公開日 2024.1.29
特徴・作用
アリピプラゾール(エビリファイ)はドパミンのバランスを適度に調整し、統合失調症の精神症状、双極性障害の躁症状、うつ病・うつ状態、ASDの易刺激性、チック症等を改善します1)~9)。
うつ病、強迫症(強迫性障害)では、抗うつ薬で十分改善効果が得られない場合に、アリピプラゾールを上乗せで使用すること(増強療法と呼びます)で改善効果を示します4)、5)、(図1、2)。
図1 抗うつ薬の増強療法に使用される薬剤の有効性
図2 強迫性障害に対するSSRIへの増量療法の各薬剤の有効性の比較
自閉スペクトラム症に伴う易刺激性、チック症への有効性も示されています6)~9)。
近年、少量のアリピプラゾールが睡眠相後退症候群を含む概日リズム障害に有効であることが報告されています10)。
この効果は、アリピプラゾールが概日リズムを調節する視床下部視交叉上核に作用することよってもたらされることが報告されています11)。
従来の統合失調症治療薬に使用される抗精神病薬は脳のドパミンD2受容体を遮断するアンタゴニストとして作用する薬が主でした(図3)。
図3 (A)ドパミンD2受容体アンタゴニスト
大塚製薬が開発したアリピプラゾールは従来のドパミンD2受容体アンタゴニストと作用が異なり、ドパミンが過剰な状態ではアンタゴニストして作用し、ドパミン活性が低下している状態では部分アゴニストとして作用します(図4)。
図4 アリピプラゾール(エビリファイ)の薬理作用
このような特性からアリピプラゾールはドパミン伝達を過度に遮断することなく、バランスの良い伝達を維持します1)、(図5)。
この効果はドパミン・システムスタビライザー(DSS)と呼ばれています。
図5 アリピプラゾール(エビリファイ)のドパミン・システムスタビライズ機能
他にセロトニン5-HT1A受容体部分アゴニスト、セロトニン5HT2A受容体アンタゴニスト作用をもっています。
ドパミンD2、D3受容体に高い親和性を示します(強くくっつきます)が、ヒスタミンH1には中程度、ムスカリンM1、M2、M3には低い親和性である(弱くくっつきます)ことがわかっています。
このような薬剤プロフィールから他剤との比較で体重増加を認めにくい、プロラクチンというホルモンの上昇が生じないといった特性が挙げられます2)。
薬剤による高プロラクチン血症は性機能障害や乳汁分泌をきたすことがありますが、長期的には骨密度の低下に伴う骨粗鬆症のリスクを増加させます。
アリピプラゾールはプロラクチン値を正常に保ち、骨代謝を安定することが示されています12)。
剤型
剤型は以下があります(図6)。
- エビリファイ錠 1mg・3mg・6mg・12mg
- エビリファイ OD錠 3mg・6mg・12mg・24mg
- エビリファイ散 1%
- エビリファイ内用液 0.1%
図6 アリピプラゾール(先発医薬品:エビリファイ)の剤型
効果・効能
保険適応における効能・効果は以下となっています。
- 統合失調症
- 双極性障害における躁症状の改善
- うつ病・うつ状態(既存治療で十分な効果が認められない場合に限ります。)
- 小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性となっています。
(24mgOD錠は統合失調症と双極性障害における躁症状の改善のみの適応です。)
アメリカでは統合失調症、双極Ⅰ型障害における躁病エピソード又は混合性エピソード、うつ病への追加療法、自閉スペクトラム症に伴う易刺激性、トゥレット症で適応を得ています。
米国では、トゥレット症(チック症)に保険適応を得ており、日本でも治療の現場では使用されていたことから、2022年にチック症に対し、保険承認における適応外使用が保険審査上認められることになりました。
用法・用量
統合失調症
統合失調症では以下となっています。
- エビリファイ錠・OD錠・散:
通常、成人では、1日6~12mgを開始用量、1日6~24mgを維持用量とし、1回又は2回に分けて内服する。なお、年齢、症状により適宜増減するが、1日量は30mgを超えないこと。 - エビリファイ内用液:
通常、成人では、1日6~12mg(6~12mL)を開始用量、1日6~24mg(6~24mL)を維持用量とし、1回又は2回に分けて内服する。なお、年齢、症状により適宜増減するが、1日量は30mg(30mL)を超えないこと。
双極性障害
双極性障害における躁症状の改善では以下となっています。
- エビリファイ錠・OD錠・散:
