公開日 2023.10.23
症状
薬剤の副作用により、パーキンソン病と同じ症状が生じる病態を薬剤性パーキンソニズムと呼びます1)。
主に抗精神病薬の副作用により生じます。
代表的な症状に以下があります(図1)。
- 手や指先が震える(振戦)
- 手足の筋肉がこわばる(固縮)
- 体の動きが遅くなる(無動)
- 倒れやすくなる(姿勢保持障害)
- 表情が少なくなる(仮面様顔貌)
- 歩幅がせまくなる(小刻み歩行)
- 足を床にすって歩く(すり足歩行)
- 一歩目が出にくくなる(すくみ足)
- 止まれず走り出すことがある(加速歩行)
図1 薬剤性パーキンソニズムの代表的な症状
薬剤性パーキンソニズムでは歩行障害より、振戦がより多くみられることが報告されています2)。
嚥下に関わる筋肉の力が弱るため、唾液を飲み込む力が弱くなり、流涎が生じることがあります。
また、嚥下反射・咳嗽反射の障害も加わり、誤嚥性肺炎の原因になることがあります。
薬剤性パーキンソニズムの罹病期間が長期に及ぶと首下がり症候群(antecollis・dropped head)、腰曲がり(camptocormia)、Pisa症候群(側方への屈曲)等の姿勢異常が生じることがあります(図2)。(首下がりやPisa症候群は薬剤性ジストニアとしても生じます。)
図2 薬剤性パーキンソニズムによる姿勢異常
診断
アメリカ精神医学会の診断基準では以下が記載されています3)。
医薬品(例:神経遮断薬)の投与開始後または増量後、または錐体外路症状に対する医薬品を減量後2~3週以内に発現するパーキンソン振戦、筋強剛、アキネジア(すなわち、運動の減少もしくは運動開始の困難さ)、あるいは寡動(すなわち運動が遅くなること)。
パーキンソン病との鑑別が必要となり、以下のような鑑別点が挙げられています2)、4)、(図3)。
図3 薬剤性パーキンソニズムとパーキンソン病の鑑別点
非運動症状の中でも、嗅覚障害の有無が特に鑑別に有用と報告されています5)。
DATスキャン画像では、薬剤性パーキンソニズムでは線条体の集積低下はなく、パーキンソン病では集積低下を認めます(図4)。
図4 薬剤性パーキンソニズムとパーキンソン病のDATスキャン画像
疫学
薬剤性パーキンソニズムは抗精神病薬内服中の当事者の約20~35%に生じるとされています6)、7)。
WHOのデータを元にした2020年の報告では、抗精神病薬では以下の順にリスクが高い結果でした8)、(図5)。
- スルピリド(先発医薬品名:ドグマチール)
- ハロペリドール(先発医薬品名:セレネース)
- リスペリドン(先発医薬品名:リスパダール)
- アリピプラゾール(先発医薬品名:エビリファイ)
- パリペリドン(医薬品名:インヴェガ)
- オランザピン(先発医薬品名:ジプレキサ)
- クエチアピン(先発医薬品名:セロクエル、ビプレッソ)
- クロザピン(医薬品名:クロザリル)
図5 各抗精神病薬の薬剤性パーキンソニズム発症のリスク
他に制吐剤のメトクロプラミド(先発医薬品名:プリンペラン)、バルプロ酸(先発医薬品名:デパケン、デパケンR、バレリン、セレニカR)のリスクも報告されています8)。
発症の危険因子は以下等が挙げられています6)、9)、10)、(図6)。
- 高齢
- 女性
- パーキンソン病の家族歴
- ドパミンD2受容体阻害作用の強い抗精神病薬の内服
- 抗精神病薬の内服期間の長さ
- バルプロ酸の内服量
図6 薬剤性パーキンソニズム発症のリスク因子
発症前のパーキンソン病が抗精神病薬等の使用でパーキンソン病を発症しやすくなることが示唆されています5)。
喫煙は薬剤性パーキンソニズムに抑制的に働くことが示されており11)、統合失調症当事者では薬剤性パーキンソニズムの症状緩和のために喫煙していることが示唆されています12)。
この目的のための喫煙は推奨されず、健康問題への影響が大きいため、禁煙が推奨されています11)、12)。
病態
抗精神病薬は線条体のドパミンD2受容体をブロックする作用をもっています。
そのため、過剰にブロックされると、ドパミン神経伝達が阻害され、ドパミンが減少した病態でおきるパーキンソン病と同じ症状が生じます1)、(図7)。
図7 薬剤性パーキンソニズムの発症機序
薬剤性パーキンソニズムを含む錐体外路症状は、ドパミンD2受容体阻害率だけでなく、脳の線条体という部位のD2受容体の占有率が関与すると報告されています13)、14)。
上述の各抗精神病薬のパーキンソニズム発病リスクとそれらの薬剤の有効用量におけるD2受容体の占有率の高さ15)、16)を比較すると、おおむね相関関係にあります(図8)。
図8 各抗精神病薬の薬剤性パーキンソニズム発病リスクとドパミンD受容体占有率の関係
制吐剤のメトクロプラミド(先発医薬品名:プリンペラン)はスルピリドと同じベンザミド系という薬剤に属します(図9)。
図9 スルピリドとメトクロプラミドの化学構造式
線条体のドパミンD2受容体をスルピリドと同程度にブロックすることが報告されています17)、(図10)。
図10 スルピリドとメトクロプラミドの線条体ドパミンD2受容体阻害作用の比較
また、メトクロプラミドは脳血液関門(blood-brain barrier:BBB)に存在するP-糖タンパクの弱い基質であることが報告されており、これらの要因が関与して薬剤性パーキンソニズムを発症します18)。
バルプロ酸は、バルプロ酸の代謝産物によるイオンチャネルの不活性化の関与が示唆されています19)。
治療
可能な限りドパミンD2受容体阻害率・占有率の低い薬剤への切り替え、アキネトン(先発医薬品名:ビペリデン)やトリヘキシフェニジル(先発医薬品名:アーテン、セドリーナ)などの抗コリン薬の追加等が治療として一般的に行われます6)。
抗コリン薬の使用により認知機能低下やせん妄などの副作用が生じる際は、アマンタジン(先発医薬品名:シンメトレル)も検討となりますが、精神症状の悪化に注意を要します6)。
パーキンソン病治療薬のゾニサミド(医薬品名:エクセグラン・トレリーフ)の有効例も報告されており20)、使用されることがあります。
参考
- 1) 厚生労働省. 重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬剤性パーキンソニズム. 平成18年11月(令和4年2月改定).
