IES-Rとは?

2026.09.19

IES-Rとは?

IES-R(Impact of Event Scale-Revised:改訂出来事インパクト尺度)は、災害・事故・暴力・喪失などの出来事を経験した後にみられる心的外傷後ストレス症状(posttraumatic stress symptoms)を評価する代表的な自己記入式尺度です。

Horowitzらが1979年に開発した15項目のIES(Impact of Event Scale)を、WeissとMarmarが改訂した尺度です。

元のIESでは主として「侵入」と「回避」を評価していましたが、IES-Rでは当時のDSM-IVのPTSD概念に合わせて過覚醒(hyperarousal)に関する項目が追加されました。その結果、IES-Rは22項目となっています。

日本ではIES-R-J(日本語版IES-R)が広く使用されており、日本語版についても信頼性・妥当性が検証されています1)。

検査にかかる時間は?

約5~10分です。

IES-Rの適用年齢は?

主として成人の心的外傷後ストレス症状の評価に用いられます。

明確な適用年齢の下限は定められていないため、小児・思春期では年齢や発達段階に適した評価尺度を検討する必要があります。

IES-Rはどのようなことを質問するのですか?

3つの症状を評価します

IES-Rの大きな特徴は、トラウマに関連する症状を3領域に分けて評価することです。

① 侵入症状(Intrusion)

つらい出来事に関する記憶や感情などが、本人の意思とは関係なく繰り返し現れてくる症状です。

たとえば、思い出したくないのに記憶が浮かぶ、夢に出てくる、そのときに戻ったように感じる、思い出すと強い感情が生じるといった現象が含まれます。

IES-Rでは8項目がこの領域に分類されています。

② 回避症状(Avoidance)

トラウマに関連する記憶や感情、場所、状況などから距離を取ろうとする反応です。

たとえば、出来事について考えないようにする、思い出させるものを避ける、話さないようにする、感情を切り離そうとするといった反応が含まれます。

こちらも8項目です。

③ 過覚醒(Hyperarousal)

身体や神経が「危険に備えた状態」からなかなか戻らないような症状です。

過度に警戒する、驚きやすい、イライラする、集中しにくい、眠りにくい、出来事を思い出したときに身体反応が生じるなどを評価します。

IES-Rでは6項目あります。

つまり、

侵入 8項目 + 回避 8項目 + 過覚醒 6項目 = 22項目

という構成です。

IES-Rの評価方法は?

「過去7日間」を評価します

回答するときには、まず対象となる特定のストレスフルな出来事を念頭に置き、

その出来事に関連して、過去7日間にそれぞれの症状にどの程度悩まされたか

を評価します。

各項目は、

  • 0:まったくない
  • 1:少し
  • 2:中くらい
  • 3:かなり
  • 4=非常に強い

という5段階で評価されます。したがって合計点は、

0~88点

となります。

IES-Rの結果の見方

基本的には点数が高いほど心的外傷後ストレス症状が強いことを意味します。

日本語版は飛鳥井望、加藤寛、川村則行、金吉晴らによって開発され、2002年に信頼性・妥当性の研究が発表されています。

この研究が非常に興味深いのは、一種類のトラウマだけではなく、

  • さまざまなトラウマ経験をもつ労働者
  • ヒ素中毒事件の被害者
  • 阪神・淡路大震災の被災者
  • 地下鉄サリン事件の被害者

という異なる集団を用いて検証していることです。

PTSDおよび部分PTSDの人では、非PTSD群よりIES-R-J得点が有意に高く、日本語版について再検査信頼性と内的一貫性も確認されました。

飛鳥井らの研究では、

24/25点

が、PTSDまたは部分PTSDの症状を持つ人を拾い上げる際のカットオフとして有用であると報告されています。

つまり実用的には、

0~24点 → カットオフ未満
25点以上 → PTSD関連症状についてさらに評価する一つの目安

と考えることができます。

ただし、

IES-R-J 25点以上 = PTSD

ではありません。

IES-Rは症状評価尺度であり、PTSDを確定診断する検査ではありません。

米国のNational Center for PTSDも、IES-Rは一般にPTSDの診断目的には使用しないと明記しています。

IES-Rの信頼性・妥当性

原版IES-Rでは、各下位尺度の内的一貫性は良好です。

Weiss & Marmarのデータ2)では、

  • 侵入:Cronbach’s α = 0.87~0.92
  • 回避:α = 0.84~0.85
  • 過覚醒:α = 0.79~0.90

と報告されています。

再検査信頼性についても研究されていますが、再検査間隔などによって値には幅があります。

IES-Rの長所

IES-Rの利点は、22項目と比較的短時間で実施でき、トラウマ後の症状を「侵入・回避・過覚醒」という領域別に評価できることです。

また、日本語版の信頼性・妥当性が検証されており、災害、事故、犯罪被害など異なる種類のトラウマ経験に対して研究・臨床で広く使用されてきました。

IES-Rの限界

一方、臨床で使用するときには主に3点に注意が必要です。

第一に、自己記入式尺度なので、本人の自己認識や回答傾向の影響を受けます。

第二に、高得点だけではPTSDと診断できません。うつ病、不安症、急性ストレス反応などでも関連症状がみられることがあります。

第三に、IES-Rは現在のDSM-5-TRに完全には対応していません。

IES-RはDSM-IV時代のPTSD概念を背景として作られています。

DSM-IVでは大きく、

  • 再体験
  • 回避・麻痺
  • 過覚醒

という症状群でした。

一方、DSM-5以降ではPTSD症状は、

  • 侵入症状
  • 回避
  • 認知と気分の陰性変化
  • 覚醒度と反応性の著しい変化

という4クラスターになっています。

そのためIES-Rでは、現在のDSM-5/DSM-5-TRで重視される「認知と気分の陰性変化」領域を十分に評価できません。

現在のDSM-5基準に沿ってPTSD症状を評価したい場合には、PCL-5(PTSD Checklist for DSM-5)などが選択肢になります。

ただし、Changらの研究では、DSM‑5基準の PTSD評価にも有効であり、 スクリーニングツールとして信頼できるとされています3)。

この研究では、カットオフ≧25で感度:86.6%、特異度:82.5%で一つの実用的な指標になると報告しています。

まとめ

IES-R(Impact of Event Scale-Revised)は、災害、事故、暴力などの強いストレス体験後にみられる心的外傷後ストレス症状を評価する22項目の自己記入式尺度です。

過去7日間について「侵入」「回避」「過覚醒」の3領域を評価し、合計得点は0~88点となります。

日本語版IES-R-Jでは24/25点がPTSD関連症状を詳しく評価する一つの目安として報告されています。

ただし、IES-RはPTSDを確定診断する検査ではなく、DSM-IVを背景に開発された尺度であるため、診断には現在の診断基準に基づいた総合的な評価が必要です。

文献

・1)Asukai N, et al.: Reliability and validity of the Japanese-language version of the impact of event scale-revised (IES-R-J): four studies of different traumatic events. J Nerv Ment Dis, 190: 175-82, 2002.

・2)Creamer M, et al.: Psychometric properties of the Impact of Event Scale – Revised. Behav Res Ther. 41: 1489-96, 2003.

・3)Chang S, et al.: Clinical Utility of Impact of Event Scale-Revised for Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders-Fifth Edition Posttraumatic Stress Disorder. Psychiatry Investig, 21: 870-876, 2024.

執筆者

院長 宮本 浩司(みやもと こうじ)

院長 宮本浩司

川崎市・溝の口の心療内科・精神科
高津心音メンタルクリニック
・ 精神保健指定医
・ 日本精神神経学会認定専門医・指導医