妊娠中・小児期の感染症と精神疾患の関係|ADHD・ASDの発症リスク

私たちは、生涯を通じてさまざまな感染症にかかります。特に妊娠中や子どもの頃は、

脳や神経系が発達する重要な時期です。

近年、こうした時期に経験する感染症が、その後の精神疾患の発症リスクと関連している可能性が

注目されています。

2026年10月、妊娠中の母体感染や小児期の感染症と、将来の精神疾患との関連を検討した

システマティックレビュー・メタ解析が発表されました1)。

今回は、この研究結果について紹介します。

妊娠中・小児期の感染症とADHD・ASD・精神疾患の関係

今回の研究では、75件の研究を対象としたシステマティックレビューが行われ、

そのうち59件がメタ解析に組み込まれました。

対象となった感染症は、妊娠中に母親が経験した感染症と、出生後から12歳までの小児期に経験した感染症です。

主に、以下の3つの精神・神経発達疾患との関連が検討されました。

  • 注意欠如・多動症(ADHD)
  • 自閉スペクトラム症(ASD)
  • 精神病性障害(統合失調症などを含む)

その結果、妊娠中の母体感染と小児期の感染症のいずれについても、これらの疾患の発症リスクとの関連が認められました。

感染症によって精神疾患のリスクはどの程度高まる?

メタ解析では、以下の結果が示されました。

妊娠中・小児期の感染症と精神疾患の発症リスク

これらの数値は「リスク比(RR)」を表しています。

例えば、小児期に感染症を経験した場合、感染症を経験していない場合と比較して、

ADHDの発症リスクが相対的に約45%、ASDの発症リスクが約41%高いという結果でした。

特に注目されるのは、ADHDやASDでは、妊娠中の母体感染よりも小児期の感染症のほうが、

発症リスクとの関連が大きかったことです。

ただし、これらは集団全体で認められた統計学的な関連です。感染症にかかった子どもが必ず精神疾患を発症するという意味ではありません。

また、感染症そのものが精神疾患の直接的な原因であると証明されたわけでもありません。

細菌感染とウイルス感染では、関連する精神疾患が異なる?

今回の研究では、感染症を細菌感染とウイルス感染に分けた解析も行われています。

その結果、妊娠中の細菌感染は、ADHDやASDの発症リスクと関連していました。

特にASDでは、妊娠中の細菌感染によって発症リスクが約1.24倍となっていました。

一方、妊娠中のウイルス感染については、ASDとの明確な関連は認められませんでしたが、

精神病性障害との関連が認められました。

また、小児期の細菌感染では、ADHDの発症リスクが約1.44倍、ASDの発症リスクが約1.32倍でした。

このように、感染症の種類によって、その後の精神疾患との関連が異なる可能性が示されています。

ただし、特定の細菌やウイルスがどのような影響を及ぼすのかについては、まだ十分に明らかになっていません。

妊娠初期のウイルス感染と精神病性障害

さらに興味深いのは、妊娠中のどの時期に感染症を経験したかによって、

関連が異なる可能性が示されたことです。

妊娠初期(第1三半期)のウイルス感染では、子どもの精神病性障害の発症リスクが約1.84倍となっていました。

一方、妊娠中の感染症全体では、妊娠後期(第3三半期)の感染と精神病性障害との間に

有意な関連が認められました。

胎児の脳は、妊娠時期によって異なる発達過程をたどります。

妊娠初期には神経細胞の形成や脳の基本構造の発達が進み、その後は神経回路やシナプスの形成などが

進行します。

そのため、感染症に伴う炎症反応が生じる時期によって、脳の発達に及ぼす影響が異なる可能性があります。

ただし、妊娠初期のウイルス感染に関する解析は研究数が限られており、結果の解釈には注意が必要です。

感染症が脳の発達に影響する可能性

では、なぜ妊娠中や小児期の感染症が、将来のADHD・ASD・精神疾患と関連するのでしょうか。

その背景として注目されているのが、免疫系の活性化と炎症反応です。

感染症にかかると、私たちの身体では病原体に対抗するために免疫系が活性化されます。

このとき、IL-6、TNF-α、IL-17などの炎症性サイトカインと呼ばれる物質が関与します。

妊娠中に母体の免疫系が活性化する現象は、「母体免疫活性化(Maternal Immune Activation:MIA)」

と呼ばれています。

動物実験などでは、母体の免疫活性化が胎児の脳の発達や神経回路の形成に

影響する可能性が示されています。

また、小児期にも脳は発達を続けているため、感染症に伴う免疫反応が

神経発達に影響する可能性があります。

ただし、これらの仕組みは主に基礎研究などから提案されているものであり、

今回の研究によって、免疫活性化が精神疾患を直接引き起こすことが証明されたわけではありません。

うつ病や不安症との関連は?

今回の研究では、ADHDやASD、精神病性障害だけでなく、

うつ病や不安症などについても検討されています。

一部の研究では、妊娠中や小児期の感染症と、その後のうつ病や不安症などとの関連が報告されました。

しかし、研究数が少なく、研究方法にも違いがあったため、これらの疾患については

統合的なメタ解析を実施することができませんでした。

したがって、妊娠中や小児期の感染症が、将来のうつ病や不安症の発症リスクを

どの程度高めるのかについては、現時点では明確な結論が得られていません。

感染症にかかると精神疾患を発症するの?

ここで重要なのは、今回の研究が示しているのは「関連」であり、「因果関係」ではないという点です。

精神疾患の発症には、遺伝的要因、脳の発達、家庭環境、心理社会的な要因など、

多くの要素が複雑に関与すると考えられています。

また、感染症にかかりやすい体質や免疫機能に関係する遺伝的要因が、

精神疾患の発症リスクとも関連している可能性があります。

そのため、感染症と精神疾患の間に統計学的な関連が認められたとしても、

感染症だけが原因であるとは判断できません。

今回の研究でも、研究間のばらつきや出版バイアスの可能性などが指摘されています。

妊娠中や子どもの頃に感染症を経験したからといって、将来の精神疾患を過度に心配する必要はありません。

まとめ

今回のメタ解析では、妊娠中の母体感染や小児期の感染症が、

その後のADHD、ASD、精神病性障害の発症リスクと関連していることが示されました。

特に、ADHDやASDでは、小児期の感染症との関連が比較的大きく認められました。

また、妊娠中の細菌感染はASDと、ウイルス感染は精神病性障害と関連するなど、

感染症の種類や時期によって異なる影響が生じる可能性も示唆されています。

こうした研究は、精神疾患の発症に、遺伝的要因や心理社会的要因だけでなく、

胎児期から小児期にかけての免疫・炎症反応も関係している可能性を示しています。

一方で、感染症が精神疾患を直接引き起こすという因果関係は確立していません。

今後、感染症と免疫反応、脳の発達との関係がさらに明らかになることで、

精神疾患の発症メカニズムについての理解が深まることが期待されます。

文献

1)Khandakar R, et al.: Prenatal and childhood infections as risk factors for psychiatric disorders: A systematic review and meta-analysis. Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 189:106861, 2026.

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執筆者

院長 宮本 浩司(みやもと こうじ)

院長 宮本浩司

川崎市・溝の口の心療内科・精神科
高津心音メンタルクリニック
・ 精神保健指定医
・ 日本精神神経学会認定専門医・指導医