公開日 2023.3.13
症状
体位性頻脈症候群(Postural Orthostatic Tachycardia Syndrome;POTS)は横になっている状態から立ち上がると、心拍数が上昇し、立っていることが困難となる自律神経障害の一つです1)、2)。
以下のような症状を伴います1)、2)。
- 立ちくらみ
- めまい
- 動悸
- 脱力感
- 頭痛
- ブレインフォグ
- 息苦しさ
- 胃腸障害
- 筋骨格痛
パニック症(パニック障害)の症状と類似するため、鑑別が必要とされています。
しかし、症状が満員電車の中で立っている時に生じることなどで、パニック症も生じることもあり、パニック症の誘因、併存疾患となっている場合もあります3)、4)。
診断
診断基準は以下となっています5)。
- 立位またはヘッドアップチルトで10分以内に1分間の心拍数が30以上上昇する。
(12歳から19歳では、10分以内に1分間の心拍数が40以上上昇する) - 起立性低血圧がない。
(収縮期血圧の20mmHg以上の低下がない) - 立位中の起立不耐に伴う症状は臥位になることで速やかに改善する。
- 症状は3か月持続する。
- 他の説明できる疾患が存在しない。
疫学
有病率は0.2~1.0%で女性に多いと報告されています。
ウイルス感染症、外傷、妊娠、手術、心理的ストレスが誘因になるとされています1)。
コロナウイルス感染症流行後、後遺症の一つとしてPOTSが生じることが報告されています6)。
併存疾患として以下の疾患等を伴うことが多いと報告されています5)、(図1)。
- 片頭痛
- 過敏性腸症候群
- エーラス・ダンロス症候群
- 慢性疲労症候群
- 喘息
- 線維筋痛症
- レイノー現象
- 鉄欠乏性貧血
- 胃不全麻痺
- 血管迷走神経性失神
- 不適切洞性頻脈
図1 体位性頻脈症候群(POTS)に併存する主な疾患
病因・病態
病因として自己免疫の異常との関わりが指摘されおり、自己免疫疾患の併存率が高いことが報告されています3)、7)、(図2)。
図2 体位性頻脈症候群(POTS)に併存する自己免疫疾患
また、α1アドレナリン受容体に対する抗体が検出されている報告もあり8)、9)、免疫疾患としての研究が進められています。
他に交感神経系の活動亢進及びカテコラミンの過剰や心血管機能の低下等の関与が示唆されています5)。
以下の3つのタイプが提示されています10)。
- 神経障害性POTS(neuropathic POTS)
骨盤、内臓、下肢の血管で血液の循環に関与する自律神経の障害により、立位で心臓より低い位置に血液が貯留し、POTSが生じるとされます。 - 血液減少性POTS(hypovolemic POTS)
血漿量や血液量が少ないことにより、POTSが生じます。一部のPOTS患者では、健康な対照群と比較して、血漿または血液量が約13~22%少なかったとされています。 - アドレナリン機能亢進性POTS(hyperadrenergic POTS)
立位になることでアドレナリンの機能が過剰に亢進し、血漿中のノルアドレナリンが通常の3倍ほどに上昇し、POTSが生じるとされています。
治療
神経障害性POTSでは圧迫ストッキングの着用やミトドリンの内服が有効とされています。
血液減少性POTSでは有酸素運動、十分な水分の摂取、ナトリウムの摂取、ミトドリンの内服が有効とされています。
アドレナリン機能亢進型のPOTSではプロプラノロールなどのβ遮断約が有効とされています。
抗うつ薬のSSRI、SNRIは症状を悪化させる誘因となり、中止が推奨されています10)。
参考
- 1)Fedorowski A. : Postural orthostatic tachycardia syndrome: clinical presentation, aetiology and management. J Intern Med, 285 : 352-366, 2019.
- 2)Sebastian SA, et al. : Postural Orthostatic Tachycardia Syndrome (POTS): An Update for Clinical Practice. Curr Probl Cardiol, 47 : 101384, 2022.
- 3)白鳥 恭子. : Panic disorderを併発した治療抵抗性の体位性頻脈症候群(POTS). 日病総診誌, 15 : 460-461, 2019.
- 4)Mathias CJ, et al. : Postural tachycardia syndrome--current experience and concepts. Nat Rev Neurol, 8 : 22-34, 2011.
- 5)Vernino S, et al. : Postural orthostatic tachycardia syndrome (POTS): State of the science and clinical care from a 2019 National Institutes of Health Expert Consensus Meeting - Part 1. Auton Neurosci, 235 : 102828, 2021.
- 6)Shouman K, et al. : Autonomic dysfunction following COVID-19 infection: an early experience. Clin Auton Res, 31 : 385-394, 2021.
- 7)Mannan H, Pain CM. : Sex adjusted standardized prevalence ratios for celiac disease and other autoimmune diseases in patients with postural orthostatic tachycardia syndrome (POTS): A systematic review and meta-analysis. Heliyon, 9 : e12982, 2023.
- 8)Gunning WT 3rd, et al. : Postural Orthostatic Tachycardia Syndrome Is Associated With Elevated G-Protein Coupled Receptor Autoantibodies. J Am Heart Assoc, 8 : e013602, 2019.
- 9)Kharraziha I, et al. : Serum Activity Against G Protein-Coupled Receptors and Severity of Orthostatic Symptoms in Postural Orthostatic Tachycardia Syndrome. J Am Heart Assoc, 9 : e015989, 2020.
- 10)Mar PL, Raj SR. : Postural Orthostatic Tachycardia Syndrome: Mechanisms and New Therapies. Annu Rev Med, 71 : 235-248, 2020.
- 頭が働かない
- 寝つきが悪い
- やる気が起きない
- 不安で落ち着かない
- 朝寝坊が多い
- 人の視線が気になる
- 職場に行くと体調が悪くなる
- 電車やバスに乗ると息苦しくなる
- うつ病
- 強迫性障害
- 頭痛
- 睡眠障害
- 社会不安障害
- PMDD(月経前不快気分障害)
- パニック障害
- 適応障害
- 過敏性腸症候群
- 心身症
- 心的外傷後ストレス障害
- 身体表現性障害
- 発達障害
- ADHD(注意欠如・多動症)
- 気象病・天気痛
- テクノストレス
- バーンアウト症候群
- ペットロス(症候群)
- 更年期障害
- 自律神経失調症