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双極性障害
2024年上半期の主要な報告

公開日 2024.7.16

双極Ⅱ型障害とⅠ型の自殺率の比較

双極性障害は自殺率が高いことが知られています。

そのため、治療では、自殺予防が重要になります。

一般に双極Ⅱ型障害の病状はⅠ型より軽度とされており、Ⅱ型とⅠ型における自殺率の一貫した比較は示されていませんでした。

2024年6月、Devらは、双極Ⅱ型障害とⅠ型の自殺率の比較の解析を行い、Ⅱ型とⅠ型では自殺リスクが同程度であることが示されました(統合オッズ比は1.00)(図1)。

図1 双極Ⅱ型障害とⅠ型の自殺リスクの統合オッズ比

双極Ⅱ型障害とⅠ型の自殺リスクの統合オッズ比

今回の結果には、Ⅰ型では自殺予防でリチウムが処方されるのに対し、Ⅱ型ではうつ病の誤診で抗うつ薬が処方される背景がリスクに関与している可能性についても、著者らは考察で述べています。

これらの知見を踏まえ、Ⅱ型の治療においても、自殺予防がⅠ型同様に重要であるといえます。

双極性障害うつ病相に対する米国承認の非定型抗精神病薬の有効性と忍容性の比較

2024年3月、Liらは、双極性障害うつ病相(うつ病エピソード)に対する米国承認の5つの非定型抗精神病薬の有効性と忍容性の比較解析を報告しています。

解析結果では、以下の順で有効性が認められました。

図2 双極性障害うつ病相に対する米国承認に非定型抗精神病薬の有効性の比較

双極性障害うつ病相に対する米国承認に非定型抗精神病薬の有効性の比較

有効性と忍容性を併せて比較すると以下図3の結果でした。

図3 双極性障害うつ病相に対する米国承認の非定型抗精神病薬の有効性と忍容性の比較

双極性障害うつ病相に対する米国承認に非定型抗精神病薬の有効性の比較

有効性のみではクエチアピンが最も優れた結果でしたが、有効性と忍容性を考慮するとルラシドンが優れた結果でした。

双極性障害うつ病相の治療において、炭酸リチウム、またはバルプロ酸ナトリウムに、ルラシドンを追加した場合の有効性の比較

2024年7月、ToccoとMaoは、双極性障害うつ病相で、炭酸リチウム、またはバルプロ酸ナトリウムで治療中の患者に、ルラシドンを追加した場合の、両者の有効性の比較解析を報告しています3)。

