アレキシサイミア(失感情症)とは? 原因・症状・治療について

2025.11.28

アレキシサイミアとは?

アレキシサイミア(alexithymia:失感情症)とは、自分の感情を認識したり、言葉で表現したり、感情と身体の感覚を区別したりすることが難しい状態を指します。

1972年に精神科医のピーター・E・シフネオスによって提唱された概念です 1)。

ピーターは、ギリシャ語から“a(lack;欠けている)+lexis(word;言葉)+thymos(emotion:感情)”と名付けました。

主な特徴は次の4つです 2)。

  • 自分の感情を認識しにくい
  • 感情を言葉で表現することが苦手
  • 感情と身体症状(動悸・腹痛・頭痛など)を区別しにくい
  • 想像や空想よりも現実的・事実中心の思考になりやすい

一般人口での有病率は7~13%とされています 3)

どのような症状がみられるのでしょうか?

アレキシサイミアでは、次のような特徴がみられます。

  • 自分の気持ちを言葉で説明することが苦手
  • 「怒っている」、「悲しい」、「不安」といった感情を区別しにくい
  • 人に「今どんな気持ち?」と聞かれても答えられない
  • 身体症状としてストレスを感じやすい
  • 他人の感情を読み取ることが苦手
  • 表情や声の調子から気持ちを理解しにくい

最近では、他者の表情認識にも困難がみられることが報告されており、対人関係にも影響することがあります 4)。

アレキシサイミアはどのような病気と関係するのでしょうか

アレキシサイミアは様々な疾患でみられます。 例えば、

  • うつ病
  • 不安症
  • ASD(自閉スペクトラム症)
  • 統合失調症
  • てんかん
  • 摂食障害
  • 慢性疼痛
  • 線維筋痛症
  • 過敏性腸症候群

などとの関連が報告されています。
特にうつ病では、感情を認識しにくくなることで回復を妨げる可能性があります。

特にうつ病では、感情を認識しにくくなることで回復を妨げる可能性があります。

図1

近年では、ASDやてんかんのある方では一般人口よりもアレキシサイミアの頻度が高いことも報告されています 7)~9)、(図2)。

図2

原因

アレキシサイミアは、一つの原因だけで起こるわけではなく、複数の要因が関係すると考えられています。

① 遺伝的要因

遺伝子研究では、セロトニン神経伝達系をはじめとする神経伝達物質との関連が報告されています 10)。

② トラウマなどの環境要因

幼少期の虐待やネグレクト、いじめなどの心理的外傷(トラウマ)は、アレキシサイミアと深く関連しています 11)。

強いストレス環境では、自分の感情を切り離すことが一時的な防御反応として働くことがあります。

③ 脳の働きの変化

近年の脳画像研究では、

  • 島皮質
  • 前帯状皮質
  • 前頭前野
  • 右傍中心小葉

など、感情認識や自己認識に関わる脳領域の構造や機能に違いがみられることが報告されています 11)。

治療

アレキシサイミアそのものに対する特効薬はありません。

しかし、感情を認識し表現する力を育てる心理療法やリハビリテーションによって改善が期待できます 3)。

① 感情への気づきを高める訓練

まず、

  • 身体感覚に注意を向ける
  • 「今どんな気持ちか」を言葉にする
  • 感情と身体症状を区別する

といった練習を繰り返します。

心理療法では感情日記(Emotion Diary)などを用いることもあります。

② マインドフルネス

マインドフルネスでは、

  • 身体感覚
  • 思考
  • 感情

を評価せず、今この瞬間に意識を向け、ありのままを受け入れる訓練を行います。

これによって前頭前野の働きが高まり、感情調整能力の改善が期待されています。

③高精細経頭蓋直流刺激(HD-tDCS)

HD-tDCSは、頭皮からごく弱い電流を流して脳活動を調整するニューロモデュレーション治療です。

近年、感情認識や感情調整への効果が研究されており、アレキシサイミアへの応用も期待されています。

ただし、現時点では研究段階であり、標準治療として確立されているわけではありません。

おわりに

以前は、アレキシサイミアは「感情を表現できない性格」と考えられることもありました。

しかし、現在では、脳の働きや発達、トラウマ、精神疾患など様々な要因が関係する神経心理学的な特性として、理解されるようになっています。

また、アレキシサイミアは本人の努力不足や性格の問題ではありません。

適切な心理療法や環境調整によって改善する可能性があり、背景にうつ病やASD、不安症などが隠れていることもあります。

「自分の気持ちがよく分からない」、「感情よりも身体の不調ばかり感じる」といった状態が続く場合には、一人で抱え込まず、精神科や心療内科で相談することをおすすめします。

文献

執筆者

院長 宮本 浩司(みやもと こうじ)

院長 宮本浩司

川崎市・溝の口の心療内科・精神科
高津心音メンタルクリニック
・ 精神保健指定医
・ 日本精神神経学会認定専門医・指導医