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044-455-7500男性型脱毛症(AGA)の治療には、フィナステリドやデュタステリドなどの内服薬が広く使用されています。
これらの薬剤は、脱毛の進行に関係するジヒドロテストステロン(DHT)の産生を抑制することで、
AGAの進行を抑える作用があります。
一方、近年では、これらのAGA治療薬と抑うつ症状やうつ病との関連が注目されています。
「AGA治療薬を飲むとうつ病になるのか?」「長期間服用しても精神面への影響はないのか?」と
不安に感じている方もいるかもしれません。
2026年に医学誌 Postgraduate Medicine に掲載されたメタ解析では、
フィナステリドやデュタステリドの使用とうつ病の発症リスクとの関連が検討されました1)。
その結果、従来報告されていたほど大きなリスク上昇はない可能性が示されました。
ただし、AGA治療を受ける若年男性については、十分なデータが得られていないことにも注意が必要です。
フィナステリドとデュタステリドは、5α還元酵素阻害薬(5-alpha reductase inhibitors:5-ARI)に分類されます。
5α還元酵素は、男性ホルモンのテストステロンをDHTへ変換する酵素ですが、脳内で働く神経ステロイドの合成にも関与しています。
その一つが、アロプレグナノロン(allopregnanolone)です。
アロプレグナノロンは、GABA-A受容体の働きを増強し、不安や気分の調節に関与する神経ステロイドです。
5α還元酵素阻害薬によって、その合成が抑制されることで、気分に影響が生じる可能性が考えられています。
ただし、この作用機序が実際にどの程度うつ病の発症につながるのかは、まだ明確になっていません。
従来の研究では、AGA治療薬としても使用されるフィナステリドやデュタステリドについて、
うつ病の発症リスクが約1.6~2.0倍に上昇するとの報告がありました。
特に2017年のWelkらの研究では、デュタステリド使用者のうつ病発症ハザードが非使用者の約2倍と
報告されています。
しかし、2026年のメタ解析では、同じ疾患に対して別の治療薬を使用している患者と比較すると、
こうしたリスク上昇は認められませんでした。
従来の研究結果には、薬剤そのものの影響だけでなく、基礎疾患や患者背景の違いが
影響していた可能性があります。
Nguyenらは、5α還元酵素阻害薬とうつ病の発症リスクに関する5研究を統合し、
合計2,517,859人のデータを解析しました。
その結果、薬剤使用者全体のうつ病発症リスクは、比較対象群に対して次のように推定されました。
ハザード比(HR)1.31(95%信頼区間 0.98–1.76)
これは、うつ病の発症ハザードが31%高いという点推定ですが、95%信頼区間に1.0が含まれるため、
統計学的に有意な上昇ではありませんでした。
さらに、研究間のばらつきが非常に大きく、結果の解釈には注意が必要でした。
今回の研究で特に重要なのは、どのような人を比較対象にするかによって、
うつ病の発症リスクの評価が大きく異なったことです。
| 比較対象 | ハザード比(HR) | 結果 |
| 全研究の統合 | 1.31(0.98–1.76) | 有意差なし |
| 薬剤を使用していない人 | 1.77(1.50–2.07) | 有意に高い |
| α遮断薬を使用している人 | 0.89(0.86–0.92) | 有意に低い |
※括弧内は95%信頼区間。非使用者およびα遮断薬との比較は、ランダム化比較試験を除いた観察研究の
解析結果です。
薬剤を使用していない人と比較すると、5α還元酵素阻害薬の使用者では、うつ病の発症ハザードが
77%高い結果でした。
一方、前立腺肥大症の治療薬であるα遮断薬を使用している人と比較すると、
うつ病の発症ハザードは11%低い結果でした。

この違いには、薬剤そのものの影響だけでなく、治療対象となる病気や患者さんの背景の違いが
関与している可能性があります。
今回の研究対象の多くは、AGA患者ではなく、50歳以上の前立腺肥大症患者でした。
前立腺肥大症では、夜間頻尿や睡眠障害、生活の質の低下などが心理的負担となる場合があります。
そのため、治療を受けている人と治療を受けていない人を単純に比較すると、
薬剤の影響だけでなく、基礎疾患の影響も含まれてしまう可能性があります。
これを「適応による交絡」といいます。
なお、α遮断薬との比較でリスクが低かったことは、フィナステリドやデュタステリドに
うつ病を予防する効果があることを意味するものではありません。
今回の論文では、前立腺がん予防試験のデータを用いたランダム化比較試験の二次解析についても
検討されています。
フィナステリド使用群では、プラセボ群と比較して、うつ病の発症ハザードが約10%高い結果でした。
HR 1.10(95%信頼区間 1.01–1.19)
ただし、この解析では複数の評価項目について検定が行われており、多重比較の補正は実施されていません。
著者らは、この結果を慎重に解釈する必要があると指摘しています。
したがって、今回の研究から、5α還元酵素阻害薬がうつ病の発症リスクを確実に高める、
あるいはまったく高めないと断定することはできません。
今回のメタ解析に含まれた患者さんの多くは、50歳以上の前立腺肥大症患者でした。
一方、AGA治療では、20~40歳代の比較的若い男性にもフィナステリドやデュタステリドが使用されます。
前立腺肥大症の治療を受ける高齢男性と、AGA治療を受ける若年男性では、
基礎疾患、生活背景、心理的負担などが異なります。
そのため、今回の研究結果を、そのまま若年AGA患者に当てはめることはできません。
著者らも、若年AGA患者を対象とした、適切な比較群を設定した研究が必要であると述べています。
AGA治療薬を服用している方で、次のような症状が現れた場合には注意が必要です。
これらの症状が現れた場合でも、必ずしもAGA治療薬が原因とは限りません。
仕事や家庭でのストレス、睡眠不足、身体疾患、もともとの気分障害など、
さまざまな要因が関係している可能性があります。
一方で、薬剤との関連も否定できないため、服用開始時期や症状の経過を確認し、
処方医に相談することが重要です。
特に、希死念慮や自殺念慮が現れた場合には、速やかな医学的評価が必要です。
2026年のメタ解析では、フィナステリドやデュタステリドによるうつ病の発症リスクは、
従来報告されていたほど大きくない可能性が示されました。
しかし、比較対象の選び方によって研究結果が大きく異なることから、
薬剤とうつ病の因果関係については、引き続き慎重な検討が必要です。
また、今回の研究の中心は高齢の前立腺肥大症患者であり、若年のAGA患者におけるリスクが
十分に明らかになったわけではありません。
AGA治療薬を服用しているからといって、過度にうつ病を心配する必要はありませんが、
気分や意欲に変化が現れた場合には、その変化を見逃さないことが大切です。
AGA治療を継続するかどうかは、治療効果と副作用の可能性を踏まえ、
処方医と相談して判断することが望まれます。
1)Nguyen MH, et al.: Depression risk of 5-alpha reductase inhibitors: impact of active-comparator versus non-drug user control groups on risk measurement. Postgraduate Medicine, 138: 154–161, 2026.
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