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遅発性ジスキネジアと
治療薬バルベナジン(ジスバル)について

公開日 2024.8.26

遅発ジスキネジアについて

自分では止めらない・または止めてもすぐに出現するおかしな動きをジスキネジアと言います。

このなかで、抗精神病薬などを長期間使用していると出現するものを遅発ジスキネジアと呼びます 1)。

症状には口をすぼめる、舌を左右に動かす、口をもぐもぐさせる、勝手に手が動いてしまう、足が勝手に動いてしまうなどがあります(図1)。

図1:遅発性ジスキネジアの症状

遅発性ジスキネジアの症状

口や舌に生じる遅発性ジスキネジアは口唇ジスキネジア呼ばれています。手・足・体幹と全身に生じるリスクがありますが、横隔膜などの呼吸に関わる部位に遅発性ジスキネジアが生じると、呼吸に関わる呼吸性ジスキネジアとよばれるリスクの高い状態が生じることもあり慎重な観察を要します 2)、3)。

発生機序

抗精神病薬を長期間投与すると、統合失調症の治療のターゲット部位である辺縁系や前頭葉とは別に、体の運動を調整する線条体という部位のドパミンの伝達も長期間ブロックされます。

線条体でドパミン伝達がブロックされている状態は、線条体でのドパミン伝達不全が生じるパーキンソン病と同じ状態となり、薬剤性パーキンソン症候群が生じます。

その状態が長期間に及ぶと、生体が少ないドパミンを受け取ろうとシナプスの後部でドパミンの受容体の発現を増加させていきます(アップレギュレーション)。

受容体の数が増加すると不随意運動が生じるようになり、遅発性ジスキネジアが発生します(図2)。

図2:遅発性ジスキネジアの発生機序

遅発性ジスキネジアの発生機序

遅発性ジスキネジアのリスク因子

遅発性ジスキネジアは第2世代抗精神病よりも第1世代抗精神病による治療の方が発症率が高いことが報告されています 4)、(図3)。

図3:遅発性ジスキネジアの年間発生率 第1世代抗精神病薬VS第2世代抗精神病薬

遅発性ジスキネジアの年間発生率 第1世代抗精神病薬VS第2世代抗精神病薬

また、投与期間の長さ、投与量が関連することも報告されています 5)。

高齢や罹病期間の長さといった患者背景因子や糖尿病や喫煙習慣などの介入可能なリスク因子も分かっています 6)、(図4)。

図4:遅発性ジスキネジアのリスク因子

遅発性ジスキネジアのリスク因子

従来の治療と治療薬

原因薬剤の減薬やクロザピン(クロザリル)オランザピン(ジプレキサ)クエチアピン(セロクエル)への変更、抗コリン薬が併用されている場合は抗コリンの減薬を試みることが推奨されていますが、第1世代抗精神病との比較ではアリピプラゾール(エビリファイ)とオランザピンが(ジプレキサ)の発生率が低いことが報告されています 4)、(図5)。

また、抗コリン薬の減量による治療効果はさらなる検証が必要とされています 7)。

図5:第1世代抗精神病に対する第2世代抗精神病の遅発性ジスキネジアの年間発生率比

第1世代抗精神病に対する第2世代抗精神病の遅発性ジスキネジアの年間発生率比

従来、治療薬ではクロナゼパム(ランドセン・リボトリール)アマンタジン(シンメトリル)、テトラベナジン(コレアジン)、ビタミンE、ビタミンB6、ゾニサミド(エクセグラン・トレリーフ)などが使用されてきましたが 8)、治療薬として保険適応を有する薬剤はありませんでした。

遅発性ジスキネジアの治療薬バルベナジン(ジスバル)について

国内初の遅発性ジスキネジアの治療薬バルベナジン(ジスバル)が2022年3月に承認を得て、6月1日より発売開始となりました。

米国では2017年にバルベナジン(ジスバル)とデューテトラベナジン(Austedo;日本未承認)が遅発性ジスキネジアに対して保険承認を得て、第1選択薬として使用されています 9)。

作用

脳の神経の前シナプスには小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)というドパミンを含めた神経伝達物質のシナプス小胞への取り込みを調整している物質があります。

