公開日 2023.2.27
作用・特徴
クロザピン(クロザリル)は統合失調症の陽性症状、陰性症状、うつ症状に優れた効果を有し1)、非定型抗精神病薬のMARTA(Multi-Acting Receptor-Targeted Antipsychotic;多元受容体標的化抗精神病薬)に分類されます。
統合失調症患者の約30%が治療抵抗性に移行することが指摘されていますが、治療抵抗性統合失調症に対し、薬物治療では最も高い有効性が示されています2)、3)。
また、統合失調症では自殺企図率が約20%、自殺率が2~5%に及びますが、自殺予防効果を有することがわかっています4)~6)。
精神静穏化作用が優れていることもわかっています7)。
生涯における死亡リスクの増加を低下させることも報告されています8)、9)。
薬理作用
クロザピンはドパミンD2受容体に対する親和性が極めて低く、セロトニン5-HT2A受容体、ドパミン D4受容体に対して高い親和性を示します。
また、ムスカリンM1、アドレナリα1、ヒスタミンH1受容体に対しても高い親和性を示します。
ドパミンD2に対しては拮抗作用が弱いだけでなく、クエチアピン同様に受容体への結合時間が短い(緩い結合)ことが報告されています10)、(図1)。
図1 クロザピン(クロザリル)のドパミンD2受容体からの早い解離
弱い拮抗作用と緩い結合が錐体外路症状の発現の低下に関与していると示唆されています10)。
セロトニン5-HT1A受容体部分作動作用(パーシャルアゴニスト)と、アドレナリンα2受容体拮抗作用により、前頭前野のドパミン流出を促進し、統合失調症の陰性症状、うつ症状の改善に寄与していることが示唆されています11)、12)。
また、グルタミン酸の伝達を調整することが、陽性症状の改善に関与していることが示唆されています13)、14)。
クロザピンはムスカリンM1受容体拮抗作用を有していますが、クロザピンの主要代謝物の一つのN-デスメチルクロザピン(ノルクロザピン;図2)はムスカリンM1受容体作動作用を有しています15)。
図2 クロザピンとN-デスメチルクロザピン(ノルクロザピン)
これにより、皮質におけるアセチルコリン伝達の促進を介し、認知機能改善に関与していることが示唆されています16)。
開発経緯
第1世代抗精神病薬の代表薬の一つであるハロペリドール(セレネース)がベルギーのヤンセン社で合成された1958年に、スイスのワンダー社(現ノバルティスファーマ社)によって開発されました。
その後は重篤な副作用のため、一旦開発は中止となっていましたが、効果が優れていることと、医療の発展により副作用への対応が可能になったことにより、各国で承認を受けることになりました。
この間にハロペリドール(セレネース)は大きな治療成績が上げ、その薬理作用から統合失調症の発症におけるドパミン仮説が提唱されるようになりました。
一方で、ドパミンD2受容体への親和性の弱いクロザピンが、他の抗精神病薬の効果を上回ることは、発症に関し、ドパミン仮説のみによらないことを示すことになりました。
効能・効果
日本では「治療抵抗性統合失調症」に対し承認を得ています。
米国では「治療抵抗性統合失調症」、「統合失調症または統合失調感情障害の自殺行動の減少」に承認を得ています。
英国では「治療抵抗性統合失調症」、「パーキンソン病における精神病症状」に承認を得ています(図3)。
図3 クロザピン(クロザリル)の各国の保険適応
用法・用量
通常、成人では初日は12.5mg(25mg錠の半分)、2日目は25mgを1日1回内服します。
3日目以降は症状に応じて1日25mgずつ増量し、原則3週間かけて1日200mgまで増量しますが、1日量が50mgを超える場合には2~3回に分けて内服します。
維持量は1日200~400mgを2~3回に分けて内服し、症状に応じて適宜増減することとなっています。
ただし、1回の増量は4日以上の間隔をあけ、増量幅としては1日100mgを超えないこととし、最高用量は1日600mgまでとするとなっています。
薬物動態
肝臓で約50%が初回通過効果を受け代謝されます。
N-脱メチル化反応及びN-酸化反応とそれに続く抱合反応が主たる代謝経路となっています。
N-脱メチル体への代謝にはCYP1A2及びCYP3A4、N-オキシド体への代謝にはCYP3A4 が関与していると考えられています。
SSRIのフルボキサミン(ルボックス・デプロメール)はCYP1A2の働きを阻害するため、併用により血中濃度が上昇します。
また、喫煙はCYP1A2を誘導するため、喫煙者ではクロザピンの血中濃度が減少します。
カルバマゼピンはCYP3A4を誘導するため、併用により血中濃度が減少します。
クロザピン25mgを1回内服した際は、血中濃度は約3.1時間後に最高濃度の達し、約16時間後に半減します(図4)。
図4 クロザピン(クロザリル)を1回内服した際の血中濃度の推移
