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アルコール使用障害に対する薬物治療
最新の比較

公開日 2022.12.26

はじめに

アルコール使用障害(Alcohol Use Disorder:AUD)は従来のアルコール依存症に加え、アルコール依存や反復飲酒に伴い、対人関係上での問題が生じたり、社会生活への影響をきたす障害として定義されています1)。

アルコール使用障害はうつ病、双極性障害、ADHD、女性のパニック障害、逆境的小児期体験などに併発することが多いことがわかっています2)~6)。

また、社会的な孤立、孤独も障害に関与する大きな要因であり、新型コロナウイルス感染に伴う長引く自粛生活は、孤立、孤独の増加と、アルコール使用障害のリスクを高めたことが指摘されています7)、8)。

治療は心理社会的支援、自助グループへの参加などが主として行われ、補助的に薬物治療が行われます。

現在までのエビデンス

日本では以下の4剤がアルコール依存症に対する治療薬として承認されています(図1)。

  • ジスルフィラム(ノックビン)
  • シアナミド(シアナマイド)
  • アカンプロサート(レグテクト)
  • ナルメフェン(セリンクロ)

図1 アルコール依存症治療薬

ジスルフィラム(ノックビン)、シアナミド(シアナマイド)は、肝臓でアルコールから代謝されたアセトアルデヒドを酢酸に分解する、アセトアルデヒド脱水素酵素の働きを阻害します。

その結果、悪酔いの原因物質であるアセトアルデヒドの濃度が上昇し、嘔気、頭痛等が生じることから、抗酒剤と呼ばれています。

アカンプロサート(レグテクト)は、NMDAグルタミン酸受容体伝達を調整し、GABA受容体を間接的に調節し、飲酒欲求の軽減と断酒維持効果があり、断酒補助薬と呼ばれています。

ナルメフェン(セリンクロ)は脳内のモルヒネなどの麻薬が結合する受容体(オピオイド受容体)に作用し、本能的な快・不快の情動を調節することにより、飲酒欲求を低減することから、飲酒量低減薬と呼ばれています。

上記4剤以外に抗痙縮剤のバクロフェン(ギャバロン・リオレサール)、抗てんかん薬のトピナ(トピラマート)、ナルトレキソン(日本未承認)もアルコール使用障害への有効性が示唆されていました9)、10)、(図2)。

図2 アルコール依存症に対するバクロフェンとトピラマートの効果

最新のエビデンス

Bahji Aらは成人のアルコール使用障害に対する薬物治療の有効性と忍容性の比較の解析を行い、2022年11月に結果を報告しています11)、(図3)。

断酒の成功においては以下の順で優れている結果でした。

  • γ-ヒドロキシ酪酸(日本未承認)
  • バクロフェン(ギャバロン・リオレサール)
  • ジスルフィラム(ノックビン)
  • ガバペンチン(ガバペン)
  • アカンプロサート(レグテクト)
  • 経口ナルトレキソン(日本未承認)

図3 断酒の成功における薬剤の有効性の比較

ヘビードリンク(大量飲酒)の改善は以下の順で優れている結果でした(図4)。

  • ジスルフィラム(ノックビン)
  • バクロフェン(ギャバロン・リオレサール)
  • アカンプロサート(レグテクト)
  • 経口ナルトレキソン(日本未承認)

図4 ヘビードリンク(大量飲酒)の改善における薬剤の有効性の比較

忍容性ではバクロフェン(ギャバロン・リオレサール)、プレガバリン(リリカ)が優れている結果でした。

これらの結果から著者らは、断酒とヘビードリンクの改善には、アカンプロサート(レグテクト)、ジスルフィラム(ノックビン)、経口ナルトレキソン(日本未承認)が優れている結果であると述べています。

解析からは、バクロフェン(ギャバロン・リオレサール)も有効性及び忍容性で良好な結果であり、他の薬剤が副作用等で使用できない場合は、選択肢になりうると考えられます。

アルコール使用障害では抑うつ症状を併発することが多く、2020年にLi Jらはアルコール使用障害に伴ううつ症状に対する薬剤の有効性の比較の解析を行っています12)。

結果は以下の順に有効な結果でした(有効性(SUCRA)50%以上のみ記載)、(図5)。

  • SNRI/NRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤/ノルアドレナリン再取り込み剤)
  • ミルタザピン(リフレックス・レメロン)
  • 抗てんかん薬
  • アカンプロサート(レグテクト)
  • ブスピロン(日本未承認)
  • SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)
  • TCA(三環系抗うつ薬)

