係

ただし、これは、OltenとBlochが考察で記載しているように、いずれの抗精神病薬も類似したドパミンD2受容体を占有するよう投与されることに関連していると考えられます。

加えて、受容体にどの程度の強さで結合するか、また脳内でのドパミンD2受容体占有の時間等も関与すると考えられます。

その上で、ムスカリン受容体M1及びM4受容体阻害率の低下が高プロラクチン血症に関与しています。

中脳の腹側被蓋野におけるドパミンニューロンの活動は後脳からのコリン作動性神経によって調節されています。

特に後咽側被蓋核では、ムスカリンM4受容体自己受容体が多く発現しており、ドパミンニューロンに対するアセチルコリンの刺激を抑制します。

そのため、ドパミンニューロンの活性を低下させ、それによって側坐核や腹側線条体などの精神病症状に関与する脳領域におけるドパミン神経伝達を抑制します6)、(図6)。

図6 ムスカリンM4受容体とドパミンニューロンの関係

ムスカリンM4受容体とドパミンニューロンの関係

このように、病態そのものにもムスカリン受容体とドパミンニューロンが相互に関わっており、抗精神病薬による効果や有害事象の双方に抗コリン作用が関与します。

そして、オランザピンやクロザピンは、ムスカリンM1に対しては阻害作用として働き、M4に対しては作動薬として働くとされています7)。

薬剤性高プロラクチン血症の治療

一般的には原因薬の減薬や切り替えといわれていますが、実際の治療場面では容易ではありません。

どの抗精神病薬が当事者の方に合うか、また再燃・再発のリスクもあり、実際には高プロラクチン血症に対する薬物治療が治療現場で用いられます。

2024年10月、Maらは、高プロラクチン血症の治療に用いられるアリピプラゾール(エビリファイ)、カベルゴリン(カバサール)、ブロモクリプチン(パーロデル)の3剤の有効性と安全性の比較の解析を発表しました5)。

報告では、薬剤誘発性の高プロラクチン血症では、カベルゴリン、アリピプラゾールによる治療が有効な結果でした。

図7 抗精神病薬誘発性高プロラクチン血症に対する治療薬の有効性の比較

抗精神病薬誘発性高プロラクチン血症に対する治療薬の有効性の比較

精神科ではアリピプラゾールが、産婦人科ではカベルゴリンが使用されることが現状多いです。

参考

  • 1) Huhn M, et al: Comparative efficacy and tolerability of 32 oral antipsychotics for the acute treatment of adults with multi-episode schizophrenia: a systematic review and network meta-analysis. Lancet, 394: 939-951. 2019.
  • 2) Wiesel FA, et al.: Prolactin response following intravenous and oral sulpiride in healthy human subjects in relation to sulpiride concentrations. Psychopharmacology (Berl), 76: 44-7, 1982.
  • 3) Richardson G, Wang-Weigand S.: Effects of long-term exposure to ramelteon, a melatonin receptor agonist, on endocrine function in adults with chronic insomnia. Hum Psychopharmacol, 24: 103-11, 2009.
  • 4) Arakawa R, et al.: Positron emission tomography measurement of dopamine D₂ receptor occupancy in the pituitary and cerebral cortex: relation to antipsychotic-induced hyperprolactinemia. J Clin Psychiatry, 71 : 1131-7, 2010.
  • 5) Olten B, Bloch MH.: Meta regression: Relationship between antipsychotic receptor binding profiles and side-effects. Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry, 84: 272-281, 2018.
  • 6) Paul SM, et al.: Muscarinic Acetylcholine Receptor Agonists as Novel Treatments for Schizophrenia. Am J Psychiatry, 179: 611-627. 2022.
  • 7) Bymaster FP, et al.: Muscarinic mechanisms of antipsychotic atypicality. Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry, 27: 1125-43, 2003.
  • 8) Ma K, et al.: The effectiveness and safety of aripiprazole, bromocriptine, and cabergoline in the treatment of hyperprolactinemia: a systematic review and network meta-analysis. Expert Opin Drug Saf, 16:1-14, 2024.

執筆者:高津心音メンタルクリニック 院長 宮本浩司

  • 精神保健指定医
  • 日本精神神経学会認定専門医・指導医

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