毎日内服すると、6日目には一定の濃度に維持されます。
食事による影響はありません。
剤型
剤型は25mg錠と100mg錠があります(図5)。
図5 クロザピン(クロザリル)の剤型
副作用
承認時における副作用は77例中76例(98.7%)に認められ、主な副作用は以下でした(図6)。
- 傾眠(63.6%)
- 流涎過多(46.8%)
- 便秘(33.8%)
- ALT上昇(33.8%)
- 白血球増加(33.8%)
- 悪心(24.7%)
- 嘔吐(23.4%)
- 振戦(19.5%)
- 頻脈(19.5%)
- 体重増加(18.2%)
- 浮動性めまい(16.9%)
- 倦怠感(16.9%)
- 発熱(16.9%)
- 起立性低血圧(15.6)
- AST上昇(15.6%)
- γ-GTP上昇(15.6%)
- 白血球減少(15.6%)
図6 クロザピン(クロザリル)の主な副作用
重大な副作用に無顆粒球症(血液中の白血球のうち、体内に入った細菌を殺す働きをする好中球が著しく減って、抵抗力が弱くなってしまう状態)、心筋炎、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡等があります。
そのため、クロザリル患者モニタリングサービス(Clozaril Patient Monitoring Service: CPMS)に登録された医師・薬剤師のいる登録医療機関・薬局において、登録患者に対して、血液検査等のCPMS に定められた基準がすべて満たされた場合にのみ使用が可能です。
治療に当たっては、投与開始後18週間は入院による治療が必須となります。
クロザピンでは代謝における副作用のリスクが他の抗精神病薬と比較して高いことが報告されています17)。
代謝における副作用ではヒスタミンH1受容体阻害、セロトニン5-HT2C受容体阻害、ムスカリンM1、M3受容体阻害、ヒスタミンH1受容体占有率、ムスカリンM1、M3受容体占有率が関与していることが報告されていますが18)~20)、近年、代謝産物のノルクロザピンの血中濃度との関連も示唆されています21)。
文献
- 1) Huhn M, et al. : Comparative efficacy and tolerability of 32 oral antipsychotics for the acute treatment of adults with multi-episode schizophrenia: a systematic review and network meta-analysis. Lancet, 394 : 939-951, 2019.
- 2) Millgate E, et al. : Neuropsychological differences between treatment-resistant and treatment-responsive schizophrenia: a meta-analysis. Psychol Med, 52 : 1-13, 2022.
- 3) Seppälä A, et al. : Predictors of response to pharmacological treatments in treatment-resistant schizophrenia - A systematic review and meta-analysis. Schizophr Res, 236 : 123-134, 2021.
- 4) Cassidy RM, et al. : Risk Factors for Suicidality in Patients With Schizophrenia: A Systematic Review, Meta-analysis, and Meta-regression of 96 Studies. Schizophr Bull, 44 : 787-797, 2018.
- 5) Álvarez A, et al. : A systematic review and meta-analysis of suicidality in psychotic disorders: Stratified analyses by psychotic subtypes, clinical setting and geographical region. Neurosci Biobehav Rev, 143 : 104964, 2022.
- 6) Wilkinson ST, et al. : Pharmacological and somatic treatment effects on suicide in adults: A systematic review and meta-analysis. Depress Anxiety, 39 : 100-112, 2022.