結果は炭酸リチウム+ルラシドンが、バルプロ酸ナトリウム+ルラシドンより有効性が認められる結果でした(図4)。

図4 双極性障害うつ病相の治療 炭酸リチウム+ルラシドンvsバルプロ酸ナトリウム+ルラシドン

双極性障害うつ病相の治療 炭酸リチウム+ルラシドンvsバルプロ酸ナトリウム+ルラシドン

今回の研究は事後解析(ポストホック解析)のため、解釈には慎重を要し、今後の研究を継続して注視する必要があります。

児童思春期の急性躁病相に対する薬剤の有効性・忍容性・安全性の比較

2024年1月、Turalらは、児童思春期の急性躁病相(躁病エピソード)に対する薬剤の有効性・忍容性・安全性の比較解析を報告しています4)。

解析では、プラセボと比較し、以下の順で有効な結果でした(日本未承認薬を除く)(図5)。

図5 児童思春期の急性躁病相に対する薬剤の有効性の比較

児童思春期の急性躁病相に対する薬剤の有効性の比較

リスペリドンは3mg/日以上では、錐体外路症状や高プロラクチン血症が増加し、成人と比較し、若年では低用量が至適用量であることが示されました。

アリピプラゾールは高用量がより有効な結果でしたが、アカシジア、錐体外路症状、低プロラクチン血症の有害事象の増加が示されています。

オランザピンは成人と同様に体重増加の有害事象が示されました。

アセナピン2.5mg/日では有効性はみられず、5mgと10mgはほぼ同等の有効性が示され、用量決定の一つの目安となることが示されました。

今回の研究ではこれらの結果を通じて、薬剤の選択と同時に用量の慎重な調整が必要であると著者らは述べています。

双極性障害における併存精神疾患の生涯有病率

双極性障害では、不安障害をはじめとした他の精神疾患・ADHDの併存率が高いことがわかっています。

2024年7月、Léda-Rêgoらは、双極性障害における併存精神疾患の生涯有病率を解析し、報告しています5)。

有病率の高い併存疾患は以下の順で示されています(図6)。

  • 不安障害
  • 物質使用害
  • ADHD
  • DIC(秩序破壊的・衝動制御・素行症群)
  • 強迫性障害
  • 摂食障害

図6 双極性障害における併存精神疾患の生涯有病率

双極性障害における併存精神疾患の生涯有病率

不安障害、物質使用障害、ADHDの併存率が特に高いことは従来通りの報告ですが、その他の疾患の併存率も高いといえます。

多嚢胞性症卵巣候群を有する女性の双極性障害の有病率

現在までに、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の女性と双極性障害について、その関連性が報告されていました。

2024年6月、Shahrakiらは、多嚢胞性症卵巣候群を有する女性の双極性障害の有病率の解析を報告しています6)。

多嚢胞性症候群を有する女性では、双極性障害の有病率は4%で、リスクが2倍であることが示されました(図7)。

図7 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の双極性障害の推定値

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の双極性障害の推定値

双極性障害の診断、治療においては、婦人科疾患にも注意する必要があると言えます。

片頭痛に親が罹患している場合の子の精神疾患のリスク

片頭痛と双極性障害の関連は以前より指摘されていました。

2024年6月、Liらは、片頭痛に両親が罹患している場合と罹患していない両親とで、その子における精神疾患のリスクを、比較解析し報告しました7)。

母親が片頭痛に罹患していると、子のADHDの発症リスクが1.37、双極性障害のリスクが1.35、うつ病のリスクは1.33上昇する結果でした。

図8 母が片頭痛を有する場合の子の発達症・精神疾患のリスク

母が片頭痛を有する場合の子の発達症・精神疾患のリスク

環境要因によるリスクを軽減するためにも、育児中の母の片頭痛により強力に介入する必要性を著者らは述べています。

双極性障害患者及びリスクを有する当事者の脳画像解析

2024年5月、Thomas-Odenthalらは、双極性障害患者及びリスクを有する当事者と健常群における脳の灰白質の容積を、画像データを用いて比較解析しました8)。

解析の結果、双極性障害患者及びリスクを有する当事者では脳の右被殻の容積が大きいことが分かりました(図9)。

図9 双極性障害患者における右被殻の増大

双極性障害患者における右被殻の増大

うつ病では、被殻は減少することが報告されており、双極性障害における被殻の増大は画像診断マーカーとなる可能性があります。

参考

  • 1) Dev DA, et al.: Comparing suicide completion rates in bipolar I versus bipolar II disorder: A systematic review and meta-analysis. J Affect Disord, 361: 480-488, 2024.
  • 2) Li S, et al.: Efficacy and tolerability of FDA-approved atypical antipsychotics for the treatment of bipolar depression: a systematic review and network meta-analysis. Eur Psychiatry, 67: e29, 2024.
  • 3) Tocco M, Mao Y.: Efficacy and Safety of Adding Lurasidone to Ongoing Therapy With Lithium or Valproate for the Treatment of an Acute Bipolar Depressive Episode: A Post Hoc Analysis of 2 Placebo-Controlled Trials. J Clin Psychopharmacol, 44: 345-352, 2024.
  • 4) Tural Hesapcioglu S, et al.: A systematic review and network meta-analysis on comparative efficacy, acceptability, and safety of treatments in acute bipolar mania in youths. J Affect Disord, 349: 438-451, 2024.
  • 5) Léda-Rêgo G, et al.: Lifetime prevalence of psychiatric comorbidities in patients with bipolar disorder: A systematic review and meta-analysis. Psychiatry Res, 337: 115953, 2024.
  • 6) Shahraki Z, et al.: The prevalence and odds of bipolar disorder in women with polycystic ovary syndrome (PCO) disease: a systematic review and meta-analysis. Arch Womens Ment Health, 27: 329-336, 2024.
  • 7) Li DJ, et al.: Risk of major mental disorders in the offspring of parents with migraine. Ann Gen Psychiatry, 23:23, 2024.
  • 8) Thomas-Odenthal F, et al.: Larger putamen in individuals at risk and with manifest bipolar disorder. Psychol Med, 27: 1-11, 2024.

執筆者:高津心音メンタルクリニック 院長 宮本浩司

  • 精神保健指定医
  • 日本精神神経学会認定専門医・指導医

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