アレキシサイミア(失感情症)について

はじめに

アレキシサイミア(失感情症)とは、自分の感情を認識したり、言葉で表現したりすることが難しい状態を指します。

1972年に精神科医のピーター・E・シフネオスによって提唱された概念です

ピーターは、ギリシャ語から“a(lack:欠けている)+lexis(word:言葉)+thymos(emotion:感情)”と名付けました。

近年では単なる性格ではなく、「感情を処理する特性(感覚・認知の特徴)」として考えられています。

アレキシサイミア(失感情症)は、うつ病、不安症、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD、統合失調症、摂食障害、慢性疼痛など、さまざまな疾患との関連が報告されています。

一方で、アレキシサイミア(失感情症)そのものは病気ではなく、適切な支援や心理療法によって改善が期待できる場合もあります。

アレキシサイミア

アレキシサイミアの症状は?

アレキシサイミアでは、次のような症状がみられます。

  • 「自分が怒っているのか悲しいのか分からない」
  • 「ストレスがあると頭痛や腹痛として現れやすい」
  • 「人から『どう感じた?』と聞かれても答えに困る」
  • 「感情をうまく伝えられず、人間関係で誤解されることがある」

症状をまとめると以下の3つになります1)。

  • ① 自分の感情を認識しにくい
  • 感情認識困難(Difficulty Identifying Feelings:DIF)
  • ② 感情を言葉で表現することが苦手
  • 感情言語化困難(Difficulty Describing Feelings:DDF)
  • ③ 内面的な感情よりも、外界の事実に注意が向きやすい思考様式
  • 外面志向性思考(Externally Oriented Thinking:EOT)

アレキシサイミアはどのような病気と関連するのでしょうか?

アレキシサイミアは以下の疾患との関連が報告されています1)~6)、(図1)。

うつ病

感情を認識しにくくなることで、症状の改善や回復を妨げる可能性があります。

不安症

不安や緊張などの感情を認識しにくいことが、不安症状を強める要因になると考えられています。

PTSD

トラウマ体験により感情を切り離す防御反応が続き、アレキシサイミアを伴うことがあります。

ASD

ASDではアレキシサイミアを併存する人が多く、対人関係の困難さの一部に関与している可能性があります。

ADHD

感情認識や感情調整の困難さとの関連が報告されています。

てんかん

アレキシサイミアを併存する人が多く、感情認識や感情表現の困難さが生活の質(QOL)の低下と関連することが報告されています。

統合失調症

感情表現や対人コミュニケーションの困難さとの関連が報告されています。

摂食障害

感情をうまく表現できず、食行動によって感情を調整しようとすることが一因と考えられています。

自傷行為

言葉にできないつらい感情を、自傷という行動で表現してしまうことがあります。

慢性疼痛

慢性的な痛みを持つ人では、アレキシサイミアの頻度が高いことが報告されています。

線維筋痛症

痛みの強さや生活の質(QOL)の低下との関連が報告されています。

過敏性腸症候群(IBS)

感情をうまく認識・表現できないことが、症状の悪化に関与する可能性があります。

アレルギー性疾患

慢性アレルギーが心理的負担となり、感情処理の困難が悪化するとされています。

特にアトピー性皮膚炎は約62.4%と高い関連があり、注意を要します。

図1

疾患及び障害のアレキシサイミアの割合

特にうつ病では、感情を認識しにくくなることで回復を妨げる可能性があります。

また、摂食障害や自傷行為では、つらい感情をうまく言葉にできず、行動として表現してしまうことが一因になると考えられています7)、8)、(図2)。

図2

アレキシサイミアはうつ等と希死念慮等を媒介

アレキシサイミアとASDの違い

ASDでは、社会的コミュニケーションや対人関係に困難がみられることが特徴です。

一方、アレキシサイミアでは、自分や他者の感情を認識し、言葉で表現することが難しいことが特徴です。

両者は併存することも多く、近年ではASDの感情認識の困難さの一部はアレキシサイミアによって説明できる可能性も報告されています。

2026年6月Lyversらは、ASDの共感性の低さは、単にASDそのものではなく 内面的な感情よりも、外界の事実に注意が向きやすい思考様式(EOT)」が影響していることを報告しています9)。

アレキシサイミアの中でも EOTが特に重要な役割を持つことを示唆されます。

アレキシサイミアとADHD

近年、ADHDでも

  • 感情認識
  • 感情表現

が障害されることが報告されており、アレキシサイミアと関連することが示されています9)。

アレキシサイミアを調べる検査は?

現在、アレキシサイミアを評価する代表的な質問票として、TAS-20(トロント・アレキシサイミア尺度)とBVAQ(Bermond-Vorst Alexithymia Questionnaire)があります。

これらは研究や臨床で広く用いられていますが、診断を確定する検査ではありません。

アレキシサイミアの原因は?

