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044-455-7500セルフコンパッション(self-compassion)とは、苦しい状況にあるときや失敗したときに、自分自身を過度に批判するのではなく、大切な人に接するのと同じように、自分自身にも理解と思いやりを向けることを意味します1)。
このような自己批判や反芻思考と深く関係している心理学的概念の一つです。
セルフコンパッション研究で知られる心理学者クリスティンネフは、セルフコンパッションを大きく3つの要素から説明しています。
失敗したときに、「どうして自分はこんなこともできないんだ」と自分を責めるのではなく、
「失敗してつらいと感じているんだな」「今できることを考えてみよう」と、自分自身に理解と思いやりを向ける態度です。
対極にあるのが自己批判(self-judgment)です。
苦しい出来事が起こると、「こんな失敗をするのは自分だけだ」「ほかの人はうまくできているのに、自分だけできない」と考えてしまうことがあります。
しかし、失敗、挫折、病気、人間関係の問題などは、程度の差はあっても誰もが経験します。
「苦しんでいるのは自分だけではない」と理解することを、共通の人間性(common humanity)と呼びます。
その反対が、孤立感(isolation)です。
つらい感情を無理に消そうとするのでも、その感情に完全にのみ込まれてしまうのでもなく、
「今、自分は悲しいと感じている」「今、不安が強くなっている」と、現在の自分の感情や思考をある程度客観的に認識する態度です。
対極にあるのが、感情や思考と自分自身を過度に一体化してしまう過剰同一化(over- identification)です。

セルフコンパッションという言葉から、「自分に甘くすることでは?」と思われるかもしれません。
しかし、セルフコンパッションは失敗を正当化したり、問題から目をそらしたりすることではありません。
例えば仕事でミスをしたとします。
自己批判が強い場合には、
失敗した
↓
自分はダメだ
↓
なぜ自分はいつもこうなのだろう
↓
過去の失敗まで思い出す
↓
さらに落ち込む
という流れが生じることがあります。
セルフコンパッションでは、
失敗した
↓
失敗してつらいと感じていることに気づく
↓
誰にでも失敗することはあると理解する
↓
必要以上に自分を攻撃しない
↓
原因を考えて次にできることを考える
という方向を目指します。
失敗を認めないのではなく、自己攻撃を減らしながら現実的に問題へ向き合うという考え方です。
セルフコンパッションと反芻思考
セルフコンパッションを考えるうえで重要なのが反芻思考(rumination)です。
反芻思考とは、過去の失敗や嫌な出来事、あるいは自分の欠点などについて、同じことを何度も繰り返し考えてしまう状態を指します。
例えば、
などの考えが繰り返されます。
ここに強い自己批判が加わると、
失敗 → 自己批判 → 反芻 → 抑うつ・不安 → さらに自己批判
という悪循環が形成される可能性があります。
セルフコンパッションでは、つらい思考そのものを無理に消そうとするのではなく、
その思考や感情に気づき、自分自身を攻撃し続けないことを重視します。
そのため、セルフコンパッションは反芻思考や自己批判を理解するうえでも重要な概念です。
セルフコンパッションとうつ症状の関連については、多くの研究が行われています。
特に、セルフコンパッションを高めることを目的とした心理的介入について、2023年に発表されたメタ解析では、36件のランダム化比較試験、2,960人を解析しています2)。
その結果、セルフコンパッションを中心とした介入は、対照群と比較して介入直後の抑うつ症状を改善する中程度の効果(SMD=0.44、95% CI 0.31–0.57)を示しました。
ただし、何もしない待機群などとの比較では効果が認められた一方、別の積極的介入を行うactive controlとの比較では統計学的に明確な差が確認されませんでした。
したがって、「セルフコンパッションだけでうつ病が治る」という意味ではなく、抑うつ症状を軽減するための心理的アプローチの一つとして期待されていると理解するのが適切です。
不安についても同じメタ解析で検討されています。
31件のRCT、2,508人を解析したところ、セルフコンパッションを中心とした介入によって、不安症状に小さい改善効果(SMD=0.36、95% CI 0.16–0.55)が認められました。
