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044-455-7500双極症(双極性障害)は、躁状態やうつ状態を繰り返すことを特徴とする精神疾患です。
近年、双極症では気分症状だけでなく、記憶力、注意力、遂行機能などの認知機能にも
影響がみられることが報告されています。
また、双極症患者では、将来的に認知症を発症するリスクが高い可能性が指摘されてきました。
2026年9月、医学誌『Current Opinion in Psychiatry』に、双極症と認知症発症リスクの関連を
検討した最新のシステマティックレビュー・メタ解析が掲載されました1)。
この研究では、双極症患者約18万5,000人を含む21研究を統合した結果、
双極症患者では認知症と診断されるオッズが約3.1倍高いことが報告されました。
一方で、研究間のばらつきが極めて大きく、結果の解釈には慎重さが必要であることも
明らかになりました。
今回は、この研究結果とその臨床的な意味について解説します。
双極症では、躁状態やうつ状態が改善し、気分が安定している寛解期であっても、
認知機能の低下が認められる場合があります。
特に、以下のような認知機能への影響が報告されています。
ただし、これらの認知機能の問題があることと、認知症を発症していることは同じではありません。
双極症に伴う認知機能障害は、必ずしも認知症へ進行するものではありません。
Kessingら(2026年)は、双極症と認知症発症リスクの関連を検討した22研究を対象に
システマティックレビューを実施しました。
このうち21研究がメタ解析に使用されました。
研究対象は以下のとおりです。
| 項目 | 対象者数 |
| 双極症患者 | 185,306人 |
| 双極症のない比較対象者 | 10,702,744人 |
| メタ解析に含まれた研究 | 21研究 |
対象となった研究は、英国、デンマーク、台湾、オーストラリア、米国など、複数の国で実施されていました。
コホート研究の追跡期間の中央値は10年間で、最長51年間の研究も含まれていました。
研究者らは、双極症患者と双極症のない人を比較し、認知症と診断される可能性が
どの程度異なるかを検討しました。
21研究を統合した結果、双極症患者では、双極症のない人と比較して認知症と診断されるオッズが
有意に高いことが示されました。
オッズ比(OR)3.13(95%信頼区間 2.40~4.09)
これは、双極症患者では認知症診断のオッズが約3.1倍高いことを意味します。
ただし、オッズ比は認知症を発症する確率そのものの比率ではないため、
「認知症になる確率が正確に3.1倍」と解釈することはできません。
さらに、今回の研究では、同じ患者集団を利用した研究が複数含まれていました。
そこで、患者集団の重複を除外した11研究について再解析したところ、以下の結果となりました。
オッズ比(OR)2.60(95%信頼区間 1.76~3.85)
つまり、研究集団の重複を考慮しても、双極症と認知症発症との関連は認められました。

この結果は、双極症患者における認知症リスクを考えるうえで重要な知見です。
今回の研究で特に重要なのは、認知症リスクの上昇が示された一方で、その推定値の確実性は低いという点です。
メタ解析では、研究間の異質性を示すI²が99.8%と、極めて高い値でした。
これは、研究によって結果が大きく異なっていたことを意味します。
また、95%予測区間は0.94~10.41と非常に広く、対象集団や研究条件によって、
認知症との関連の強さが大きく異なる可能性が示されました。
さらに、研究結果の偏りを統計学的に補正する方法の一つであるtrim-and-fill法を用いた解析では、
オッズ比は1.39(95%信頼区間 0.87~2.20)となり、統計学的に有意な関連は認められませんでした。
ただし、この補正方法も研究間の異質性が極めて大きい場合には限界があります。
著者らは、これらの結果を総合して、双極症と認知症発症との関連は示唆されるものの、
エビデンスには大きな不確実性があると結論づけています。
今回の研究では、双極症と認知症の関連に影響する可能性がある複数の要因が指摘されています。
高血圧、糖尿病、肥満、脂質異常症、喫煙、飲酒、身体活動不足などは、
認知症の危険因子として知られています。
双極症患者では、こうした身体的な健康問題が併存する場合があり、
認知症リスクとの関連に影響している可能性があります。
ただし、これらの要因が双極症と認知症の関連をどの程度説明するのかは、
今回の研究では明らかになっていません。
双極症患者は、精神科で定期的な診察を受けていることが多く、記憶力や認知機能の変化が
発見されやすい可能性があります。
一方、双極症のない人では、認知機能が低下していても医療機関で診断されていない場合があります。
このような診断機会の違いによって、双極症患者の認知症診断率が高く見える可能性があります。
今回のメタ解析に含まれた研究の多くは、病院の診療記録や行政データベースを利用していました。
そのため、比較的症状が重い患者や、身体疾患を併存している患者が多く含まれていた可能性があります。
これらの結果を、症状が安定しているすべての双極症患者に当てはめることはできません。
特に高齢者では、認知症の発症前に抑うつ症状や気分の変化が現れることがあります。
そのため、認知症の前駆症状が双極症として診断され、両者の関連が過大評価されている可能性も考えられます。
実際、今回のレビューに含まれた一部の研究では、双極症の診断から3年以内に
認知症と診断された患者を除外すると、認知症リスクの推定値が大きく低下しました。
このことは、双極症と認知症の関係を考える際に、逆因果の可能性を考慮する必要があることを示しています。
双極症の治療には、炭酸リチウムなどの気分安定薬や非定型抗精神病薬などが使用されます。
今回の研究では、双極症と認知症発症との関連が検討されましたが、
リチウムやその他の薬物治療によって認知症を予防できるかどうかは直接検証されていません。
そのため、今回の結果から、特定の治療薬が認知症リスクを低下させると結論づけることはできません。
一方、双極症患者では、気分症状が安定している時期にも認知機能の問題が認められる場合があります。
そのため、双極症の診療では、躁状態やうつ状態の再発予防だけでなく、
認知機能や身体的健康状態にも注意を払うことが重要です。
特に中高年以降では、記憶力や注意力、日常生活の遂行能力などに変化がないかを継続的に確認し、
必要に応じて認知機能検査や身体疾患の評価を行うことが望まれます。
2026年に発表された最新のメタ解析では、双極症患者約18万5,000人を含む21研究の結果から、
認知症と診断されるオッズが約3.1倍高いことが報告されました。
また、患者集団の重複を除外した解析でも、オッズ比2.60と有意な関連が認められました。
しかし、研究間のばらつきは極めて大きく、診断バイアスや選択バイアス、
逆因果などの影響を十分に除外することはできませんでした。
したがって、今回の研究結果は、双極症患者が必ず認知症を発症することや、
双極症そのものが認知症を直接引き起こすことを意味するものではありません。
双極症の長期的な診療では、気分症状の安定に加え、認知機能の変化を早期に把握し、
身体的な健康管理を継続することが重要です。
1)Kessing LV, Munkholm K.: Bipolar disorder and the risk of developing dementia – a systematic review and meta-analysis. Current Opinion in Psychiatry, 39: 390–399, 2026.
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