レム睡眠行動障害の症状・診断・治療について｜川崎市の高津心音メンタルクリニック高津区溝の口心療内科精神科

公開日 2025.2.25

症状

レム睡眠行動障害では、夢や悪夢の内容に伴った行動がレム睡眠中におこり、部屋の壁やパートナーを殴る、蹴るなどの危険な行為が生じる疾患です。

発症当初の軽症時は悪夢に伴い、うなされて一人事を言う程度ですが、徐々に大声で怒鳴ったり、手足が動くようになります。

その後、立ち上がったり、部屋の中を歩きまわるなどの行動障害に発展します。

診断

米国精神医学会では以下のように診断基準をもうけています。

A. 睡眠中に、発声および/または複雑な運動行動を伴う覚醒エピソードの反復
B. これらの行動はレム睡眠中に生じ、したがって、通常は入眠から90分以上経過して、睡眠時間の後半により多く起こるが、昼寝の間に起こることは多くない
C. これらのエピソードから覚醒するとき、その人は完全に覚醒しており、敏感であり、混乱や失見当識はない
D. 以下のうちのいずれかがあてははまる：
（1）ポリソムノグラフィ記録で筋緊張消失を伴わないレム睡眠
（2）レム睡眠行動障害を示唆する既往があり、シヌクレイン病（例：パーキンソン病、多系統萎縮症）の診断が確定している
E. その行動は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害をひきおこしている（自傷または一緒に床につく人への障害を含んでいるかもしれない）
F. その障害は、物質（例：物質乱用、医薬品）による生理学的な作用、または他の医学的疾患によるものではない
G. 併存する精神疾患または医学的疾患では、そのエピソードを説明できない

疫学

有病率は約0.5～2％とされています1）。

高齢男性でリスクが高いとされています。また、特発性レム睡眠行動障害の発症は女性と比べ、男性の方が早いと報告されています2）。

当事者本人またはパートナーのケガは48～77％に及ぶとされています3）。

特発性レム睡眠行動障害の約90％は長期追跡中に何らかの神経変性疾患を発症するとされています。

パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症などのα-シヌクレイノパチーと関連していることがわかっています1）。

飲酒、抗うつ薬（SSRI）の内服、殺虫剤への暴露、2型糖尿病、テストステロンの高さはリスク因子とされています4）～8）。

また、うつ病、精神疾患、虚血性心疾患の罹患もリスクとされています5）、6）。

病態

レム睡眠中は、夢をみてもアトニア（atonia）と呼ばれる筋肉の弛緩した状態となります。

レム睡眠中は、眼球が活発に動き（rapid eye movement : REM）、夢に左右されて体が動くのを抑制する体の防御作用ともいえます。

アトニアは、脳の黒質-線条体-皮質という部位が関与しているとされています。

レム睡眠行動障害では、この、黒質-線条体-皮質という部位にα-シヌクレインという病原物質が蓄積します。

その結果、黒質-線条体-皮質でノルアドレナリン作動性ネットワークとコリン作動性ネットワークが正常な働きができなくなり、アトニアの機能が障害され、行動障害が生じるとされています9）。

治療

以下の薬剤が有効であることが報告されています10）～12）。

クロナゼパム（医薬品名：ランドセン・リボトリール）
メラトニン（医薬品名：メラトベル）（日本では16歳未満の小児のみ保険適応）
ラメルテオン（医薬品名：ロゼレム）
抑肝散
プラミペキソール（医薬品名：ビ・シフロール）
経皮リバスチグミン（医薬品名：リバスタッチパッチ）

薬物治療以外に寝室の環境を安全に保ちことが役立ちます。

具体的には、以下等が挙げられます。（文献1より引用、一部改変）

ベッドを低くする、布団にかえる。
家具をマットやクッションで保護し、ケガの予防を行う。
パートナーへの被害を防ぐため、パートナー（または本人は）別室で寝てもらう。