通常、成人では、12~24mgを1日1回内服する。なお、開始用量は24mgとし、年齢、症状により適宜増減するが、1日量は30mgを超えないこと。 - エビリファイ内用液:
通常、成人では、12~24mg(12~24mL)を1日1回内服する。なお、開始用量は24mg(24mL)とし、年齢、症状により適宜増減するが、1日量は30mg(30mL)を超えないこと。
うつ病・うつ状態
うつ病・うつ状態(既存治療で十分な効果が認められない場合に限る)では以下となっています。
- エビリファイ錠・OD錠(24mg錠は除く)・散:
通常、成人では、3mgを1日1回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減するが、増量幅は1日量として3mg とし、1日量は15mgを超えないこと。 - エビリファイ内用液:
通常、成人では、アリピプラゾールとして3mg(3mL)を1日1回内服する。なお、年齢、症状により適宜増減するが、増量幅1日量として3mg(3mL)とし、1日量は15mg(15mL)を超えないこと。
小児期の自閉スペクトラム症
小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性では以下となっています。
- エビリファイ錠・OD錠(24mg錠は除く)・散:
通常、1日1mgを開始用量、1日1~15mgを維持用量とし、1日1回内服する。なお、症状により適宜増減するが、増量幅は1日量として最大3mgとし、1日量は15mgを超えないこと。 - エビリファイ内用液:
通常、1日1mg(1mL)を開始用量、1日1~15 mg(1~15mL)を維持用量とし、1日1回内服する。なお、症状により適宜増減するが、増量幅は1日量として最大3mg(3mL)とし、1日量は 15mg(15mL)を超えないこと
薬物動態
アリピプラゾール6mgを空腹時に1回内服した際の血中濃度は約3.6時間に最高血中濃度に達し、約61時間後に半減します。
薬としての作用を発揮する主要代謝産物であるOPC-14857は約70時間後に最高血中濃度に達し、約279時間後に半減します(図7)。
図7 アリピプラゾール(エビリファイ)6mgを1回内服した際の血中濃度の推移
アリピプラゾールを毎日内服すると、おおよそ2週間で一定の血中濃度に維持されます(図8)。
図8 アリピプラゾール(エビリファイ)を毎日内服した際の血中濃度の推移
アリピプラゾールは CYP3A4とCYP2Dによって脱水素化と水酸化を受け、CYP3A4によって N-脱アルキル化を受けます(図9)。
主要代謝産物のOPC-14857は未変化体のアリピプラゾールと同等の薬理活性(薬の作用・効果)を有します。
図9 アリピプラゾール(エビリファイ)の代謝
副作用
調査症例1,490例中980例(65.8%)に副作用発現を認め、主なものは以下でした(図10)。
- アカシジア(18.72)
- 不眠症(15.97)
- 振戦(10.4)
- 傾眠(8.86)
- 体重増加(6.91)
- 流涎過多(5.03)
- 体重減少(4.9)
- 便秘(4.63)
- 不安(4.56)
- 悪心(4.56)
- 筋固縮(4.56)
- 激越(4.09)
- 倦怠感(4.03)
図10 アリピプラゾール(エビリファイ)の主な副作用
アリピプラゾールの副作用では一般的に特にアカシジアと激越に注意が必要とされています。
激越では、興奮、焦燥が強まる賦活化(activation:アクティベーション;SSRI開始後に不安、焦燥が生じるアクティベーションシンドロームとは別です)と呼ばれる状態が生じることがあります13)。
そのため、入院時などに興奮、焦燥が強い場合は、気分安定薬や静穏化作用を有する抗精神病薬を一時的に併用します。
頻度はまれですが、過去にギャンブル依存や衝動行為などの病歴がなかった人がアリピプラゾール内服開始後に病的なギャンブルや衝動的な行為が生じることがあります。
脳の大脳辺縁系と呼ばれるところは報酬系と呼ばれ衝動や依存症との関連が指摘されています。
大脳辺縁系のドパミンD3受容体が刺激されると衝動制御障害が起こると想定されています14)。
アリピプラゾールがドパミンD2だけでなくD3に対しても部分活性化薬として作用することからこの症状が生じると考えられています15)。
文献
- 1) Bandelow B and Meie A. : Aripiprazole, a “dopamine-serotonin system stabilizer” in the treatment of psychosis. German J Psychiatry, 6 : 9-16, 2003.
