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044-455-7500うつ病の治療を受けていると、
と感じることがあります。
うつ病がどのような順序で回復するかは、
「まず睡眠や食欲が改善し、次に意欲が戻り、最後に気分が改善する」
と説明されることがあります。
しかし、うつ病の症状が必ずこの順序で回復するという科学的根拠は十分ではありません。
実際には、抑うつ気分や興味・喜びの低下が比較的早く改善する一方、
睡眠障害や身体症状が長く残る場合もあります。
今回は、うつ病の症状別の改善過程を検討した2つの研究をもとに、うつ病の回復する順序にはどのような特徴があるのかを解説します。
うつ病には、抑うつ気分や興味・喜びの喪失だけでなく、さまざまな症状があります。
例えば、睡眠障害、食欲の変化、疲労感、意欲の低下、集中力の低下、罪責感、身体の痛みなどです。
これらの症状は、同じ患者さんの中でも必ずしも同じ速さで改善するわけではありません。
気分がよくなっても眠れない状態が続くこともあれば、
睡眠が改善しても意欲や集中力が十分に回復しないこともあります。
そのため、うつ病の回復を考える際には、症状全体の重症度だけでなく、
それぞれの症状がどのように変化しているかに注目することが重要です。
Hirschfeldら(2005)は、うつ病患者512人を対象とした2件のランダム化比較試験のデータを統合し、
抗うつ薬デュロキセチン(サインバルタ)による治療で、どの症状がいつ改善するかを検討しました1)。
対象者のうち251人がデュロキセチンを、261人がプラセボを使用し、
9週間にわたって症状の変化が評価されました。
その結果、デュロキセチン群では、症状によってプラセボ群との差が現れる時期が異なりました。

※各時期は、デュロキセチン群がプラセボ群より初めて統計学的に有意な改善を示した評価時点です。
個々の患者さんがこの順番で回復することを意味するものではありません。
この研究で注目すべき点は、抑うつ気分や活動性の低下といった、うつ病の中心的な症状が治療開始1週目から改善していたことです。
一方、睡眠障害や一部の身体症状では、プラセボとの差が認められるまでに比較的長い時間がかかりました。
つまり、「抗うつ薬の効果はまず睡眠に現れ、気分の改善は最後になる」とは限らないのです。
ただし、この研究はデュロキセチンに関するものであり、すべての抗うつ薬に同じ結果が当てはまるわけではありません。
例えば、鎮静作用のある抗うつ薬では、睡眠症状が比較的早く改善する場合があります。
また、薬剤による悪心や不眠などの副作用が、治療初期の症状評価に影響する可能性もあります。
したがって、症状の回復順序には、うつ病そのものの経過だけでなく、
使用する薬剤の特徴も関係すると考えられます。
van Eedenら(2019)は、オランダの大規模研究であるNetherlands Study of Depression and Anxiety(NESDA)のデータを用い、大うつ病性障害の成人783人を最長9年間追跡しました2)。
研究では、
など、28種類の症状について、その重症度と長期的な変化を分析しました。
その結果、抑うつ気分や興味・喜びの喪失は比較的良好な改善経過を示す一方、
睡眠障害や身体症状は長期間残存しやすいことが分かりました。
代表的な症状の平均得点は、次のように変化しています。

※IDS-SRの各症状の平均得点。0~3点で、高いほど症状が重いことを意味します。
抑うつ気分の平均得点は1.68から0.92へと低下し、
喜びを感じる能力の低下も1.20から0.52へと改善していました。
一方、中途覚醒は開始時1.59、9年後1.58と、集団平均ではほとんど変化していませんでした。
また、身体の痛みも1.42から1.24への変化にとどまりました。
この結果は、うつ病の中核症状が改善した後も、不眠や身体症状が残ることがあるという臨床的な特徴を示しています。
ただし、この研究は観察研究であり、9年間にさまざまな治療や生活上の変化が生じています。症状の自然な改善順序だけを示したものではありません。

両研究から共通して考えられるのは、うつ病の中核症状である抑うつ気分が、必ずしも最後まで残る症状ではないということです。
むしろ、抑うつ気分や興味・喜びの低下が改善した後にも、不眠や身体症状が続く場合があります。
ただし、これらの研究から、すべての患者さんに当てはまる一定の改善順序を決めることはできません。
「睡眠→食欲→意欲→気分」という順序で説明されることがありますが、
今回の研究では、食欲や意欲についても一律の順序は示されていません。
デュロキセチンの研究では、仕事・活動性の低下が1週目から改善しました。
一方、一般身体症状では有意な改善が現れるまでに5週間かかりました。
9年間の追跡研究では、食欲の変化やエネルギー低下は、比較的良好な改善経過を示していました。
ただし、意欲、興味、活動性、エネルギーは互いに関連していても、同じ症状ではありません。
例えば、気分の落ち込みが軽くなっても、疲労感が強いために行動できないことがあります。
反対に、気分が十分に改善していなくても、日常生活の活動量が増える場合もあります。
したがって、「意欲が戻ったからうつ病が治った」「食欲が改善したから次は気分が改善する」
といった判断は適切ではありません。
うつ病の症状には、それぞれ異なる要因が関与している可能性があります。
例えば、不眠には生活リズム、睡眠習慣、身体疾患、薬剤の影響などが関係します。
疲労感には、睡眠の質、身体疾患、活動量の低下などが関与することがあります。
また、頭痛や腰痛などの身体症状が、うつ病の経過と必ずしも一致しない場合もあります。
そのため、抑うつ気分が改善しても、すべての症状が同時に消失するとは限りません。
残存する症状については、うつ病の症状としてだけでなく、
睡眠障害や身体疾患、薬剤の副作用など、ほかの要因も含めて評価することが重要です。
うつ病の治療効果を評価する際には、抑うつ気分が改善したかどうかだけでなく、
睡眠、食欲、意欲、疲労感、集中力、身体症状なども確認する必要があります。
特に、不眠などの残存症状は、その後の生活の質や再発リスクを考えるうえでも重要です。
一方、睡眠や食欲が改善していても、強い自責感や希死念慮が残っている場合には、引き続き慎重な評価が必要です。
うつ病の回復順序は、単に症状の数が減ることだけではなく、日常生活や社会生活の機能が回復していく過程でもあります。
回復の速さや症状の変化には個人差があるため、周囲の人と比較するのではなく、それぞれの患者さんの経過を丁寧に確認することが大切です。
うつ病の回復については、「睡眠や食欲が先に改善し、最後に気分が改善する」と説明されることがあります。
しかし、今回紹介した2つの研究では、異なる傾向が示されています。
デュロキセチンによる9週間の研究では、抑うつ気分や活動性の低下が比較的早期から改善していました。
また、9年間の追跡研究では、抑うつ気分や興味・喜びの喪失が比較的良好な経過を示す一方、
不眠や身体症状が長期間残存する傾向が認められました。
これらの結果から、うつ病は必ずしも「睡眠→食欲→意欲→気分」の順序で回復するわけではないと考えられます。
大切なのは、決まった順序に当てはめることではなく、患者さんごとに改善している症状と残っている症状を把握し、それぞれに適切な対応を行うことです。
・1)Hirschfeld RMA, et al.: Time Course of Depression-Symptom Improvement During Treatment With Duloxetine. Depression and Anxiety, 21: 170–177, 2005.
・2)van Eeden WA, et al.: Penninx BW, Giltay EJ. Severity, course trajectory, and within-person variability of individual symptoms in patients with major depressive disorder. Acta Psychiatrica Scandinavica, 139: 194–205, 2019.
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