図5 アルコール使用障害に伴う抑うつ症状に対する薬剤の有効性の比較

アルコール依存での長期のアルコール大量飲酒を急に中断した際には、アルコールの離脱症状(アルコール離脱症候群)が生じることがあります。

主な症状に手の震え、けいれん、せん妄、不眠、寝汗、不安、焦燥感などがあります。

Bahji Aらはアルコール離脱症状に対する薬物治療の有効性と安全性の比較の解析を行い、2022年10月に結果を報告しています13)。

アルコール離脱によるけいれんには以下の順で有効な結果でした(図6)。

  • ジバルプロエクス(日本未承認)
  • クロルジザゼポキシド(コントロール・バランス)
  • ロラゼパム
  • ジアゼパム(セルシン・ホリゾン)、クロルメチアゾール(日本未承認)

図6 アルコール離脱けいれんに対する薬剤の有効性の比較

アルコール離脱振戦せん妄にはジアゼパム(セルシン・ホリゾン)のみ有効性が認められました。

カルバマゼピン(テグレトール)は離脱症状の改善スコアの結果は良好であったものの、忍容性は低い結果でした。

おわりに

アルコール使用障害では、心理社会的支援に加え、断酒と断酒の維持が治療の中心となっていました。

現在、断酒のみに治療の焦点を絞らず、徐々に飲酒量を減らす「減酒」と、アルコール使用により生じる健康問題や、社会生活上の悪影響を減らす「ハームリダクション」という治療概念が広がりつつあります。

治療目標に合わせた薬剤を使用することで、より効果的に治療が前進することが期待されます。

文献

  • 1)DSM-5. 精神疾患の診断・統計マニュアル. American Psychiatric Association, 2014.
  • 2)McHugh RK, Weiss RD. : Alcohol Use Disorder and Depressive Disorders. Alcohol Res, 40 : arcr.v40.1.01, 2019.
  • 3)Di Florio A, et al. : Alcohol misuse in bipolar disorder. A systematic review and meta-analysis of comorbidity rates. Eur Psychiatry, 29 : 117-24, 2014.
  • 4)Roncero C, et al. : Psychiatric Comorbidity in Treatment-Seeking Alcohol Dependence Patients With and Without ADHD. J Atten Disord, 23 : 1497-1504, 2019.
  • 5)Chang HM, et al. : Sex differences in incidence and psychiatric comorbidity for alcohol dependence in patients with panic disorder. Drug Alcohol Depend, 207 : 107814, 2020.
  • 6)Hughes K, et al. : The effect of multiple adverse childhood experiences on health: a systematic review and meta-analysis. Lancet Public Health, 2 : e356-e366, 2017.
  • 7)Killgore WDS, et al. : Alcohol dependence during COVID-19 lockdowns. Psychiatry Res, 296 : 113676, 2021.
  • 8)Wakabayashi M, et al. : Loneliness and Increased Hazardous Alcohol Use: Data from a Nationwide Internet Survey with 1-Year Follow-Up. Int J Environ Res Public Health, 19 : 12086, 2022.
  • 9)Kranzler HR, Soyka M. : Diagnosis and Pharmacotherapy of Alcohol Use Disorder: A Review. JAMA, 320 : 815-824, 2018.
  • 10)Jose NA, et al. : Comparison between baclofen and topiramate in alcohol dependence: A prospective study. Ind Psychiatry J, 28 : 44-50, 2019.
  • 11)Bahji A, et al. : Pharmacotherapies for Adults With Alcohol Use Disorders: A Systematic Review and Network Meta-analysis. J Addict Med, 16 : 630-638, 2022.
  • 12)Li J, et al. : Efficacy of pharmacotherapeutics for patients comorbid with alcohol use disorders and depressive symptoms-A bayesian network meta-analysis. CNS Neurosci Ther, 26 : 1185-1197, 2020.
  • 13)Bahji A, et al. : Comparative efficacy and safety of pharmacotherapies for alcohol withdrawal: a systematic review and network meta-analysis. Addiction, 117 : 2591-2601, 2022.

執筆者:高津心音メンタルクリニック 院長 宮本浩司

  • 精神保健指定医
  • 日本精神神経学会認定専門医・指導医

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