公開日 2022.2.17
作用・特徴
レクサプロはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)として作用する抗うつ薬ですが、他のSSRIと異なり、増量の必要がなく、開始用量の1錠で効果用量に達します。
通常、他のSSRIの場合、初回投与量から開始し、効果をみて徐々に増量する必要があり、その分治療に時間がかかることがあり、レクサプロは効果発現までの時間を短縮するメリットがあります。
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)では薬剤のトランスポータの阻害率が薬の強さの一つの目安になります 1)、(図1)。
図1:エスシタロプラム(レクサプロ)の
セロトニン5HTトランスポータの阻害率
しかし、レクサプロは他のSSRIと異なり、セロトニンのトランスポータにより選択的に結合すること 1)、(図2)、アロステリック結合部位というところに結合し、セロトニン再取り込み阻害の作用をより強めることが分かっています 2)、(図3)。
この作用から他のSSRIと区別してアロステリックセロトニン再取り込み阻害剤(allosteric serotonin reuptake inhibitor ; ASRI)する捉え方もあります2)。
図2:エスシタロプラム(レクサプロ)の
セロトニン5HRトランスポータに対する選択性
(※図中のフルオキセチンとシタロプラムは日本未承認)
図3:エスシタロプラム(レクサプロ)のアロステリック作用
このようなピュアなSSRIで作用も強い一方で副作用は一般的に少ないことが報告されています 3)。
加えて、血液中の薬剤濃度が減少しても脳内ではトランスポータへの結合が長く続き、効果が持続します 4)。
このような特徴は中止後の離脱症状が生じにくく、うつ症状や不安症状が改善後に薬をやめやすいメリットがあります。
開発経緯
デンマークのルンドベック社ははじめにシタロプラムというSSRIを開発しました。
その後、シタロプラムは海外で承認、使用されるようになりました。
ルンドベック社はシタロプラムより効果が優れていて、副作用の少ない 5)、光学異性体であるエスシタロプラム(レクサプロ)を開発し、海外、日本で承認されることになりました。
効能・効果
日本での保険承認は現在(2022年2月時点)、「うつ病・うつ状態」及び「社交不安障害」となっています。
レクサプロは他のSSRI同様、不安障害、強迫性障害、月経前不快気分障害等にも有効であり 6)~10)、米国では「うつ病」、「全般性不安障害」に適応を取得しています。
また欧州では「うつ病」、「パニック障害」、「社交不安障害」、「全般性不安障害」、「強迫性障害」、「月経前不快気分障害」に承認を取得しています(図4)。
図4:エスシタロプラム(レクサプロ)の各国の保険適応
2022年2月時点でパニック障害ではレクサプロとセルトラリンの有効性が高く、強迫性障害ではレクサプロの有効性が高い解析結果が報告されています 8)、9)。
用法・用量
通常、成人にはエスシタロプラムとして10mgを1日1回夕食後に経口投与する。
なお、年齢・症状により適宜増減するが、増量は1週間以上の間隔をあけて行い、1日最高用量は20mgを超えないこととするとなっています。
薬物動態
1日1回単回で内服した際は血液中の濃度は約4時間で最高濃度に達し、約25~27時間後に血液中の濃度は半分に下がります(図5)。
図5:エスシタロプラム(レクサプロ)1回内服時の血中濃度の推移
毎日内服すると、血液中の濃度は約3時間で最高濃度に達し、約38時間後に血液中の濃度は半分に下がります。
15日程内服を続けると一定の濃度に維持されます(図6)。食事による影響はありません。
図6:エスシタロプラム(レクサプロ)を毎日内服した時の血中濃度の推移
血中濃度は38時間ほどで半分に下がりますが、脳内のセロトニントランスポータには130時間程結合していると報告されています 4)、(図7)。
図7:エスシタロプラム(レクサプロ)の
血中濃度と脳内トランスポータ占有率の時間的差
剤形
剤形は10㎎錠と20㎎錠があります(図8)。
図8:エスシタロプラム(レクサプロ)の剤形
副作用
うつ病患者を対象とした国内臨床試験時おける副作用発現頻度は550例中409例(74.4%)でした。
主な副作用は以下が報告されています(図9)。
- 悪心131例(23.8%)
- 傾眠129例(23.5%)
- 頭痛56例(10.2%)
- 口渇53例(9.6%)
- 浮動性めまい48例(8.7%)
- 倦怠感39例(7.1%)
- 下痢34例(6.2%)
- 腹部不快感32例(5.8%)
図9:エスシタロプラム(レクサプロ)の主な副作用
まれな副作用で脈拍のQT間隔という幅が延長するリスクがありますが、肝臓の酵素のCYP2C19というものを生まれつきもってない人では、よりリスクが高まるとされており、慎重に使用します。
飲み合わせの点では三環系抗うつ薬や抗精神病のリスペリドン(リスパダール)と一緒に内服すると、これらの薬剤の濃度が上昇しやすくなります。
また、胃薬のオメプラゾール(オメプラール)、ランソプラゾール(タケプロン)と一緒に内服するとレクサプロの濃度が上昇することがあり、必要に応じ調整します。