アレキシサイミアは、一つの原因だけで起こるわけではなく、複数の要因が関係すると考えられています。

① 遺伝的要因

遺伝子研究では、セロトニン神経伝達系をはじめとする神経伝達物質との関連が報告されています10)。

遺伝的な体質が、感情認識のしにくさに影響している可能性があります。

② トラウマなどの環境要因

幼少期の虐待やネグレクト、いじめなどの心理的外傷(トラウマ)は、アレキシサイミアと深く関連しています11)。

2026年5月Liuらは、感情的虐待は、被虐待児の「感情の認識のしにくさ」に関連すると報告しています12)。

強いストレス環境では、自分の感情を切り離すことが一時的な防御反応として働くことがあります。

そのため、その状態が長く続くと、感情を認識する力そのものが低下する可能性があります。

③ 脳の働きの変化

近年の脳画像研究では、

  • 島皮質
  • 前帯状皮質
  • 前頭前野
  • 右傍中心小葉

など、感情認識や自己認識に関わる脳領域の構造や機能に違いがみられることが報告されています13)。

また、アレキシサイミアが高いほど、 視床と後島・感覚運動領域の神経ネットワークの結合が弱いと報告されています14)。

どのような治療が有効か?

2026年5月に発表されたMazzaらの解析では、統合的介入(integrative interventions)が最大の有効性を示したことが報告されています15)。

統合的介入は以下の複数の技法を組み合わせた治療です。

  • 心理教育(emotion psychoeducation)
  • 感情・社会的スキルトレーニング
  • 体験的演習(experiential exercises)
  • 身体ベースのエクササイズ(mind-body techniques)
  • グループ療法と個人療法の併用
  • 安全な治療関係の形成
  • 内面の気づき(interoception, emotional awareness)の促進

その他に以下の治療法にも有効性がみられました。

  • CBT(認知行動療法)・第三世代認知行動療法(ACT、 DBTなど) 
  • 芸術療法(art therapy)
  • 心理教育(psychoeducation)

おわりに

以前は、アレキシサイミアは「感情を表現できない性格」と考えられることもありました。

しかし、現在では、脳の働きや発達、トラウマ、精神疾患など様々な要因が関係する神経心理学的な特性として、理解されるようになっています。

また、アレキシサイミアは本人の努力不足や性格の問題ではありません。

適切な心理療法や環境調整によって改善する可能性があり、背景にうつ病やASD、不安症などが隠れていることもあります。

「自分の気持ちがよく分からない」、「感情よりも身体の不調ばかり感じる」といった状態が続く場合には、一人で抱え込まず、精神科や心療内科で相談することをおすすめします。

文献

  • 1)Luminet O, Nielson KA.: Alexithymia: Toward an Experimental, Processual Affective Science with Effective Interventions. Annu Rev Psychol, 76: 741-769, 2025.
  • 2)Kinnaird E, et al: Investigating alexithymia in autism: A systematic review and meta-analysis. Eur Psychiatry, 55:80-89, 2019.
  • 3)Ozdemir E, et al.: Alexithymia in Schizophrenia and Psychosis Vulnerability: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Clin Psychol, 81: 410-424, 2025.
  • 4)Poprelka K, et al.: Emotional processing in epilepsy: Investigating alexithymia and its associated factors. Epilepsy Behav, 170:110469, 2025.
  • 5)Couette M, et al.: Alexithymia in patients with posttraumatic stress disorder: A meta-analysis. Encephale, 52: 303-317, 2026.
  • 6)Garg A, et al.: Prevalence of alexithymia in allergy and hypersensitivity: A systematic review and meta-analysis. Ind Psychiatry J, 35: 4-14, 2026.
  • 7)Yurtdaş Depboylu G, Fındık BE.: Relationships among alexithymia, psychological distress, and disordered eating behaviors in adolescents. Appetite, 200:107536, 2024.
  • 8)Shi Y, et al.: Alexithymia and self-injury functions as mediators between childhood maltreatment and nonsuicidal self-injury in adolescents with major depressive disorder. Sci Rep, 15: 23097, 2025.
  • 9)Lyvers M, et al.: The Externally Oriented Thinking Facet of Alexithymia Mediates the Negative Association of ASD Symptoms With Cognitive and Emotional Empathy. Scand J Psychol, 67: 867-873, 2026.
  • 10)Yılmaz Y, Bahadır E.: Cognitive disengagement syndrome and attention deficit hyperactivity disorder: An examination of relationships with alexithymia and emotion regulation difficulties. Appl Neuropsychol Adult, 33: 523-529, 2026.
  • 11)Hernández-Díaz Y, et al.: Exploring Candidate Gene Studies and Alexithymia: A Systematic Review.  Genes (Basel), 15: 1025, 2024.
  • 12)Liu Y, et al.: Childhood maltreatment and alexithymia: A network analysis. J Affect Disord, 397:120876, 2026.
  • 13)Sharma P, et al.: Childhood Trauma, Emotional Regulation, Alexithymia, and Psychological Symptoms Among Adolescents: A Mediational Analysis. Indian J Psychol Med. 1:02537176241258251, 2024.
  • 14)Terock J, et al. Alexithymia Is Associated with Altered Cortical Thickness Networks in the General Population. Neuropsychobiology, 79, 233-244, 2020.
  • 15)Holton A, et al.: Resting-state functional connectivity and alexithymia: Preliminary predictive evidence. J Affect Disord, 413:122208, 2026.
  • 16)Mazza A, et al.: Identifying therapies to effectively reduce alexithymia: A systematic review and meta-analysis. J Affect Disord, 400:121167, 2026.

執筆者

院長 宮本 浩司(みやもと こうじ)

院長 宮本浩司

川崎市・溝の口の心療内科・精神科
高津心音メンタルクリニック
・ 精神保健指定医
・ 日本精神神経学会認定専門医・指導医