公開日 2024.12.9
はじめに
月経関連脳機能障害(menstrual cycle-related brain disorders)は、女性の月経周期に関連して、発症または増悪する神経学的または精神的障がいの一群を指します。
主として以下の3疾患あります1)、(図1)。
- 月経前不快気分障害(premenstrual dysphoric disorder:PMDD)
- 月経時片頭痛(menstrual migraine)
- 月経てんかん(catamenial epilepsy)
図1 月経関連脳機能障害
月経前不快障害
月経前不快気分障害(Premenstrual Dysphoric Disorder:PMDD)は月経前に気分の強い落ち込みまたはイライラ感が生じ、日常生活・社会生活に支障をきたす疾患です。
プロゲステロン、エストロゲンの月経周期に伴う変動により生じるとされています2)。
治療はSSRIが第1選択で有効性は以下のように報告されています3)、(図2)。
図2 PMDDに対するSSRIの効果
(一般に忍容性も考慮して、エスシタロプラムの選択が多いです。)
月経時片頭痛
月経数日前から月経中にかけて片頭痛が生じる場合を月経時片頭痛とよんでいます。
月経時片頭痛の女性では、黄体期のエストロゲン濃度が減少していることと、早朝のコルチゾール濃度が上昇していることが報告されています4)。
このことから、視床下部の機能障害、及びストレスとの関連を含めた、視床下部‐下垂体‐性腺(hypothalamus-pituitary-gonadal:HPG)軸の異常が示唆されています。
急性期治療、予防治療は通常の片頭痛治療に準じます。
過去にアセトアミノフェン(カロナール)やロキソプロフェン(ロキソニン)などのNSAIDSで効果がえられなかった場合はトリプタンを使用します。
トリプタン系製剤には以下の5剤があります。
- スマトリプタン(イミグラン)
- ゾルミトリプタン(ゾーミッグ)
- エレトリプタン(レルパックス)
- リザトリプタン(マクサルト)
- ナラトリプタン(アマージ)
急性期の片頭痛に対するトリプタン5剤、ラスミジタン(レイボー)、ゲパント2剤(リメゲパントは承認申請中)の有効性と忍容性を比較した解析では、エレトリプタン(レルパックス)が優れた結果でした5)、(図3)。
図3 片頭痛急性期治療薬の効果と忍容性の比較
月経時片頭痛ではスマトリプタン(イミグラン)100mgが最も有効であることが、報告されています6)、7)、(図4)。
図4 月経時片頭痛の治療薬の有効性
月経てんかん
月経周期に関連して、てんかんが生じる場合を月経てんかんと呼びます。
大脳辺縁系におけるプロゲステロン受容体の活性化がニューロンの興奮性を誘導し、てんかんの発症に関与している可能性が示唆されています8)。
治療にはアセタゾラミド(ダイアモックス)やクロバザム(マイスタン)が使用されます9)、10)。
既往の精神疾患の悪化
他にうつ病、パニック症、PTSDなどの既往の疾患の症状が悪化しやすくなることも知られています。
中でも、パニック症の悪化や、PTSDのフラッシュバックの増悪などが起こりやすくなるため、女性の月経周期に合わせた慎重な見守りが必要となります11)、12)。
おわりに
月経前不快気分障害、月経時片頭痛、月経てんかん、月経周期に伴う既往の精神疾患の悪化は互いに併存例が多いことがわかっています。
月経前不快気分障害当事者における月経時片頭痛の割合は、約53%と認められたと報告されています13)。
各科の連携によるサポートが重要となります。
参考
- 1) Barone JC, et al.: A scoping review of hormonal clinical trials in menstrual cycle-related brain disorders: Studies in premenstrual mood disorder, menstrual migraine, and catamenial epilepsy. Front Neuroendocrinol, 71:101098, 2023.
- 2) Hantsoo L, Epperson CN. : Premenstrual Dysphoric Disorder: Epidemiology and Treatment. Curr Psychiatry Rep, 17 : 87, 2015.
- 3) Jespersen C, et al.: Selective serotonin reuptake inhibitors for premenstrual syndrome and premenstrual dysphoric disorder. Cochrane Database Syst Rev, 8: CD001396, 2024.
- 4) Beech EL, et al.: Sex and stress hormone dysregulation as clinical manifestations of hypothalamic function in migraine disorder: A meta-analysis. Eur J Neurosci, 58: 3150-3171, 2023.
- 5) Yang CP, et al.: Comparison of New Pharmacologic Agents With Triptans for Treatment of Migraine: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Netw Open, 4: e2128544, 2021.
- 6) Zhang H, et al.: Comparative efficacy of different treatments for menstrual migraine: a systematic review and network meta-analysis. 24: 81, 2023.
- 7) Khoo CC, et al.: Acute and preventive treatment of menstrual migraine: a meta-analysis. J Headache Pain, 25: 143, 2024.
- 8) Shiono S, et al.: Limbic progesterone receptor activity enhances neuronal excitability and seizures. Epilepsia, 62: 1946-1959, 2021.
- 9) Lim LL, et al.: Acetazolamide in women with catamenial epilepsy. 42: 746-9, 2001.
- 10) Montenegro MA, et al.: Role of clobazam in the treatment of epilepsies. Expert Rev Neurother, 3: 829-34, 2003.
- 11) Nolan LN, Hughes L.: Premenstrual exacerbation of mental health disorders: a systematic review of prospective studies. Arch Womens Ment Health, 25: 831-852, 2022.
- 12) Lin J, et al.: Understanding premenstrual exacerbation: navigating the intersection of the menstrual cycle and psychiatric illnesses. Front Psychiatry, 15:1410813, 2024.
- 13) Yamada K.: High prevalence of menstrual migraine comorbidity in patients with premenstrual dysphoric disorder: Retrospective survey. Cephalalgia, 36: 294-5, 2016.
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