- 2) Hassin-Baer S, et al. : Clinical characteristics of neuroleptic-induced parkinsonism. J Neural Transm (Vienna), 108 : 1299-308, 2001.
- 3) 米国精神医学会. 精神障害の診断と統計マニュアル第 5 版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th Edition: DSM-5). 2014.
- 4) Feldman M, et al. : Updated Perspectives on the Management of Drug-Induced Parkinsonism (DIP): Insights from the Clinic. Ther Clin Risk Manag, 18 : 1129-1142, 2022.
- 5) Brigo F, et al. : Differentiating drug-induced parkinsonism from Parkinson's disease: an update on non-motor symptoms and investigations. Parkinsonism Relat Disord, 20 : 808-14, 2014.
- 6) Ali T, et al. : Antipsychotic-induced extrapyramidal side effects: A systematic review and meta-analysis of observational studies. PLoS One, 16 : e0257129, 2021.
- 7) Ward KM, Citrome L. : Antipsychotic-Related Movement Disorders: Drug-Induced Parkinsonism vs. Tardive Dyskinesia-Key Differences in Pathophysiology and Clinical Management. Neurol Ther, 7 : 233-248, 2018.
- 8) de Germay S, et al. : Drug-induced parkinsonism: Revisiting the epidemiology using the WHO pharmacovigilance database. Parkinsonism Relat Disord, 70 : 55-59, 2020.
- 9) Savica R, et al. : Incidence and time trends of drug-induced parkinsonism: A 30-year population-based study. Mov Disord, 32 : 227-234, 2017.
- 10) Weng J, et al. : Risk factors, clinical correlates, and social functions of Chinese schizophrenia patients with drug-induced parkinsonism: A cross-sectional analysis of a multicenter, observational, real-world, prospective cohort study. Front Pharmacol, 14 : 1077607, 2023.
- 11) Ding JB, Hu K. : Cigarette Smoking and Schizophrenia: Etiology, Clinical, Pharmacological, and Treatment Implications. Schizophr Res Treatment, 2021 : 7698030, 2021.
- 12) Sagud M, et al. : Smoking in schizophrenia: recent findings about an old problem. Curr Opin Psychiatry, 32 : 402-408, 2019.
- 13) Crocker AD, Hemsley KM. : An animal model of extrapyramidal side effects induced by antipsychotic drugs: relationship with D2 dopamine receptor occupancy. Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry, 25 : 573-90, 2001.
- 14) Stone JM, et al. : Cortical dopamine D2/D3 receptors are a common site of action for antipsychotic drugs--an original patient data meta-analysis of the SPECT and PET in vivo receptor imaging literature. Schizophr Bull, 35 : 789-97, 2009.
- 15) Lako IM, et al. : Estimating dopamine D₂ receptor occupancy for doses of 8 antipsychotics: a meta-analysis. J Clin Psychopharmacol, 33 : 675-81, 2013.
- 16) Farde L, et al. : Positron emission tomographic analysis of central D1 and D2 dopamine receptor occupancy in patients treated with classical neuroleptics and clozapine. Relation to extrapyramidal side effects. Arch Gen Psychiatry. 49 : 538-44, 1992.
- 17) Meltzer HY, et al. : Comparison of the effects of substituted benzamides and standard neuroleptics on the binding of 3H-spiroperidol in the rat pituitary and striatum with in vivo effects on rat prolactin secretion. Life Sci, 25 : 573-83, 1979.
- 18) Bauer M, et al. : Impaired Clearance From the Brain Increases the Brain Exposure to Metoclopramide in Elderly Subjects. Clin Pharmacol Ther, 109 : 754-761, 2021.
- 19) Muralidharan A, et al. : Parkinsonism: A Rare Adverse Effect of Valproic Acid. Cureus, 12 : e8782, 2020.
- 20) 滝沢 義唯, 他. : 抗精神病薬より薬剤性パーキンソニズムにゾニサミドが有効であった3症例. Pharma Medica, 26 : 179-183, 2008.
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