公開日 2022.5.8
作用・特徴
スルピリド(ドグマチール)は少ない用量で使用するとドパミンの活性を高め、うつ状態を改善する効果があります。
多い用量を使用するとドパミンの伝達をブロックし、幻覚や妄想などを改善する効果があります。
また、胃潰瘍にも効果があり、胃薬として使用されることもあります。
ベンズアミド系という抗精神病薬に属し、欧米では後に開発されたアミスルプリドという薬が使用されるようになっています。
日本でも統合失調症で使用される機会はほとんどなくなり、うつ病や不安障害に対し、低用量が補助的に使用されることがあります。
低用量で使用すると、ドパミンのシナプス前自己受容体をブロックすることにより、ドパミンの放出を促進し、うつにより機能低下したドパミン作動性神経系の機能を改善します 1)、2)、3)、(図1)。
高用量で使用すると、主に大脳辺縁系と前頭前野に存在するドパミン受容体をブロックすることにより抗精神病薬としての効果を発揮します 1)、2)、3)、(図1)。
図1 スルピリド(ドグマチール)の低用量と高用量での作用の違い
中枢と末梢を介した吐き気止めの効果を有することと、食欲低下を改善することが古くから知られており 4)、5)、これらの治療目的で使用されることもあります。
また、ストレスなどで胃には内視鏡検査等で異常はないものの、食後すぐに満腹感が生じ、あまり食事がとれなかったり、胃もたれや胃の不快感が生じる機能性ディスペプシアという疾患に対し、有効性が高い結果が報告されています 6)、(図2)。
図2 機能性ディスペプシアに対する薬剤の有効性の比較
効能・効果
日本の保険承認は「うつ病・うつ状態」、「統合失調症」、「胃・十二指腸潰瘍」となっています。
用法・用量
うつ病・うつ状態では、通常成人1日150~300mgを分割経口投与する。
なお年齢、症状により適宜増減するが、1日600mgまで増量することができるとなっています。
統合失調症では、通常成人1日300~600mgを分割経口投与する。
なお年齢、症状により適宜増減するが、1日1,200mgまで増量することができるとなっています。
胃・十二指腸潰瘍では、通常成人1 日150mgを3回に分割経口投与する。なお症状により適宜増減するとなっています。
薬物動態
1日1回50㎎及び100㎎を単回で内服した際は、血液中の濃度は約2時間で最高濃度に達し、約6時間で半分に下がります(図3)。
図3 スルピリド(ドグマチール)の血中濃度の推移
食事による影響はありません。
副作用
承認時・市販後の調査では精神科症例17,010中2,136例(12.6%)に副作用を認めました。
主な副作用は睡眠障害481例(2.83%)、振戦217例(1.28%)、眠気208例(1.22%)、月経異常199例(1.17%)、アカシジア168例(0.99%)、乳汁分泌150例(0.88%)が報告されています(図4)。
図4 スルピリド(ドグマチール)の主な副作用
これらの副作用報告は、うつ病と統合失調症の使用の両方での副作用の合計なので、現在のうつ病・うつ状態に対する少量使用では、睡眠への影響やパーキンソン症候群の振戦はあまりみられなくなっています。
月経不順、乳汁分泌は少量でも生じることがあり、プロラクチンというホルモンが上昇することによって生じます。
プロラクチンはもともと産後に乳汁分泌を促進する作用があり、下垂体前葉というと部位から分泌されています。
プロラクチンはドパミンにより分泌が抑制されています(図5)。
下垂体にあるドパミンD2受容体がブロックされると、プロラクチン分泌が促進し、高プロラクチン血症となることがわかっています 7)、(図5)。
図5 下垂体ドパミンD2受容体阻害によるプロラクチン分泌亢進
抗精神病薬により誘発される高プロラクチン血症はドパミンD2受容体のブロックにより生じますが、各薬剤がどの程度の脳のドパミン受容体への親和性を有するか、占有率がどの程度か、及び脳内移行性がどの程度かによって決まります 8)。
脳は脳血液関門(Blood-brain barrier ; BBB)という保護機能により保護され、血液中の毒や薬剤などがすぐに脳の中に移行しないように守られています。
しかし、下垂体は脳血液関門の外に位置しており、血液中の薬剤の影響を受けやすい状態にあります。
ドパミン受容体をブロックする抗精神病薬のうち、脳血液関門の透過率が悪い薬剤(≒下垂体が血中の薬剤濃度の影響によりドパミンD2受容体ブロックを受けやすい薬剤)ほど高プロラクチン血症になりやすいことがわかっています7)、(図6、7)。
図6 抗精神病薬の脳内移行率 脳/血中薬物濃度比(B/P ratio)
図7 下垂体ドパミンD2受容体占有率と血中プロラクチンの濃度の関係
スルピリドは脳内移行性が悪く、下垂体のドパミンD2受容体を多くブロックしてしまうため、高プロラクチン血症をきたしやすくなります 7)。
下垂体のドパミンD2受容体占有率が50%を超えると高プロラクチン血症のリスクとなることがわかっています 7)。
スルピリドは約25㎎をこえると占有率50%を超えるため、効果と副作用のバランスを見つつ、慎重に使用します(図8)。
図8 スルピリド(ドグマチール)の用量と下垂体ドパミンD2受容体占有率の関係
文献
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- 8) Voicu V, et al. : Drug-induced hypo- and hyperprolactinemia: mechanisms, clinical and therapeutic consequences. Expert Opin Drug Metab Toxicol, 9 : 955-68, 2013..
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