公開日 2024.6.10
はじめに
PTSDの薬物治療では、日本、米国ともにセルトラリン(先発医薬品名:ジェイゾロフト)、パロキセチン(医薬品名:パキシル・パキシルCR)のみが保険承認を得ています。
しかし、SSRIの治療だけでは、十分な改善が得られないケースが多いのが実情です。
このような中、近年、他の薬剤の有効性の検討、心理療法の有効性の検討が行われ報告されています。
本稿では近年のPTSDに対する薬物療法・心理療法の有効性に関する報告を概説します。
PTSDに対する薬物療法の有効性の比較
2023年7月、Zhangらは英国NICEガイドラインでPTSDの薬物治療に推奨されている薬剤の有効性と受容性を比較した解析結果を報告しました1)。
有効性は以下の順で優れている結果でした(図1)。
図1 PTSDに対する薬剤の有効性の比較
中でもクエチアピンは、過覚醒、再体験の症状に優れた有効性を示しました。
これらの結果から著者は薬物治療としてパロキセチン、ベンラファキシン、クエチアピンを推奨しています。
PTSDに対するメマンチンの効果
日本では、2021年に1月に堀らにより、PTSDに対するメマンチンの有効性を報告しています2)、(図2)。
図2 PTSDに対するメマンチンの効果
2023年7月、RajabiらはSSRI等の治療にメマンチンを上乗せすることによる有効性も報告しています3)。
特にSSRIに心理療法を併用しても、根強いフラッシュバックが続く際などには、メマンチンを併用することで改善することがあります。
PTSDの睡眠障害に対する薬物療法
PTSDの睡眠障害では、プラゾシンの有効性が高いことが示されています4)。
ヒドロキシジン、トラドゾンの有効性も示唆されています4)。
2021年6月、抗コリン薬のトリヘキシフェニジルの有効性が報告されており、今後のさらなる研究に期待がもたれています5)、(図3)。
図3 トリヘキシフェニジルのPTSDに関連する悪夢への効果
PTSDに対する心理療法の有効性の比較
2023年10月、YunitriらはPTSDに対する心理療法の有効性の比較の解析結果を報告しています6)。
有効性は以下の順で優れている結果でした(図4)。
- EMDR (Eye Movement Desensitization and Reprocessing:眼球運動による脱感作と再処理法)
- CPT(Cognitive Processing Therapy:認知処理療法)
- CT(Cognitive Therapy:認知療法)
- CBT(Cognitive Behavior Therapy:認知行動療法)
- PE(Prolonged Exposure:持続エクスポージャー療法)
- NET(Narrative Exposure Therapy:ナラティブ・エクスポージャー・セラピー)
- PCT(Present-Centered Therapy:現在中心療法 )
図4 PTSDに対する心理療法の有効性
また、近年、ニューロフィードバックの有効性も報告されています7)。
PTSDに対する非侵襲的脳刺激法(NIBS)の有効性の比較
2024年4月、TsengらはrTMSなどの非侵襲的脳刺激法(Noninvasive brain stimulation;NIBS)のPTSDに対する有効性と忍容性の比較解析を報告しました8)。
有効性では以下の順に有効でした。
- rTMS両側高周波DLPFC(背外側前頭前皮質)刺激(rTMS:反復経頭蓋磁気刺激療法)
- tDCS陽極右DLPFC刺激+陰極左DLPFC刺激(tDCS:経頭蓋直流電気刺激法)
- rTMS高周波右DLPFC刺激
- rTMS低周波右DLPFC刺激
- iTBS右DLPFC刺激(iTBS:間欠的シータバースト刺激)
- tcVNS(経頸椎迷走神経刺激療法)
忍容性と合わせて比較すると以下の図5の結果でした。
図5 PTSDに対するNIBS(非侵襲的脳刺激法)の有効性と忍容性の比較
今回のPTSDに対するNIBSの効果の研究では、左DLPFCでなく右DLPFCの刺激が有効であることが示されました。
文献
- 1) Zhang ZX, et al.: Clinical outcomes of recommended active pharmacotherapy agents from NICE guideline for post-traumatic stress disorder: Network meta-analysis. Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry, 125: 110754, 2023.
- 2) Hori H, et al.: The efficacy of memantine in the treatment of civilian posttraumatic stress disorder: an open-label trial. Eur J Psychotraumatol, 12: 1859821, 2021.
- 3) Rajabi F, et al.: The Effect of Add-on Memantine in New Onset Combat-Related Posttraumatic Stress Disorder Core Symptoms: A Pilot Study. Iran J Psychiatry, 18: 266-274, 2023.
- 4) Lappas AS, et al.: Pharmacotherapy for sleep disturbances in post-traumatic stress disorder (PTSD): A network meta-analysis. Sleep Med, 20: 467-479, 2024.
- 5) Sogo K, et al.: Centrally acting anticholinergic drug trihexyphenidyl is highly effective in reducing nightmares associated with post-traumatic stress disorder. Brain Behav, 11: e02147, 2021.
- 6) Yunitri N, et al.: Comparative effectiveness of psychotherapies in adults with posttraumatic stress disorder: a network meta-analysis of randomised controlled trials. Psychol Med, 53: 6376-6388, 2023.
- 7) Askovic M, et al.: Neurofeedback for post-traumatic stress disorder: systematic review and meta-analysis of clinical and neurophysiological outcomes. Eur J Psychotraumatol, 14: 2257435, 2023.
- 8) Tseng PT, et al.: Efficacy and acceptability of noninvasive brain stimulation for treating posttraumatic stress disorder symptoms: A network meta-analysis of randomized controlled trials. Acta Psychiatr Scand, 150: 5-21, 2024.
- 頭が働かない
- 寝つきが悪い
- やる気が起きない
- 不安で落ち着かない
- 朝寝坊が多い
- 人の視線が気になる
- 職場に行くと体調が悪くなる
- 電車やバスに乗ると息苦しくなる
- うつ病
- 強迫性障害
- 頭痛
- 睡眠障害
- 社会不安障害
- PMDD(月経前不快気分障害)
- パニック障害
- 適応障害
- 過敏性腸症候群
- 心身症
- 心的外傷後ストレス障害
- 身体表現性障害
- 発達障害
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- テクノストレス
- バーンアウト症候群
- ペットロス(症候群)
- 更年期障害
- 自律神経失調症