バルベナジン(ジスバル)とその活性代謝物(NBI-98782)はこのVMAT2の働きを阻害することでドパミンがシナプス小胞に取り込まれるのを抑制し、シナプス小胞からドパミンが放出される量を減少させます。

そのため、アップレギュレーションしたシナプス後部のドパミン受容体が過度にドパミン伝達を受けることがなくなり、不随意運動の減少につながります(図6)。

図6:バルベバジン(ジスバル)の作用機序

バルベバジン(ジスバル)の作用機序

用法・用量

通常、成人には1日1回40mgを経口投与する。

なお、症状により適宜増減するが、1日1回80mgを越えないこととするとなっています。

薬物動態

空腹時にバルベナジン(ジスバル)40mgを内服すると約30分後に血液中の濃度が最高濃度に達します。

活性代謝物は約6時間後に最高濃度に達します。バルベナジン(ジスバル)、活性代謝物いずれも、約20時間後に血液中の濃度は半分に下がります(図7)。

図7:1回内服時のバルべナジン(ジスバル)と活性代謝物の血中濃度の推移

1回内服時のバルべナジン(ジスバル)と活性代謝物の血中濃度の推移

毎日内服すると約45分後に血液中の濃度が最高濃度に達します。

活性代謝物は約4時間後に最高濃度に達します。

血液中の濃度は一定に維持されます 10)、(図8)。

図8:8日連続内服時のバルベナジン(ジスバル)と活性代謝物の血中濃度の推移

8日連続内服時のバルベナジン(ジスバル)と活性代謝物の血中濃度の推移

食後に内服するより空腹時に内服する方が血中濃度が高くなるため、内服の時間を一定にする必要があることと、大幅な食事内容の変更を避ける必要があります(図9)。

図9:バルベナジン(ジスバル)の空腹時と食後内服時の血中濃度の違い

バルベナジン(ジスバル)の空腹時と食後内服時の血中濃度の違い

バルベナジン(ジスバル)は内服後、肝臓でCYP3Aで主に代謝され、活性代謝物は主にCYP2D6、CYP3Aで代謝されます。

そのため、CYP2D6阻害剤と併用した場合、活性代謝物の血中濃度が約2倍高くなり、CYP3A阻害剤と併用した場合、バルベナジン(ジスバル)と活性代謝物の濃度が血中濃度が約2倍高くなります。

そのため強いCYP2D6阻害作用をもつパロキセチン(パキシル)、キニジン等を使用している場合、強いCYP3A阻害剤をもつイトラコナゾール(イトリゾール)、クラリスロマイシン(クラリス)等を内服している場合は観察を十分に行い、増量しないこととなっています。

剤形

剤形は40mg 1カプセルがあります(図10)。

図10:バルベナジン(ジスバル)の剤形

バルベナジン(ジスバル)の剤形

副作用

長期使用における副作用は249例中156例(62.7%)報告され、主なものは傾眠42例(16.9%)、流涎過多24(9.6%)、振戦18(7.2%)、倦怠感18(7.2%)、アカシジア17(6.8%)でした(図11)。

図11:バルベナジン(ジスバル)の主な副作用

バルベナジン(ジスバル)の主な副作用

その他、QT延長、うつ症状や不安が生じる可能性があるとされています。

バルベナジン(ジスバル)より先に使用されていたテトラベナジン(コレアジン)は同じ作用(VMAT2阻害剤)で、うつ病の発現が約7%程あることがわかっていました。

しかし、近年の研究ではテトラベナジン(コレアジン)と比較し、バルベナジン(ジスバル)ではうつ病の発生リスクは低いと報告されています 11)。

この背景にはテトラベナジン(コレアジン)と比較してバルベナジン(ジスバル)の血中の濃度が長く維持されることが要因と考えられています 11)。

ただし、慎重な観察が必要なことはかわりありません。

他剤との比較と有効性

2024年7月、Ismailらは最新の遅発性ジスキネジアに対する治療薬の有効性と安全性の比較の解析を報告しています12)。

今回の研究では、バルベナジンは590人、ビタミンEは244人の対象者が含まれました。

33件の研究の内、ビタミンEの研究は5件含まれましたが、4件は1990年代のものでした。

最新のものはやはりバルベナジンで、80mgの効果が優れている結果でした(図12)。

図12:遅発性ジスキネジアに対する治療薬の有効性の比較

遅発性ジスキネジアに対する治療薬の有効性の比較

テトラベナジン(コレアジン)と比較すると、バルベナジン(ジスバル)の活性代謝物(NBI-98782)の線条体VMAT2阻害作用が強い(効果がより強い)ことがわかっています13)、14)、(図13)。