一方で、active controlとの比較では明確な差が確認されなかったため、効果を過大評価しないことも重要です。
セルフコンパッションは、不安そのものを「なくす」というより、
「不安になってはいけない」
「こんなことで不安になる自分は弱い」
といった不安に対する二次的な自己批判を減らすという点でも重要な考え方といえます。
セルフコンパッションと混同されやすいのが、自尊心(self-esteem)や「自己肯定感」です。
自尊心では、
という自分自身に対する評価が重要になります。
一方、セルフコンパッションでは、
「うまくできない自分であっても、必要以上に攻撃しない」ことを重視します。
つまり、
自尊心:自分をどう評価するか
に対して、
セルフコンパッション:苦しんでいる自分にどう接するか
という違いがあります。
このためセルフコンパッションは、むしろ失敗したとき、挫折したとき、自信を失ったときに重要になります。
セルフコンパッションを評価する代表的な心理尺度として、Self-Compassion Scale(SCS)があります。
SCSでは、
という6つの側面を評価します。
日本では、日本語版Self-Compassion Scale(SCS-J)が作成され、その信頼性・妥当性が検討されています。
日本語版の研究でも、セルフコンパッションは自尊心や精神的健康との関連を示しました。
セルフコンパッションを取り入れた代表的な心理的アプローチには、Mindful Self-Compassion(MSC)やCompassion-Focused Therapy(CFT)などがあります。
また、マインドフルネスを取り入れた心理療法では、自分の思考や感情を「事実そのもの」として受け取るのではなく、一つの心理現象として観察する練習を行います。
例えば、
「私はダメな人間だ」ではなく、
「今、『私はダメな人間だ』という考えが浮かんでいる」
と捉えてみます。
この小さな違いによって、思考と自分自身との間に心理的な距離をつくることができます。
セルフコンパッションは、「自分は素晴らしい」と思い込むことでも、
「失敗しても気にしなくてよい」と考えることでもありません。
大切なのは、「苦しんでいるとき、自分自身にどのような言葉をかけているか」です。
同じ失敗を親しい友人がしたときには、
「そんなに自分を責めなくてもいいよ」
「失敗することは誰にでもあるよ」
「次にどうすればいいか一緒に考えよう」
と言えるのに、自分自身に対してだけ、
「どうしてこんなこともできないんだ」
と厳しい言葉を向けていることがあります。
そんなとき、
「もし大切な人が同じことで苦しんでいたら、自分はどんな言葉をかけるだろう?」
と考えてみることが、セルフコンパッションへの第一歩になります。
セルフコンパッションとは、苦しいときや失敗したときに、自分を過度に批判するのではなく、自分への優しさ・共通の人間性・マインドフルネスをもって自分自身に接する態度です。
特に、自己批判が強い人や、失敗した出来事について何度も考えてしまう人では、セルフコンパッションという視点が役立つ可能性があります。
研究ではセルフコンパッションを高める心理的介入によって、抑うつ、不安、ストレスなどが軽減する可能性が示されています。ただし研究のバイアスリスクなどの限界もあり、うつ病や不安症に対する標準治療の代わりになるものではありません。
「自分を評価する」のではなく、「苦しんでいる自分にどう接するか」
という視点を持つことが、セルフコンパッションの中心にあります。
・1)Neff KD.: Self-Compassion: An Alternative Conceptualization of a Healthy Attitude Toward Oneself. Self and Identity, 2: 85–101, 2003.
・2)Han A, Kim TH.: Effects of Self-Compassion Interventions on Reducing Depressive Symptoms, Anxiety, and Stress: A Meta-Analysis. Mindfulness (N Y), 5:1-29, 2023.

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