川崎市高津区溝の口の心療内科・精神科 高津心音メンタルクリニック

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発達性トラウマ障害
について

公開日 2024.11.25

はじめに

発達性トラウマ障害(Developmental Trauma Disorder:DTD)は、主に幼少期の小児期逆境体験が原因で発達や心理に影響が生じる障害のことです。

2005年にvan der Kolkによって疾患概念が提唱され、その後発達・トラウマの研究者、専門家の間に広まりました。

定義

原著論文ではKolkは、疾患の定義について以下のように記しています1)。

A)トラウマへの暴露

複数回または慢性的に、以下のような発達に悪影響を及ぼす対人的トラウマにさらされること。

(例:ネグレクト、裏切り、身体的暴行、性的暴行、身体の安全に対する脅威、強制的な行為、感情的虐待、暴力や死を目撃すること)

B)トラウマのきっかけとなる刺激に対して引き起こされる繰り返しの情動不安定

トラウマのきっかけとなる刺激に対して引き起こされる繰り返しの情動不安定のパターンで、トラウマ刺激の存在下での高いまたは低いレベルでの情動不安定。

これらの変化は持続し、基準値(ベースライン)に戻らない。

意識的な気づきではその強度が減少しない。

具体的な情緒不安定の表れ
  • 感情面:感情のコントロールが難しくなる
  • 身体面:生理的な反応(例:心拍の上昇、過敏)、運動的な変化(例:衝動的な動き)、医学的な影響(例:身体症状)
  • 行動面:再現行動(例:過去のトラウマを再現するような行動)、自傷行為(例:リストカットなど)
  • 認知面:過去のトラウマが再び起こっていると感じる、混乱、解離、現実感の喪失
  • 対人関係:依存的になる(例:しがみつく)、反抗的、疑念深い態度、過剰に従順
  • 自己帰属:自己嫌悪、自己責任の念(例:自分を責める)

C)持続的に変化した認識と期待

  • 否定的な自己認識(自分自身を否定的に捉える)
  • 保護者への不信感(自分を守るはずの保護者を信頼できない)
  • 他者からの保護を期待できない喪失感
  • 社会的機関への不信感(警察や福祉などの保護機関を信用できない)
  • 社会的正義や報復の手段を持たない(自分を守ったり正義を求める方法がない)
  • 将来的な被害の不可避性(再び被害を受けることが避けられないと感じる)

D)機能障害

  • 教育面
  • 家庭面
  • 仲間関係
  • 法的面
  • 職業面

発達障がいとの関連性

幼少期の被虐待体験、トラウマはワーキングメモリーの機能低下をもたらすことが示されています2)~4)。

その結果、ADHDの特性と同じく、不注意や注意の維持の困難などが生じることがあります。

ADHDでは、成人期以降に障がい特性が際立ち、つまづきが生じるようになり、精神科・心療内科に受診に至ることがあります。

この場合、幼少期に虐待などのトラウマがある場合は、ADHDとは慎重に鑑別を行います。

画像研究

幼少期のトラウマでは、脳の前頭葉という部位における灰白質の減少がみられることが報告されています5)、6)。

図1 幼少期のトラウマによる成人期における前頭葉灰白質の減少

幼少期のトラウマによる成人期における前頭葉灰白質の減少

ADHDでも前頭葉の灰白質の減少がみられることが報告されており7)、これらの機能異常が発達性トラウマ障害による、ワーキングメモリーなどに影響していると考えられています。

図2 ADHDのMRI画像

ADHDのMRI画像

治療

治療では、トラウマに関してはPTSDの治療に準じた治療が行われます。

ワーキングメモリーにおける機能障害などでは、ADHDの治療に準じた治療が行われます。

発達性トラウマ障害では、うつ病だけでなく、幻覚や妄想などの精神病症状が生じることが報告されています8)。

この場合は、精神病症状の改善を目的に少量の抗精神病薬の使用を検討することがあります。

参考

  • 1) van der Kolk BA, Developmental Trauma Disorder. Psychiatric annals, 5: 401-408, 2005.
  • 2) Dodaj A et al.: The Effects of Maltreatment in Childhood on Working Memory Capacity in Adulthood. Eur J Psychol, 13: 618-632, 2017.
  • 3) Goodman JB, et al.: The relationship between early life stress and working memory in adulthood: A systematic review and meta-analysis. Memory, 27: 868-880, 2019.
  • 4) Johnson D, et al.: Associations of Early-Life Threat and Deprivation With Executive Functioning in Childhood and Adolescence: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Pediatr, 175: e212511. 2021.
  • 5) Clausen AN, et al. Machine Learning Analysis of the Relationships Between Gray Matter Volume and Childhood Trauma in a Transdiagnostic Community-Based Sample. Biol Psychiatry Cogn Neurosci Neuroimaging, 4: 734-742, 2019.
  • 6) Begemann MJH, et al.: Childhood trauma is associated with reduced frontal gray matter volume: a large transdiagnostic structural MRI study. Psychol Med, 53: 741-749, 2023.
  • 7) Long Y, et al.: Shared and Distinct Neurobiological Bases of Bipolar Disorder and Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder in Children and Adolescents: A Comparative Meta-Analysis of Structural Abnormalities. J Am Acad Child Adolesc Psychiatry, 63: 586-604, 2024.
  • 8) Bloomfield MAP, et al.: Psychological processes mediating the association between developmental trauma and specific psychotic symptoms in adults: a systematic review and meta-analysis. World Psychiatry, 20: 107-123, 2021.

執筆者:高津心音メンタルクリニック 院長 宮本浩司

  • 精神保健指定医
  • 日本精神神経学会認定専門医・指導医

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