- 2) Huhn M, et al. : Comparative efficacy and tolerability of 32 oral antipsychotics for the acute treatment of adults with multi-episode schizophrenia: a systematic review and network meta-analysis. Lancet, 394 : 939-951, 2019.
- 3) Kishi T, et al. : Pharmacological treatment for bipolar mania: a systematic review and network meta-analysis of double-blind randomized controlled trials. Mol Psychiatry, 27 : 1136-1144, 2022.
- 4) Nuñez NA, et al. : Augmentation strategies for treatment resistant major depression: A systematic review and network meta-analysis. J Affect Disord, 302 : 385-400, 2022.
- 5) Maiti R, et al. : Pharmacological augmentation of serotonin reuptake inhibitors in patients with obsessive-compulsive disorder: A network meta-analysis. Acta Psychiatr Scand, 148 : 19-31. 2023.
- 6) Fieiras C, et al. : Risperidone and aripiprazole for autism spectrum disorder in children: an overview of systematic reviews. BMJ Evid Based Med, 28 : 7-14, 2023.
- 7) Fallah MS, et al. : Atypical Antipsychotics for Irritability in Pediatric Autism: A Systematic Review and Network Meta-Analysis. J Child Adolesc Psychopharmacol, 29 : 168-180, 2019.
- 8) Farhat LC, et al. : Comparative efficacy, tolerability, and acceptability of pharmacological interventions for the treatment of children, adolescents, and young adults with Tourette's syndrome: a systematic review and network meta-analysis. Lancet Child Adolesc Health, 7 : 112-126, 2023.
- 9) Yang C, et al. : Comparative Efficacy and Safety of Antipsychotic Drugs for Tic Disorders: A Systematic Review and Bayesian Network Meta-Analysis. Pharmacopsychiatry, 52 : 7-15, 2019.
- 10) Omori Y, et al. : Low dose of aripiprazole advanced sleep rhythm and reduced nocturnal sleep time in the patients with delayed sleep phase syndrome: an open-labeled clinical observation. Neuropsychiatr Dis Treat, 14 : 1281-1286, 2018.
- 11) Li R, et al. : Aripiprazole disrupts cellular synchrony in the suprachiasmatic nucleus and enhances entrainment to environmental light-dark cycles in mice. Front Neurosci, 17 : 1201137, 2023.
- 12) Lodhi RJ, et al. : Changes in biomarkers of bone turnover in an aripiprazole add-on or switching study. Schizophr Res, 170 : 245-51, 2016.
- 13) Coley KC, et al. : Aripiprazole prescribing patterns and side effects in elderly psychiatric inpatients. J Psychiatr Pract, 15 : 150-3, 2009.
- 14) Seeman P. : Parkinson's disease treatment may cause impulse-control disorder via dopamine D3 receptors. Synapse, 69 : 183-9, 2015.
- 15) Moore TJ, et al. Reports of pathological gambling, hypersexuality, and compulsive shopping associated with dopamine receptor agonist drugs. JAMA Intern Med, 174 : 1930-3. 2014.
- 頭が働かない
- 寝つきが悪い
- やる気が起きない
- 不安で落ち着かない
- 朝寝坊が多い
- 人の視線が気になる
- 職場に行くと体調が悪くなる
- 電車やバスに乗ると息苦しくなる
- うつ病
- 強迫性障害
- 頭痛
- 睡眠障害
- 社会不安障害
- PMDD(月経前不快気分障害)
- パニック障害
- 適応障害
- 過敏性腸症候群
- 心身症
- 心的外傷後ストレス障害
- 身体表現性障害
- 発達障害
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- 気象病・天気痛
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- バーンアウト症候群
- ペットロス(症候群)
- 更年期障害
- 自律神経失調症