公開日 2024.8.19
検査の種類
ADHDの心理検査では、主に以下の心理検査などが行われます。
- WAIS-Ⅳ知能検査(Wechsler Adult Intelligence Scale-Fourth Edition)
- CAARS(Conners' Adult ADHD Rating Scales)
- CAADID(Conners' Adult ADHD Diagnostic Interview For DSM-Ⅳ)
通常はADHDの診断補助目的にWAIS-Ⅳに、CAARS等を組み合わせて検査が行われます。
ASDの併存、鑑別などの判断材料としてAQ-J(AQ日本語版自閉症スペクトラム指数)などを組み合わせることもあります。
WAIS-Ⅳ検査について
WAIS-Ⅳ検査では、全体的な認知能力を表す全検査IQ(FSIQ)と、言語理解、知覚推理、ワーキングメモリー、処理速度の4つの指標を算出します。
15の下位検査があり、全検査IQ、言語理解、知覚推理、ワーキングメモリー、処理速度の指標と合わせてみることで、ディスクレパンシー(指標間の差異)、強みと弱みが把握できます。
ADHD群と他の疾患を比較した研究では、ADHD群では、全検査IQと言語理解力が低いことが報告されています1)。
ADHDでは、WAIS-Ⅳ検査より前に使用されていたWAIS-Ⅲ検査の頃より、ワーキングメモリーと処理速度の指標が低いことが報告されていました2)、(図1)。
図1 ADHDと定型発達のWAIS-Ⅲ検査所見
ワーキングメモリーは一時的に情報を記憶し、その情報を処理する能力です。
ワーキングメモリーの弱さは以下のような弱みが生じます。
- 注意散漫
- 聞き間違い
- 計算が苦手
処理速度は情報処理のスピードや筆記能力を反映します。
処理速度の弱みは以下のような弱みが生じます。
- 視覚情報の素早い判断が苦手
- 書き取りが遅い
- 急かされるとミスする
このため、ADHDでは、とりわけワーキングメモリーと処理速度の弱みを把握することが有用です。
一般に集中困難以外に、「同時作業ができない」、「マルチタスクが苦手」といった困り感の訴えでADHDを気にされる方が多いですが、ワーキングメモリー(ワーキングメモリータスク)だけでなく、処理速度も大きくかかわります。
また、同時作業の困難さは、ASDの分割的注意の障がいにも多くみられる特性で、ASD傾向の併存、鑑別も重要になります3)、(図2)。
図2 ASDの分割的注意の障がい
一方で上記図1の報告では、定型発達群でもフラットな波形になるのはむしろ珍しく、慎重に解釈する必要がると著者らは述べていて、重要な指摘と言えます。
WAIS-Ⅳ検査でも同様に、ワーキングメモリーと処理速度能力の低下がみられると報告されており4)、これらは代表的なADHDの所見として診断の補助に用いられてきました。
2024年5月にWilsonはASDとADHDのWAIS-Ⅳ所見のレビューを報告しています5)。
その中で、処理速度低下はよりASDと相関し、ADHDでは、ワーキングメモリーの低下との相関がみられることを報告しています(図3)。
図3 ASD・ADHDのWAIS-Ⅳ検査所見(下位検査)
2017年に、Kanaiらは、世界で初めてWAIS-Ⅲに基づくASDとADHDの認知プロファイルの違いの解析を行い、結果を報告しています6)。
報告ではASD、ADHDいずれも言語性IQが動作性IQよりも有意に高い結果でした。
この言語性IQ(VIQ)>動作性IQ(PIQ)ディスクレパンシーは発達症の代表的な所見として、診断の補助に使用されてきました。
言語性IQはADHDよりASDが高い結果でした(図4)。
図4 ASD・ADHDのWAIS-Ⅲ検査所見
ADHDはASDと比較し、算数と数唱の結果が有意に悪い結果でした。
ASDでは絵画完成のスコアが低い結果でした(図5)。
図5 ASD・ADHDのWAIS-Ⅲ検査所見(下位検査)
ASDでも、ワーキングメモリータスクが定型発達群と比較し、弱いことが報告されています7)。
Leibらは、ワーキングメモリーと処理速度を分析し、ADHDでは異なる4つのグループに分けられることを報告しています8)、(図6)。
図6 ADHDにおけるワーキングメモリーと処理速度の異なる4つのプロファイル
グループ1は平均よりやや下、グループ2はおおむね平均、グループ3はワーキングメモリーが処理能力より高い、グループ4は処理能力がワーキングメモリーより高いと分析しています。
ただし、グループ3に含まれたADHD群では、他のグループのADHD群と比較して、教育年数が長く、IQが高い傾向にあるなど、グループ間で背景にばらつきがあり、慎重な解釈を要します。
また、小児から青年にかけての言語的ワーキングメモリーの能力の解析では、年齢の増加に伴い、能力が漸減的に低下していることが報告されています9)、(図7)。
図7 ADHDの年齢による言語的ワーキングメモリーの変化
そのため、いわゆる大人の発達障がいでは、環境の負荷が増していくことで、成人になりADHDに気づくということもありますが、ワーキングメモリーの能力低下が徐々に進むことが合わさり、より顕在化するとも言えます。
ASDとADHDにおける性差を考慮した認知プロファイルの解析では、男性ではAQ-Jが、女性ではVIQ-PIQディスクレパンシーが検査指標して重要度が高いことが報告されています10)、(図8)。
図8 ASDとADHDの分類における特徴重要度
これらの結果から、WAIS検査にAQ-Jなどの他の検査を組み合わせて行い、結果を判読するとともに、年齢と性別を考慮した判読を要すると考えられます。
参考
- 1) Eberhard D, et al.: Cognitive functioning in adult psychiatric patients with and without attention-deficit/hyperactivity disorder. Brain Behav, 14: e3626, 2024.
- 2) Takeda T, et al.: Discrepancies in Wechsler Adult Intelligent Scale III profile in adult with and without attention-deficit hyperactivity disorder. Neuropsychopharmacol Rep, 40: 166-174, 2020.
- 3) Boxhoorn S, et al.: Attention profiles in autism spectrum disorder and subtypes of attention-deficit/hyperactivity disorder. Eur Child Adolesc Psychiatry, 27: 1433-1447, 2018.
- 4) Theiling J, Petermann F.: Neuropsychological Profiles on the WAIS-IV of Adults With ADHD. J Atten Disord, 20: 913-924, 2016.
- 5) Wilson AC.: Cognitive Profile in Autism and ADHD: A Meta-Analysis of Performance on the WAIS-IV and WISC-V. Arch Clin Neuropsychol, 39: 498-515, 2024.
- 6) Kanai C, et al.: Cognitive profiles of adults with high-functioning autism spectrum disorder and those with attention-deficit/hyperactivity disorder based on the WAIS-III. Res Dev Disabil, 61: 108-115, 2017.
- 7) Kiep M, Spek AA.: Executive functioning in men and women with an autism spectrum disorder. Autism Res, 10: 940-948, 2017.
- 8) Leib SI, et al.: Distinct Latent Profiles of Working Memory and Processing Speed in Adults with ADHD. Dev Neuropsychol, 46: 574-587, 2021.
- 9) Ramos AA, et al.: A meta-analysis on verbal working memory in children and adolescents with ADHD. Clin Neuropsychol, 34: 873-898, 2020.
- 10) Doi H, et al.: Transdiagnostic and sex differences in cognitive profiles of autism spectrum disorder and attention-deficit/hyperactivity disorder. Autism Res, 15: 1130-1141, 2022.
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