公開日 2023.10.16
作用・特徴
ミルナシプラン(先発医薬品名:トレドミン)は気分のしずみや意欲の低下を改善する作用を有する抗うつ薬です。
SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)という抗うつ薬のジャンルに属し、SNRIとしては日本ではじめて承認されました。
フランスのピエールファーブルメディカメン社により開発され、日本では旭化成ファーマ社より2000年から販売されています。
日本ではSNRIは他に、デュロキセチン(先発医薬品名:サインバルタ)、ベンラファキシン徐放剤(先発医薬品名:イフェクサーSR)が発売されていますが、デュロキセチン(サインバルタ)と比較して作用が穏やかな特徴があります1)、(図1)。
図1 各SNRIのセロトニン5-HT再取り込み阻害作用・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用の強さ
デュロキセチン、ベンラファキシンと比較して、セロトニン再取り込み阻害作用よりもノルアドレナリン再取り込み阻害作用が強いことがわかっています1)、(図2)。
図2 各SNRIのセロトニン再取り込み阻害作用/ノルアドレナリン再取り込み阻害作用
デュロキセチンでは作用が強すぎて、副作用が生じ、使用できない場合でも、ミルナシプランを使用することでSNRIの治療が可能な場合があります。
また、ミルナシプランは肝臓での代謝の影響が少なく、肝障害のリスクが低いことがわかっています2)、3)、(図3)。
図3 抗うつ薬の肝障害発症のリスク
そのため、肝炎等の肝疾患を有するうつ病に使用される場合があります。
デュロキセチンと同じく、疼痛に対する治療にも使用されますが、作用が穏やかなため、デュロキセチンより効果は劣ります。
デュロキセチンもミルナシプランも米国では線維筋痛症に対し、保険承認を得ていますが、効果の比較ではデュロキセチンが上回る結果でした4)、5)、(図4)。
図4 線維筋痛症に対する治療薬の有効性と忍容性の比較
剤型
剤型は12.5mg錠、15mg錠、25mg錠、50mg錠があります(図5)。
図5 ミルナシプラン(先発医薬品:トレドミン)の剤型
効能・効果
効能・効果はうつ病・うつ状態で承認を得ています。
米国ではうつ病では保険承認を得ておらず、線維筋痛症に対し承認を得ています。
用法・用量
通常、成人では、1日25mgを初期用量とし、1日100mgまで漸増し1日2~3回に分けて食後に内服します。
なお、年齢、症状により適宜増減します。
ただし、高齢者には、1日25mgを初期用量とし、1日60mgまで漸増し、1日2~3回に分けて食後に内服します。
薬物動態
ミルナシプラン(トレドミン)を1回内服した際の血中濃度は、約2~3時間後に最高濃度に達し、約8時間後に半減します(図6)。
図6 ミルナシプランを1回内服した際の血中濃度の推移
ミルナシプラン(トレドミン)を毎日内服すると、5日目に一定の濃度に維持されます(図7)。
図7 ミルナシプランを毎日内服した際の血中濃度の推移
空腹時に内服すると、食後内服にくらべ、最高血中濃度が低下します。
ミルナシプラン(トレドミン)は約55%が未変化のまま尿中に排泄されます。
約8%が肝臓で脱エチル化され、N-デスメチルミルナシプランとして、尿中に排泄されます。
約20%が肝臓でグルクロン酸抱合され、ミルナシプランカルボニルO-グルクロニドとして、尿中に排泄されます6)、(図8)。
図8 ミルナシプランの肝臓での代謝
肝臓での代謝にはCYP3A4が関与しますが7)、各CYPの阻害作用は有さないことが示されています(薬物相互作用のリスクが低くなります)。
副作用
承認時までの調査では、調査症例467例中179例(38.33%)に副作用発現を認め、主なものは以下でした(図9)。
- 口渇(7.49%)
- 便秘(5.78%)
- 悪心(4.98%)
- 眠気(4.07%)
- ALT増加(2.36%)
- 血中トリグリセリド増加(1.71%)
- 浮動性めまい(1.5%)
図9 ミルナシプランの主な副作用
離脱症候群のリスクはデュロキセチン、ベンラファキシンと比較して低いことが報告されています8)。
海外での動向
現在、米国ではミルナシプランの鏡像異性体(エナンチオマー)であるレボミルナシプラン(販売名:Fetzima)が2013年に承認され、使用されています(図10)。
図10 ミルナシプランとレボミルナシプランの化学構造式
レボミルナシプランはミルナシプランよりもSNRIとしての作用が強いことが報告されています9)、(図11)。
図11 ミルナシプランとレボミルナシプランのセロトニン5-HT・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用の強さ
忍容性はミルナシプランより優れているという十分な根拠は示されていません10)、11)。
参考
- 1) Vaishnavi SN, et al. : Milnacipran: a comparative analysis of human monoamine uptake and transporter binding affinity. Biol Psychiatry, 55 : 320-2, 2004.
- 2) Puozzo C, et al. : Lack of interaction of milnacipran with the cytochrome p450 isoenzymes frequently involved in the metabolism of antidepressants. Clin Pharmacokinet, 44 : 977-88, 2005.
- 3) Billioti de Gage S, et al. : Antidepressants and Hepatotoxicity: A Cohort Study among 5 Million Individuals Registered in the French National Health Insurance Database. CNS Drugs, 32 : 673-684, 2018.
- 4) Migliorini F, et al. : Pharmacological management of fibromyalgia: a Bayesian network meta-analysis. Expert Rev Clin Pharmacol, 15 : 205-214, 2022.
- 5) Farag HM, et al. : Comparison of Amitriptyline and US Food and Drug Administration-Approved Treatments for Fibromyalgia: A Systematic Review and Network Meta-analysis. JAMA Netw Open, 5 : e2212939, 2022.
- 6) Li F, et al. : Excretion and metabolism of milnacipran in humans after oral administration of milnacipran hydrochloride. Drug Metab Dispos, 40 : 1723-35, 2012.
- 7) Shelton RC. : Serotonin and Norepinephrine Reuptake Inhibitors. Handb Exp Pharmacol, 250 : 145-180, 2019.
- 8) Quilichini JB, et al. : Comparative effects of 15 antidepressants on the risk of withdrawal syndrome: A real-world study using the WHO pharmacovigilance database. J Affect Disord, 297 : 189-193, 2022.
- 9) Auclair AL, et al. : Levomilnacipran (F2695), a norepinephrine-preferring SNRI: profile in vitro and in models of depression and anxiety. Neuropharmacology, 70 : 338-47, 2013.
- 10) He H, et al. : Efficacy and tolerability of different doses of three new antidepressants for treating major depressive disorder: A PRISMA-compliant meta-analysis. J Psychiatr Res, 96 : 247-259, 2018.
- 11) Cipriani A, et al. : Comparative efficacy and acceptability of 21 antidepressant drugs for the acute treatment of adults with major depressive disorder: a systematic review and network meta-analysis. Lancet, 391 : 1357-1366, 2018.
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