公開日 2023.2.20
作用・特徴
アセナピン(シクレスト)は抗うつ薬のミアンセリン(テトラミド)、ミルタザピン(リフレックス・レメロン)の一連の開発の系譜の中から、オランダのオルガノン社が見出した第2世代抗精神病薬です1)。
抗うつ薬のミルタザピンの“親戚”にあたります(図1)。
図1 ミルタザピンとアセナピンの化学構造式
5-HT2A受容体及び D2受容体への拮抗作用に加え、5-HT1A、5-HT1Bに対しては部分作動作用(パーシャルアゴニスト作用)を有します2)。
他のセロトニン受容体(5-HT2C、5-HT6、5-HT7)、他のドパミン受容体(D1、 D3)、αアドレナリン受容体(α1、α2)及びヒスタミン受容体(H1、H2)の各サブタイプへの拮抗作用を有し、クエチアピン、オランザピンと同様にMARTA(Multi-Acting Receptor-Targeted Antipsychotic;多元受容体標的化抗精神病薬)と呼ばれるジャンルに含まれます。
パリペリドン(インヴェガ)と同様にアドレナリンα2受容体拮抗作用が強いことがわかっています3)。
同じMARTAに属するオランザピン、クロザピンと異なり、ムスカリンM受容体への親和性は低いことがわかっています(図2)。
図2 アセナピン(シクレスト)の薬理プロファイル
統合失調症の陽性症状、陰性症状、うつ症状に有効です4)。
また、統合失調症の再発予防効果を有します5)。
リスペリドン(リスパダール)、オランザピン(ジプレキサ)、アリピプラゾール(エビリファイ)と比較し、効果は弱いものの、双極性障害急性躁病相への効果を有します6)。
効能・効果
日本では統合失調症に承認を得ています。
米国、欧州では「統合失調症」、「双極Ⅰ型障害」に承認を得ています。
用法・用量
通常、成人では 1回5mgを1日2回舌下投与から投与を開始します。
維持用量は1回5mgを1日2回とし、年齢、症状に応じ適宜増減しますが、最高用量は1回10mgを1日2回までとするとなっています。
飲み込むと薬剤の吸収率が低下するため、飲み込まないようにする必要があります。
また、舌下投与後10分間は飲水や飲食を避ける必要があります。
薬物動態
アセナピンは舌下投与後、舌下粘膜から静脈に移行し、そのまま初回通過効果(薬剤が消化管から吸収され肝臓で代謝される作用)を受けることなく脳に移行し作用します(図3)。
図3 アセナピン(シクレスト)の吸収・作用経路
アセナピンの主要な代謝経路である N+-グルクロン酸抱合体の生成には UDP-グルクロン酸転移酵素 (uridine glucuronosyltransferase:UGT)1A4が関与していることが示唆されています。
薬物代謝酵素はCYP1A2が主に関与し、CYP2D6及び CYP3A4も関与していることが示唆されています。
アセナピン5mgを1回舌下投与した際は、血中濃度は約1.25時間に最高濃度に達し、約17時間後に半減します(図4)。
図4 アセナピン(シクレスト)5mgを1回舌下投与した際の血中濃度の推移
毎日内服すると、3日以内に一定の濃度に維持されます(図5)。
図5 アセナピン(シクレスト)を毎日1日2回舌下投与した際の血中濃度の推移
食事による薬の効果への影響はありません。
剤型
剤型は舌下錠5mgと10mgがあります(図6)。
図6 アセナピン(シクレスト)の剤型
アセナピンに採用されているザイディス錠は口腔内崩壊錠(OD錠)の中でも速崩性であり、約3秒で口腔内で溶解します。(一般のOD錠は10~30秒です。)(図7)
図7 シクレスト舌下錠の崩壊性
副作用
承認時における副作用発現は557例中369例(66.2%)に認められ、主なものは以下でした(図8)。
- 傾眠(12.9%)
- 統合失調症(11.1%)
- 口の感覚鈍麻(10.1%)
- アカシジア(8.4%)
- 錐体外路症状(6.3%)
- 体重増加(6.3%)
- 浮動性めまい(5.2%)
図8 アセナピン(シクレスト)の主な副作用
ムスカリンM1、M3受容体阻害作用が弱く、占有率が低いため7)、体重増加のリスクがMARTAの中では低いことがわかっています8)。
口の感覚鈍麻やしびれ感、違和感が生じやすいですが、舌下ではなくバッカル投与(頬粘膜を下の歯の間に投与)する方法でこれらの副作用を軽減することができることがあります(図9)。
図9 アセナピン(シクレスト)の投与方法の切り替え
アセナピンは舌下錠に続き、米国では2019年10月にパッチ剤が承認を得ています9)。
パッチ剤では口の感覚鈍麻やしびれ感などの副作用を回避することができ、今後の日本での承認に期待がもたれます。
文献
- 1)村崎 光邦. : 抗うつ薬開発の必然と時代背景を反映した抗うつ薬の位置づけ. 臨床精神薬理, 18 : 119-138, 2015.
- 2)Oosterhof CA, et al. : Asenapine alters the activity of monoaminergic systems following its subacute and long-term administration: an in vivo electrophysiological characterization. Eur Neuropsychopharmacol, 25 : 531-43, 2015.
- 3)Frånberg O, et al. : Involvement of 5-HT2A receptor and α2-adrenoceptor blockade in the asenapine-induced elevation of prefrontal cortical monoamine outflow. Synapse, 66 : 650-60, 2012.
- 4)Huhn M, et al. : Comparative efficacy and tolerability of 32 oral antipsychotics for the acute treatment of adults with multi-episode schizophrenia: a systematic review and network meta-analysis. Lancet, 394 : 939-951, 2019.
- 5)Ostuzzi G, et al. : Oral and long-acting antipsychotics for relapse prevention in schizophrenia-spectrum disorders: a network meta-analysis of 92 randomized trials including 22,645 participants. World Psychiatry, 21 : 295-307, 2022.
- 6)Bahji A, et al. : Comparative efficacy and tolerability of pharmacological treatments for the treatment of acute bipolar depression: A systematic review and network meta-analysis. J Affect Disord, 269 : 154-184, 2020.
- 7)Carnovale C, et al. : Association between the glyco-metabolic adverse effects of antipsychotic drugs and their chemical and pharmacological profile: a network meta-analysis and regression. Psychol Med, 24 : 1-13, 2021.
- 8)Pillinger T, et al. : Comparative effects of 18 antipsychotics on metabolic function in patients with schizophrenia, predictors of metabolic dysregulation, and association with psychopathology: a systematic review and network meta-analysis. Lancet Psychiatry, 7 : 64-77, 2020.
- 9)Zhou M, et al. : Asenapine Transdermal Patch for the Management of Schizophrenia. Psychopharmacol Bull, 50 : 60-82, 2020.
- 頭が働かない
- 寝つきが悪い
- やる気が起きない
- 不安で落ち着かない
- 朝寝坊が多い
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