公開日 2024.10.15
インフルエンザウイルス感染とうつ病・精神病
インフルエンザ感染はうつ病の発症リスクを高めることが報告されています1)。
また、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、ヘルペスウイルス1および2(HSV-1およびHSV-2)、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタインバーウイルス(EBV)等のウイルス感染は統合失調症の発症リスクを高める可能性が示唆されています2)。
これらは新型コロナウイルス感染症の後遺症(Long-COVID)とメカニズムを共有しているとされています3)。
ウイルス感染に伴う末梢の炎症が炎症性サイトカインを増加させ、二次的な中枢神経機能障害を引き起こすモデルが提唱されています(図1)。
図1 ウイルス感染による末梢の炎症と二次的な中枢神経障害
炎症反応に加え、インフルエンザA型感染では、海馬におけるシナプス可塑性の阻害を惹起されることが、うつ状態、不安の原因になることが報告されています4)。
うつ病では感染症とは関係なく、中枢神経の炎症反応の亢進が関与していることが報告されています5)。
ウイルス感染では、炎症反応という同様の病態基盤を有していると言えます。
このため、インフルエンザウイルス感染でも、感染後に、Long-COVIDと同様に、倦怠感や、ブレインフォグも生じることがあることがわかっています3)。
インフルエンザウイルス感染と睡眠障害
インフルエンザウイルス感染は感染後のナルコレプシー1型の発症リスクに関連することが報告されています6)。
エプスタインバーウイスル感染は感染後のナルコレプシー2型または特発性過眠症の発症リスクに関連することが報告されています6)、(図2)。
図2 感染症とナルコレプシーの発症
これらには、ウイルス感染とうつ病・精神病の関連のように、脳内における何らかの免疫応答系の関連が示唆されています6)。
インフルエンザウイルス感染と認知症
A型インフルエンザに感染した高齢マウスでは、認知機能障害の遺伝子発現が促進することが示されています7)。
インフルエンザワクチン接種は認知症のリスクを低下させることが報告されています8)、(図3)。
図3 インフルエンザワクチン接種と認知症発症リスクの低下
Bukhbinderらは、インフルエンザワクチン未接種群と比較し、1回以上接種している群では、40%認知症の発症リスクが低下すると報告しています9)。
インフルエンザ感染では、インフルエンザウイルスに存在する赤血球凝集素(ヘマグルチニン)の活性化が重要な役割をはたします(図4)。
図4 インフルエンザウイルスの構造
インフルエンザ赤血球凝集素(ヘマグルチニン)の融合ドメインは、アルツハイマー型認知症の病因ペプチドとされているアミロイドβ-(1-42)と近似した構造を持つことが報告されています10)、(図5)。
図5 インフルエンザヘマグルチニンのドメイン構造とアミロイドβ-(1-42)構造の類似性
インフルエンザワクチンは炎症反応の抑制の他に、ヘマグルチニンに対する抗体を通じて、感染を予防するとともに、体内への侵入を防止することが、認知症発症低下のメカニズムの1つであることが示唆されています9)。
身体的な面だけでなく、長期的な精神神経学的な観点からも、コロナ同様にインフルエンザに対する感染予防が推奨されます。
参考
- 1) Bornand D, et al.: The risk of new onset depression in association with influenza--A population-based observational study. Brain Behav Immun, 53:131-137, 2016.
- 2) Kotsiri I, et al.: Viral Infections and Schizophrenia: A Comprehensive Review. Viruses, 15: 1345, 2023.
- 3) Volk P, et al.: Long-term neurological dysfunction associated with COVID-19: Lessons from influenza and inflammatory diseases? J Neurochem, 168: 3500-3511, 2024.
- 4) Wang S, et al.: Influenza A Virus PB1-F2 Induces Affective Disorder by Interfering Synaptic Plasticity in Hippocampal Dentate Gyrus. Mol Neurobiol, 61: 8293-8306, 2024.
- 5) Moulton CD, et al.: Activation of the interleukin-23/Th17 axis in major depression: a systematic review and meta-analysis. Eur Arch Psychiatry Clin Neurosci, 2024.
- 6) Gool JK, et al.: Potential immunological triggers for narcolepsy and idiopathic hypersomnia: Real-world insights on infections and influenza vaccinations. Sleep Med, 116:105-114, 2024.
- 7) Wu W, et al.: Influenza virus infection exacerbates gene expression related to neurocognitive dysfunction in brains of old mice. Immun Ageing, 21: 39, 2024.
- 8) Veronese N, et al.: Influenza vaccination reduces dementia risk: A systematic review and meta-analysis. Ageing Res Rev, 73:101534, 2022.
- 9) Bukhbinder AS, et al.: Risk of Alzheimer's Disease Following Influenza Vaccination: A Claims-Based Cohort Study Using Propensity Score Matching. J Alzheimers Dis, 88: 1061-1074, 2022.
- 10) Crescenzi O, et al.: Solution structure of the Alzheimer amyloid beta-peptide (1-42) in an apolar microenvironment. Similarity with a virus fusion domain. Eur J Biochem, 269: 5642-8, 2002.
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