レクサプロは効果が強く、副作用が少ないとされていますが、1剤で効果を発揮する作用は逆にセロトニンに対し過敏性を持つ人(セロトニン・ナイーブと呼ばれることがあります)にとっては副作用が強くでてしまうデメリットにもなります。
このような個別性の背景に注意して慎重に使用します。
文献
- 1)Owens MJ, et al. : Second-generation SSRIs: Human monoamine transporter binding profile of escitalopram and R-fluoxetine. Biol Psychiatry, 50 : 345-350, 2001.
- 2)Sanchez C, et al. A comparative review of escitalopram, paroxetine, and sertraline: Are they all alike? Int Clin Psychopharmacol, 29 : 185-96, 2014.
- 3)Cipriani A, et al. : Comparative efficacy and acceptability of 21 antidepressant drugs for the acute treatment of adults with major depressive disorder: a systematic review and network meta-analysis. Lancet, 391 : 1357-1366, 2018.
- 4)Kirino E. : Escitalopram for the management of major depressive disorder: a review of its efficacy, safety, and patient acceptability. Patient Prefer Adherence, 6 : 853-61, 2012.
- 5)Montgomery S, et al. Efficacy of escitalopram compared to citalopram: a meta-analysis. Int J Neuropsychopharmacol, 14 : 261-8, 2011.
- 6)Baldwin DS, et al. : Efficacy of escitalopram in the treatment of social anxiety disorder: A meta-analysis versus placebo. Eur Neuropsychopharmacol, 26 : 1062-9, 2016.
- 7)Slee A, et al. : Pharmacological treatments for generalised anxiety disorder: a systematic review and network meta-analysis. Lancet, 393 : 768-777, 2019.
- 8)Chawla N, et al. : Drug treatment for panic disorder with or without agoraphobia: systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials. 376 : e066084, 2022.
- 9)Tao Y, et al. : Comparing the efficacy of pharmacological and psychological treatment, alone and in combination, in children and adolescents with obsessive-compulsive disorder: A network meta-analysis. J Psychiatr Res, 148 : 95-102, 2022.
- 10)Eriksson E, et al. : Escitalopram administered in the luteal phase exerts a marked and dose-dependent effect in premenstrual dysphoric disorder. J Clin Psychopharmacol, 28 : 195-202.
- 頭が働かない
- 寝つきが悪い
- やる気が起きない
- 不安で落ち着かない
- 朝寝坊が多い
- 人の視線が気になる
- 職場に行くと体調が悪くなる
- 電車やバスに乗ると息苦しくなる
- うつ病
- 強迫性障害
- 頭痛
- 睡眠障害
- 社会不安障害
- PMDD(月経前不快気分障害)
- パニック障害
- 適応障害
- 過敏性腸症候群
- 心身症
- 心的外傷後ストレス障害
- 身体表現性障害
- 発達障害
- ADHD(注意欠如・多動症)
- 気象病・天気痛
- テクノストレス
- バーンアウト症候群
- ペットロス(症候群)
- 更年期障害
- 自律神経失調症