- 7) Frogley C, et al. : A systematic review of the evidence of clozapine's anti-aggressive effects. Int J Neuropsychopharmacol, 15 : 1351-71, 2012.
- 8) Vermeulen JM, et al. : Clozapine and Long-Term Mortality Risk in Patients With Schizophrenia: A Systematic Review and Meta-analysis of Studies Lasting 1.1-12.5 Years. Schizophr Bull, 45 : 315-329, 2019.
- 9) Correll CU, et al. : Mortality in people with schizophrenia: a systematic review and meta-analysis of relative risk and aggravating or attenuating factors. World Psychiatry, 21 : 248-271, 2021.
- 10) Seeman P. : Clozapine, a fast-off-D2 antipsychotic. ACS Chem Neurosci, 5 : 24-9, 2014.
- 11) Kargieman L, et al. : Clozapine Reverses Phencyclidine-Induced Desynchronization of Prefrontal Cortex through a 5-HT(1A) Receptor-Dependent Mechanism. Neuropsychopharmacology, 37 : 723-33, 2012.
- 12) Khokhar JY, et al. : Unique Effects of Clozapine: A Pharmacological Perspective. Adv Pharmacol, 82 : 137-162, 2018.
- 13) Fukuyama K, et al. : Clozapine Normalizes a Glutamatergic Transmission Abnormality Induced by an Impaired NMDA Receptor in the Thalamocortical Pathway via the Activation of a Group III Metabotropic Glutamate Receptor. Biomolecules, 9 : 234, 2019.
- 14) Hribkova H, et al. : Clozapine Reverses Dysfunction of Glutamatergic Neurons Derived From Clozapine-Responsive Schizophrenia Patients. Front Cell Neurosci, 16 : 830757, 2022.
- 15) Mendoza MC, Lindenmayer JP. : N-desmethylclozapine: is there evidence for its antipsychotic potential? Clin Neuropharmacol, 32 : 154-7, 2009.
- 16) Park R, et al. : Relationship of Change in Plasma Clozapine/N-desmethylclozapine Ratio with Cognitive Performance in Patients with Schizophrenia. Psychiatry Investig, 17 : 1158-1165, 2020.
- 17) Pillinger T, et al. : Comparative effects of 18 antipsychotics on metabolic function in patients with schizophrenia, predictors of metabolic dysregulation, and association with psychopathology: a systematic review and network meta-analysis. Lancet Psychiatry, 7 : 64-77, 2020.
- 18) Montastruc F, et al. : Role of serotonin 5-HT2C and histamine H1 receptors in antipsychotic-induced diabetes: A pharmacoepidemiological-pharmacodynamic study in VigiBase. Eur Neuropsychopharmacol, 25 : 1556-65, 2015.
- 19) Olten B, Bloch MH. : Meta regression: Relationship between antipsychotic receptor binding profiles and side-effects. Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry, 84 : 272-281, 2018.
- 20) Carnovale C, et al. : Association between the glyco-metabolic adverse effects of antipsychotic drugs and their chemical and pharmacological profile: a network meta-analysis and regression. Psychol Med, 24 : 1-13, 2021.
- 21) Tan MSA, et al. : A systematic review and meta-analysis of the association between clozapine and norclozapine serum levels and peripheral adverse drug reactions. Psychopharmacology (Berl), 238 : 615-637, 2021.
- 頭が働かない
- 寝つきが悪い
- やる気が起きない
- 不安で落ち着かない
- 朝寝坊が多い
- 人の視線が気になる
- 職場に行くと体調が悪くなる
- 電車やバスに乗ると息苦しくなる
- うつ病
- 強迫性障害
- 頭痛
- 睡眠障害
- 社会不安障害
- PMDD(月経前不快気分障害)
- パニック障害
- 適応障害
- 過敏性腸症候群
- 心身症
- 心的外傷後ストレス障害
- 身体表現性障害
- 発達障害
- ADHD(注意欠如・多動症)
- 気象病・天気痛
- テクノストレス
- バーンアウト症候群
- ペットロス(症候群)
- 更年期障害
- 自律神経失調症