また、アルコール使用は症状を悪化させるため、特に就寝前の飲酒は控える必要があります。

うつ病やPTSDなどの原疾患も悪化因子となるため、治療のコントロールを慎重に継続する必要があります13）、（図1）。

図1 特発性レム睡眠行動障害のリスク

特発性レム睡眠行動障害のリスク

2025年1月に報告された中国の研究では、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症等のα-シヌクレイノパチーへの移行率は、3年後で16.3%、5年後で27.6%、10年後で57.2%の結果でした。

この研究では、お茶の飲むと移行のリスクが低下する結果であり、毎日のお茶の摂取は一定の予防効果の可能性が示唆されます14）、（図2）。

図2 特発性レム睡眠行動障害に対するお茶の効果

特発性レム睡眠行動障害に対するお茶の効果

（今回の研究ではお茶の種類は限定されず、どの種類のお茶の摂取もお茶として統計解析されています。）

また、日焼け止めの使用も予防効果の1つに挙げられています15）。

不眠や睡眠に関するお悩みがあれば、お早目に精神科・心療内科に受診することをおすすめします。

参考

1） St Louis EK, Boeve BF.: REM Sleep Behavior Disorder: Diagnosis, Clinical Implications, and Future Directions. Mayo Clin Proc, 92: 1723-1736, 2017.
2） Li X, et al.: Sex differences in rapid eye movement sleep behavior disorder: A systematic review and meta-analysis. Sleep Med Rev, 71: 101810, 2023.
3） Sobreira-Neto MA, et al.: REM sleep behavior disorder: update on diagnosis and management. Arq Neuropsiquiatr, 81: 1179-1194, 2023.
4） Ma C, et al.: Alcohol consumption and probable rapid eye movement sleep behavior disorder. Ann Clin Transl Neurol, 5: 1176-1183, 2018.
5） Frauscher B, et al.: Comorbidity and medication in REM sleep behavior disorder: a multicenter case-control study. Neurology, 82: 1076-9, 2014.
6） Postuma RB, et al.: Risk factors for neurodegeneration in idiopathic rapid eye movement sleep behavior disorder: a multicenter study. Ann Neurol, 77: 830-9, 2015.
7） Zhang RY, et al.: The causal relationship between type 2 diabetes mellitus and isolated REM sleep behavior disorder: results from multivariable and network Mendelian randomization analysis. Front Endocrinol (Lausanne), 15:1408053, 2024.
8） Li FJ, et al.: High bioavailable testosterone levels increase the incidence of isolated REM sleep behavior disorder: Results from multivariable and network Mendelian randomization analysis. Sleep Med, 121:102-110, 2024.
9） Carli G, et al.: Impaired metabolic brain networks associated with neurotransmission systems in the α-synuclein spectrum. Parkinsonism Relat Disord, 81:113-122, 2020.
10） Que Z, et al.: The treatment efficacy of pharmacotherapies for rapid eye movement sleep behavior disorder with polysomnoraphy evaluation: A systematic review and meta-analysis. Heliyon, 8: e11425, 2022.
11） Matsui K, et al.; Effect of Yokukansan for the Treatment of Idiopathic Rapid Eye Movement Sleep Behavior Disorder: A Retrospective Analysis of Consecutive Patients. J Clin Sleep Med, 15: 1173-1178, 2019.
12） Howell M, et al.: Management of REM sleep behavior disorder: an American Academy of Sleep Medicine systematic review, meta-analysis, and GRADE assessment. J Clin Sleep Med, 19: 769-810, 2023.
13） Yao C, et al.: Risk factors for possible REM sleep behavior disorder: A CLSA population-based cohort study. Neurology, 92: e475-e485, 2019.
14） Yuan Y, et al.: Factors associated with phenoconversion of idiopathic rapid eye movement sleep behavior disorder: a prospective study. NPJ Parkinsons Dis, 11: 10, 2025.
15） Zhang RY, et al.: Causal associations between modifiable risk factors and isolated REM sleep behavior disorder: a mendelian randomization study. Front Neurol, 15:1321216, 2024.