図13:バルベナジン(ジスバル)・活性代謝物(NBI-98782)とテトラベナジンの線条体VMAT2阻害作用の比較

バルベナジン(ジスバル)・活性代謝物(NBI-98782)とテトラベナジンの線条体VMAT2阻害作用の比較

おわりに

遅発性ジスキネジアは本人にとって苦しい状態でそれ自体が抑うつ状態をもたらすことがあります。

また、リカバリーを阻む要因となるだけでなく、不随意運動の外見から時にスティグマに苦しむこともあります。

このような中、ジスバルが遅発性ジスキネジアの治療薬として初の承認を得ることができました。

副作用に注意しながら使用することで、遅発性ジスキネジアによる苦しく辛い症状が緩和・軽減されることに期待したいと思います。

文献

  • 1) 重篤副作用疾患別対応マニュアル ジスキネジア. 厚生労働省, 平成21年5月.
  • 2) Kruk J, et al. : Neuroleptic-induced respiratory dyskinesia. J Neuropsychiatry Clin Neurosci, 7 : 223-9, 1995.
  • 3) Hayashi T, et al. : Prevalence of and risk factors for respiratory dyskinesia. Clin Neuropharmacol, 19 : 390-8, 1996.
  • 4) Carbon M, et al. : Tardive dyskinesia risk with first- and second-generation antipsychotics in comparative randomized controlled trials: a meta-analysis. World Psychiatry, 17 : 330-340, 2018.
  • 5) Margolese HC, et al. : Tardive dyskinesia in the era of typical and atypical antipsychotics. Part 1: pathophysiology and mechanisms of induction. Can J Psychiatry, 50 : 541-7, 2005.
  • 6) Solmi M, et al. : Clinical risk factors for the development of tardive dyskinesia. J Neurol Sci, 389 : 21-27, 2018.
  • 7) Bergman H, Soares-Weiser K. : Anticholinergic medication for antipsychotic-induced tardive dyskinesia. Cochrane Database Syst Rev, 1 : CD000204, 2018.
  • 8) Caroff SN, et al. : Pharmacological treatment of tardive dyskinesia: recent developments. Expert Rev Neurother, 17 : 871-881, 2017.
  • 9) Arya D, et al. : Tardive Dyskinesia: Treatment Update. Curr Neurol Neurosci Rep, 19 : 69, 2019.
  • 10) Luo R, et al. : Single Dose and Repeat Once-Daily Dose Safety, Tolerability and Pharmacokinetics of Valbenazine in Healthy Male Subjects. Psychopharmacol Bull, 47 : 44-52, 2017.
  • 11) Solmi M, et al. : Treatment of tardive dyskinesia with VMAT-2 inhibitors: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Drug Des Devel Ther, 12 : 1215-1238, 2018.
  • 12) Ismail O, et al.: Efficacy and safety of different pharmacological interventions in the treatment of tardive dyskinesia: a systematic review and network meta-analysis. Eur J Clin Pharmacol, 2024.
  • 13) Grigoriadis DE, et al. : Pharmacologic Characterization of Valbenazine (NBI-98854) and Its Metabolites. J Pharmacol Exp Ther, 361 : 454-461, 2017.
  • 14) Yao Z, et al. : Preparation and evaluation of tetrabenazine enantiomers and all eight stereoisomers of dihydrotetrabenazine as VMAT2 inhibitors. Eur J Med Chem, 46 : 1841-8, 2011.

執筆者:高津心音メンタルクリニック 院長 宮本浩司

  • 精神保健指定医
  • 日本精神神経学会認定専門医・指導医

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